第76話 ゲームマスター ⑤ 三人称
トロッコ問題。
暴走したトロッコ、その先の線路には5人の作業員がいる。
助けるには分岐点で線路先を変えなければならないが、変更先にも1人の作業員が居る。
自分が線路分岐の選択を強いられた場合どちらを選ぶかを問われる。
第二ミッションはその改変版。
『親しい同僚1人、見ず知らずの4人。助けれるのは片方だけだ』
第二ミッションの概要を聞き苦悶の表情を浮かべる高木刑事。
それを見て
『第二ミッションはどちらを選ぼうとクリアだ。助けた者と第三以降のミッションに挑んでもらうことになる』
トロッコ問題に正解は存在しない。それに倣って第二ミッションではどちらを選ぼうと次へ進める。
『あぁ、どちらも選ばないという選択肢もあるな、だがこれはお勧めしない。この先のミッションは3人以上で有利になることは無いが、1人では悲惨な最後を迎えることになる』
このルール説明には、暗にミッションはまだまだ続くのを伝えると同時にヒントも隠されている。
だが今の高木刑事はそれに気づけるほど冷静ではなかった。
「おいっ!両方助ける方法を教えろ!」
『ん?高木刑事はトロッコ問題を知らないのか。そんな選択肢はない』
高木刑事もトロッコ問題ぐらいは知っている、両方助けたいという考えしか頭にないのだ。
『警察官の正義が試される時だぞ』
典型のトロッコ問題では、どちらも面識のない設定なので1人を犠牲に5人を助けると答える人が80%以上という統計データがある。
だが、その1人を親しい人間に変えた場合、結果は逆転するだろう。
では「法を犯す悪を捕まえ、弱きを助ける」を正義と掲げる警察官はどちらを選ぶのか。
第二ミッションは
『タイムリミットは5分。先の半分だが、ボタンを押すだけなら有り余る時間だろう』
モニターの上部に今度は【05:00】とタイマーが表示される。
「5分だと…、ふざけるな!両方を解放しろ!!」
『解放したい方を選べと言っている。他に質問がなければ始めるぞ』
「待てゲームマスター、僕から質問がある」
『何かな?氷川刑事』
氷川刑事も状況を理解出来ていないが「出せ!」「止めろ!」と叫んだところで意味はないことは察している。
「爆死した男は自分の意思でゲームに出場したと言っていたな、だが僕も高木刑事も自分の意思ではない。これは不公平なゲームじゃないか?」
そして今出来る最善は少しでも時間を稼ぎ、情報を聞き出す事だと考えた。
『高木刑事は我を悪と断じた。氷川刑事の考えはどうかな?』
「…あなたは何の為にこんなことをしている?」
『それは既に話した。時間稼ぎの会話なら即座にミッションを始めるぞ』
「…楽しむ為のショーという理由でこんなことをしているなら、あなたは紛れもない悪だ」
『ならばこれはお前等2人が望む状況だ』
「……どういう意味だ?」
『悪を捕まえたいのだろ、最終ミッションは我との直接対決だ。勝利出来れば正義の鉄槌を下すも法の裁きを受けさせるもお前達の自由』
『我に勝利出来ればだがな』
但し負けるつもりはそれ以上にない。
「悪を捕まえるにはミッションをクリアするしかない、だから「高木刑事は拒否しない」と言い続けている訳か」
『質問は以上かな?』
「待て!向こうの4人も鯨町のような犯罪者なのか?」
次は高木刑事の質問。
4人も大罪を犯した悪であるなら、助けるのは氷川刑事一択。
犯罪者を自らの手で殺していいとは考えないが、助けるなら無罪の人間。これは職業も親密差も人数も関係なく、正しい選択と言えるだろう。
『4人の素性は本人達から聞くと言い』
だが、そんな簡単な問題を
『しかし気を付けろ、話を聞くのに夢中になってタイムアップなど拍子抜けだからな』
5分はボタンを押すだけなら有り余る時間だが、4人を事情聴取するには短すぎる。
『一つだけ教えてやろう、その4人は我の仲間などではない』
これは寧ろ要らない情報と言える。知らなければ「悪の仲間かも?」という考えから氷川刑事を選択出来るからだ。
もちろん、それを分かっているからこそ、
『質問タイムは終わりだ』
「止めろ、始めるな!」
「待ってくれ、まだ質問がある!」
高木刑事と氷川刑事の言葉を無視して、
『第二ミッションスタート!』
ゲームを開始した。
部屋にブザー音が鳴り響き、【04:59】とタイマーが進む。
それと同時に押しボタンが青と赤それぞれの色に発光する。それは電源が入り、押せば鉄格子が開く事を意味している。
だが変化はそれだけでは無かった、”ゴゴゴゴ”と重い音が聞こえだす。
「この音は…?」
「っ!壁が動いてる!?」
動いているのは鉄格子で遮られた小さな部屋の壁だ。鉄格子を正面として左右から狭まるように動いている。
『トロッコ問題に
ナイスアイディアを披露するかのように話す
「嘘だろっ!?」
「いや、いやっー!」
「早くボタンを押して助けろ!」
「お願いだ助けてくれ!」
「これが、楽しむショーだと言うのか…」
「どこまでもふざけやがってっ!」
この場にはそれを褒める者はいない。
だが、違う会場には賞賛の声も上がっていた。
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