第73話 ゲームマスター ②


 第一ミッションをスタートさせたので、一旦こちら側のカメラとマイクを切る。


「ふぅ~、これは神経を使いますね」


 私は今回、ゲームマスターを勤めています。


 ここまでで疑問に思った人もいるかもしれませんね。「ゲームディーラーとゲームマスターは何が違うんだ?」と。


 分かり易く言ってしまうと、

 ゲームディーラー:説明役+司会進行+審判。

 ゲームマスター:説明役+司会進行+ラスボス。

 となります。

 但し、これは全国共通設定ではありません。私の周りではそういう設定になっているという話です。

 とりあえず今は、最終ミッションで出場者が私と戦うことになる、とだけ分かって貰えれば支障ありません。


「流石だな紅、初めてのゲームマスター役もほぼ完璧だ」

 

 カメラに映らない位置で控えていた音重さんが、椅子をセットしてくれる。

 演技は主に音重さんが指導してくれました。初めは早乙女さんが指導する事になっていたのですが、あの人男女どっちでもイケるようで指導に託けてセクハラしてくるので交代させました。


完璧、ということは至らぬ点がありましたか?」

「そうだな、やはり色気が足りない」

「…音重さんまでセクハラですか?」

「色気とエロさは似て非なるモノだ。だが、こればっかしは年期が必要だろう」

「なら仕方ありませんね」

「ああ、18という年齢を加味すれば完璧さ」

 

 私はセットしてもらった椅子に座り、足を組んでポーズをとり試観モニターでカメラ映りを確認する。


「企画した時は、ここまでカメラ映りを気にして演技しないといけないなんて思いませんでした」

「今回は殺戮拷問ショー愛好の客が多いからより一層だな」


 第一支部のお得意様は殺戮拷問ショー愛好の方々。ショーは見栄えが大事、唯の司会進行役でも演技に手抜きは許されない。今回の裏の主役であるゲームマスターなら命がけで演技をしなくてはいけません。


 裏話は置いといて、

 今モニターには高木刑事と警官殺しの必死の追いかけっこが映っています。

 部屋は10㎡、鉄パイプ持ち相手でも逃げ回れる広さ。

 二人共年齢は20代後半でほぼ同じですが、高木刑事は警察官として逮捕術等を学んでいます、学生時代は空手部で有段者。対して警官殺しは武道経験無し、学生時代は帰宅部。

 返り討ちにして当然とも言える実力差です。


 今のところ、高木刑事に反撃する様子はなく、逃げながらめるよう声を投げかけるばかりです。

 逃げ回る警察官の絵面も笑えなくはないですが、直ぐに飽きられるでしょう。


 私はカメラとマイクをつけるように指示をだす。



「逃げ一辺倒だな高木刑事」

『っ!お前の目的は何だっ?』


 再度映ったモニターに気づき、逃げながらこちらに大声と飛ばす高木刑事。


「最初に言ったはずだ、我はショーを催したとな」

『ショーだと…』

「楽しませて欲しいのだよ。だがこのままではつまらない、もっとる気になって貰わないと困るな高木刑事」

『ふざけるなっ!悪の思惑になど絶対に乗らない!』


 さすが高木刑事、直ぐに正義や悪などの話をしたがる。


「くくくっ、何故我を悪と断ずる?」

『拉致監禁した二人に殺し合いを強要し、見世物として楽しんでいる!これが悪でなければ何だと言うんだ!』

「拉致監禁した二人…?あぁ、勘違いしているようだから教えてやろう。警官殺しは自らの意思でこのゲームに出場している」

『そんなわけが……おい、あいつの言ってることは本当か?』


 高木刑事が問いかけるも警官殺しは、


「うるせぇ!」


 と鉄パイプを振り回すだけ。


「疑問に思わなかったかね、彼を何故警官殺し呼んでいるのか。これは高木刑事を殺す相手という意味ではない、過去に警察官を殺しているからそう呼んでいるのだよ」


 通例なら茶髪モヒカンとかあだ名がついたでしょう。


「全国的に騒がれた事件だ。【ひったくり常習犯が追って来た警察官を鉄パイプで撲殺】聞き覚えがあるだろう?」

『……まさか、鯨町 十三…?』


 珍しいので名前まで覚えていたようです。

 警官殺しこと、鯨町くじらまち 十三じゅうぞうは殺人受刑者。即釈放をクリア報酬にゲームに出場しています。


「うらぁっ!」

「ぐっ…止めろ」


 おっ、会話に意識が向き過ぎてた高木刑事に鉄パイプがヒット。腕でガードしましたが、痛みに足が止まる。


『もういっちょ…』

『止めろと言っているだろっ!』

『ぐはぁっ…』


 痛みと命の危険にとうとう反撃に出た高木刑事。

 カウンターで正拳突きを鯨町の顔面に喰らわせる。さらに体勢が戻る前に鉄パイプを持つ手を蹴り上げる。

 鯨町の手から離れた鉄パイプを素早く回収する高木刑事。

 

「一気に形勢逆転だな、さすが高木刑事。はて?…さっき思惑には乗らないと言っていたようだが…、我の訊き間違いかな~」

『うるさい!黙れ!』

「そう言わず、話の続きをしようじゃないか」


 鯨町は鉄パイプを取られたことと、数分追い回してた疲れから動きを止めています。


「我を悪と断じたが、警官殺しも紛れもない悪だ。異論はあるかな高木刑事?」

『……彼が鯨町十三ならは確かに悪だ。しかし殺し合いをさせて良い理由にはならない』

「言ったはずだ彼は自分の意思でここに来たと。それに高木刑事に彼を殺して欲しいと望んでいる者も存在する」

『そんな奴がお前以外に居るはずが…」

「彼に殺された警察官の遺族だよ」

『っ!?…』

「遺族は処刑を望んだが、警官殺しに処刑判決は下されなかった。重い刑罰こそ下されたが、遺族が望むのは正義の鉄槌による死だ」


 ゲームマスターである為演技っぽい話方ですが全て本当の事です。

 遺族は裏業界とは全く関りの無い方々ですが、二つ返事で「お願いします」とのことでした。


「その望みを叶えらるのは高木刑事だけだ。さぁ、悪の警官殺しに正義の鉄槌を!」

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