第72話 ゲームマスター 三人称
「うぅ…ここは…?」
「…どこだ?何故私はこんなところに寝ていた?」
暗さに目が慣れ、周りを見渡すも何もない広い部屋という事しか分からない。
「……そうだ、清白家の犯罪証拠を探して……」
高木 忠義は警察官、階級は巡査部長。事件捜査に専従する私服警察官、いわゆる刑事である。
高木刑事は清白家について調べていた。
きっかけは高木刑事が担当した、とある男子が三日半拉致監禁された事件。その男子は生きて発見されたものの犯人については何も分かっていない。
唯一、手がかりとなり得そうなのが、その男子のクラスメイトであり想い人であり第一発見者代理の女子。
その女子は清白 美優、清白家の養女。
清白家は歴史ある名家であり日本屈指の財閥。その影響力は日本国内に留まらず世界規模である。
それ故か、警察も清白家を調べることを敬遠。高木刑事が何を言おうと「憶測だけで調査は出来ない」の一点張り。今までも細心の注意を払うように言われたことはあったが、頭ごなしに否定される事はなかった。
普通なら上の命令は絶対なのだが、高木刑事は仕事の合間の縫って私的に清白家を調べた。
上司からの再三の注意を無視し、寝る間を惜しんで蜘蛛の糸を手繰り寄せる思いで調べ、清白家が所有する怪しい倉庫の情報を聞きつけ潜入…。
そこで記憶は途切れていた。
「不法侵入で捕らえられたのか…?」
潜入していた高木刑事を、泥棒と判断し暴行して気絶させ、警察が来るまで部屋に閉じ込めている。
仮説としては成り立たなくもないが、事実は全く違っていた。
『お目覚めのようだな、高木刑事』
声と共に部屋の明かりがつき、壁の埋め込み型巨大なモニターに一人の女性が映し出された。
「……誰だ?」
高木刑事はその女性に見覚えなかった。というよりも女性は仮面をしていて顔が分からない。さらに服装も変だった、仮面と相まってまるで悪の女幹部のような見た目だ。
『我が名は紅。今宵の鮮血舞い上がる狂瀾ショーを催したゲームマスターである!』
わけが分からない。
それが高木刑事の率直な感想だった。
今が10月下旬なら「ハロウィンのイベントか?あの格好はコスプレか?」ともなるが、高木刑事の記憶では7月上旬。さすがに三か月も眠っていたとは考えられない。
『さぁ!ゲームを始めよう、高木刑事』
そんな高木刑事の心中などお構いなしに話を進める
「待て!説明しろ!」
『安心したまえ、ちゃんとゲーム説明はするさ』
「そうじゃない、ゲームなどする気は無い!」
『拒否権は認められない。いや、高木刑事は拒否しない』
「何?…どういう意味だ?」
『やってみた方が早い』
茶髪のモヒカン刈りで身長は低め体格は細め、Tシャツにジーパンと服装は普通だが首に金属製の首輪をつけおり、手には50㎝ほどの鉄パイプを握っている。
『第一のミッションは彼、警官殺しに殺されないことだ』
「何だと!?」
高木刑事の認否など関係なかった。この場にいる時点でゲームに出場しているのだから。
『高木刑事からの攻撃も可。殺してしまっても構わない』
「バカなことを言うな!」
『攻撃せず逃げ回っても構わない、10分間殺されなければ第一ミッションはクリアだ』
モニターの上部に【10:00】とタイマーが表示される。
『自分は素手で相手は鈍器持ち。不公平と思うかもしれないが、高木刑事ならこの程度のハンデは覆せると信じている。我を失望させてくれるなよ』
「何を言っている!?初めから説明しろ!」
『時期に分かるさ』
『では、ミッションスタート!』
ゲームを開始した。
部屋にブザー音が鳴り響き、【09:59】とタイマーが進む。
「ちきしょうっ、ヤルしかねぇ!うおぉぉおおっ!」
警官殺しが鉄パイプを振り上げて高木刑事に殴りかかる。
「なっ!?や、止めろ!私は攻撃しない、落ち着いてくれ」
咄嗟に後退して鉄パイプをかわし、説得を試みる高木刑事。
「関係ねぇ!さっさと死にやがれ!」
だが警官殺しは攻撃を止めない。
「どうして…?……これは、いったいどうなっているんだっ?」
わけがわからないまま、高木刑事は逃げ回る。
そんな様子を見て、笑い楽しむ者達がいることを彼が知るのは、もう少し先のことだ。
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