第74話 ゲームマスター ③ 三人称


『その望みが叶えらるのは高木刑事だけだ。さぁ、悪の警官殺しに正義の鉄槌を!』


 高木刑事は思わず鉄パイプを持つ手に力が入る。殺された警察官と面識はないが当時事件の話を聞いて心から怒りが込み上げた、遺族が処刑を望むほど恨む気持ちも分からなくはない。

 くれないの言葉を信じるわけではないが、鯨町が否定しないなら大半は事実なのだと考えれる。


「くそぉ~、死にたくねぇよ~」


 だからと言って、目の前で武器を取られて怯えている男を、自分が殺して良いかと問われれば、


「安心しろ、私はお前を殺さない」


 高木刑事は即座にいなと結論を出す。

 

「もう攻撃はしないから、落ち着いて話を聞いてくれ」


 高木刑事は武器を持っていない手を差し出しつつ、ゆっくりと鯨町に近づく。


「違う、違うんだっ。…あ、あいつが…」

「…あの女が、殺しに来るのか?」


 鯨町がモニターを見たのにつられて、高木刑事も視線をモニターに向ける。


「っ!あと3分も無い!?う、うあぁぁっ!」


 残り時間が僅かと知り鯨町はがむしゃらに突撃する。不意を突かれた高木刑事は腹に体当たりを喰らい後ろに倒れる。


「死ね死ね死ねぇー!」


 鯨町は馬乗りになり、拳を振り下ろす。


「止めろ!お前を殺そうする奴がいるなら、私が助けてやる!」


 上に乗っかかれながらも、鉄パイプで防御しつつ説得しようとする高木刑事。


「お前が死ねば殺されないんだよ!釈放してもらえる!」


 鉄パイプで防がれると殴れないので、先に鉄パイプを奪おうとする鯨町。


「釈放だと!?…あり得ない!私を殺したら釈放すると言われているなら、そんなのは嘘っぱちだ!」


 口で言い合いながら、手で鉄パイプを引っ張り合う二人。

 その様子は動きは少ないものの必死感は伝わってくる面白いショーにも見えた。


 しかし、ここで高木刑事の表情が変わる。


 自分で言って気づいたのだ。あり得ないと言うなら、囚人の鯨町 十三がここに居ることがあり得ないと。


 衝撃的な事件で犯人の名前が特徴的だった為覚えていたが、顔は写真で見ただけだから朧気で茶髪モヒカンの印象しかない。他は小柄な男性で自分と歳が近いという情報だけ。

 逆に言えば、小柄なアラサー男性を茶髪モヒカンにしたら高木刑事に見分けがつかない。ますことは簡単という事だ。

 囚人の鯨町がここに居るのではなく、誰かが鯨町の真似をしていると考える方がまだ常識的にあり得る。

 とするなら、このニセ鯨町は役者の類、モニターに映るゲームマスター紅も同様。そして、この状況を「ショー」「楽しませて欲しい」などの言葉から推測するなら、


「ドッキリか……」


 手の込んだ演出で、高木刑事の慌てふためく姿を見て楽しむドッキリショー。


 実在の犯罪者を模すなど不謹慎甚だしく、鉄パイプはやり過ぎとも思うが、

 高木刑事の常識的推測が導き出せる結論はこれしかなかった。

 何故自分がこんな目にとも思うが、命令無視して軽い違法捜査をしていた自覚もある。



「クソっ、クソくそぉっ!」

「……」


 高木刑事は残り時間は黙って、ニセ鯨町と鉄パイプの引っ張り合いを続けることにした。

 タイマーが【00:00】になったら”チャッチャラ~♪”と定番の音が鳴り『ドッキリ大成功!』とモニターに表示される。

 そう思い込んで。





 【00:00】


 部屋にブザー音が鳴り響く。


『タイプアップだ!第一ミッションクリア成功おめでとう高木刑事。そして、残念だったな警官殺し』

「ままま待ってくれ!頼むっ!殺さないでくれぇ!!」

(…たいした役者だ、ドッキリと気づけなければ演技とは思わなかっただろう。…しかし、第一ということはまだこんなドッキリに付き合わさ…)

『ミッションフェイルド失敗


 くれないが指を鳴らすと”ブオンっ!!”と首輪が爆発し、


 鯨町の頭部が吹き飛ぶ。


「……………は?」

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