第75話 ゲームマスター ④


『………は?』


 予想の中でも一番良い反応をしてくれますね高木刑事。

 小声の「…ドッキリか」もしっかり拾えました。お客さん達も笑ってくれてますよ。


『…どういうことだ!?おいっ!どうなっている!?』


 理解不能な状態から自分に都合良い解釈をして落ち着き、しかし頭部が吹き飛ぶというさらに理解不能な光景を目の当たりにして、高木刑事は軽くテンパってます。

 

「くくくっ、何をそんなに喚いている高木刑事。殺し合いをさせられていると理解していただろ。…まさかドッキリとでも思っていたのかな?」


 分かっていながらも煽る。こういう会話で楽しませるところもゲームディーラーと違う点ですね。


『ドッキリじゃない……、本当の…殺し合い…』

「警官殺しは、10分以内に高木刑事を殺せばゲームクリア。報酬は即釈放、失敗は死。そういう条件でデスゲームに出場したのだよ」

『デスゲームだと…』

「ゲームと言っても、遺族の為に高木刑事が正義の鉄槌を下してほしかったんだがな。まぁ、不倶戴天の犯罪者だ、悪による爆死だったとしても遺族は文句言うまい」

『…ふ、ふざめるなぁ!こんなことが許されると思ってるのかぁ!!』


 煽られて怒りのまま声を荒げる高木刑事、単純でやり易いです。


「許さないと言うなら、ミッションをクリアし続けることだな」

『こんなイカレたこと、続けるわけないだろっ!!』

「言ったはずだ、高木刑事は拒否しないと」


 私は第二ミッションの準備開始の合図として指を鳴らす。このフィンガースナップも響く良い音が鳴らせるように結構練習したんですよ。


 合図の後、私の映るモニターから見て両サイドの壁が開く。壁と言ってもアクリル板でフィルムを貼って奥が見えないようにしていました。


 開いた両サイドのアクリル板の先にあったのは、頑丈な鉄格子で遮られた小さな部屋。

 片方の部屋には男性が1人、もう片方の部屋には男性3人と女性1人が居る。

 高木刑事は左右に首を向けた後、直ぐ立ち上がって男性1人の部屋に向かって走り出しました。


『氷川!?』

『先輩…』


 1人で部屋にいる氷川ひかわ 英雄ひでおは高木刑事の後輩であり相棒です。

 刑事は基本二人一組で調査します。学園の応接室で会った時高木刑事だけだったのは学園側が、生徒に威圧感を与えない為一人だけと条件をだしてたそうです。

 体力系強面タイプの高木刑事に対して、氷川刑事は頭脳系優男タイプと言った感じです。

 私が彼と会ったのは近衛君を発見した後、警察署で事情聴取された時です。高木刑事に強め口調で詰問され、次に氷川刑事が優しく話を聞いてくる。いわゆるアメとムチ戦法ですね。

 私は「あ、漫画で見たやつだ。自分で体験する日がくるとは」とちょっと楽しんでました。

 

『何故お前までここに?』

『分かりません。先輩の携帯から連絡があって、指定の場所に着いた後から記憶がありません』


 ここに居る時点で言うまでも無いと思いますが、氷川刑事も出場者です。


『ひ、人がし、死んだ…』

『…マジかよ』

『こんなの…』

『こ、ここから出してくれ!』


 反対側に居る4人も出場者。但し、


『……向こうの4人は氷川の知り合いか?』

『…いえ、見たところ知った顔は一人もいません』


 警察官でもなければ、高木刑事個人としても全く面識ない人達。


『高木刑事、鉄パイプで殴られてましたが大丈夫ですか?爆破の影響は?』

『いや、大丈夫だ。頭は混乱しているが……見えていたのか?』

『はい。高木刑事から見えいなかったなら、多分マジックミラーと同じ原理の壁だったのでしょう』


 私の代わりに説明してくれるとは、氷川刑事は親切な人ですね。


「第一ミッションは言わばチュートリアルのようなものだ。皆にもこれが命を賭けた本当のデスゲームだと理解してもらえただろう」


 もし高木刑事が殺されていたらチュートリアルでゲーム終了になり、この企画は大コケになるところでした。渡辺さんも安堵しているでしょう。


『氷川はこの状況をどう考えてる?』

『気絶して目が覚めたらデスゲーム、こんなのはフィクションの中だけと思っていましたが…』

『アタシもああなるの…』

『助かる方法は…』

『あんた警察なんだろ、助けろ』

『お願いだ、出してくれ』


 皆話を聞いてくれませんね。素人モノにはよくある事ですが。


「我の話は静かに聞いた方が良いぞ。五月蠅いという理由だけで首を吹き飛ばされたくはないだろ」


 これもゲームマスターの特徴の一つですが、気に入らないという理由だけで出場者を殺すことがよくあります。と言っても好き放題殺すわけではなく、ゲーム進行の邪魔となる出場者を見せしめに殺す感じです。

 

『!?…氷川、その首輪…』

『はい、死んだ男と同じ首輪型爆弾だと思います。見るに向こうの部屋の4人にも同じ首輪が。でも先輩にはついていませんね』

『ああ。だが今は奴の言う通りにするしかない…くそっ』


 今回は既に見せしめは済んでいますから、直ぐに静かになりました。


「では、第二ミッションの説明に入ろう」


 私は指を鳴らすと、部屋中央付近の天井から2本の握り押しボダン付コードが垂らされる。ナースコールのヤツみたいなのです、それぞれボタンの色は違いますけど。


「そのボタンを押す事で鉄格子が開く。青のボタンは1人が居る部屋の開錠、赤のボタンは4人が居る部屋の開錠。片方を押して開くと片方は押しても開かなくなる、同時に押した場合は作動しない」


 ここまで言えばお気づきでしょう。



「第二ミッションはトロッコ問題だ」

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