第71話 DB第二支部 ④


「僕の件は雑談だったんですか!」


 獅子頭部長の言葉に一番驚いてる渡辺さんが抗議味の声。


「本題とは仕事ということだ、仕事とは利益を上げること。渡辺がデスゲームに出場して会社に利益をもたらしてくれるなら、そっちを本題にするが?」

「あ、いえ…、口を挟んで済みません。続きをどうぞ」

「まず企画書を全員に渡すから見てくれ」


 獅子頭部長から渡された企画書の表紙には、


  ミッション系デスゲーム

   警察官の正義とは?



「あ、これ私の企画ですね」

 

 渡辺さんの処罰の話が前座であったので予想出来ていませんでした。

 そもそもこれは…、


「え?僕何も聞いてないんですけど紅さん」

「これは社内共有フォルダの『アイディアボックス』に入れた企画です」


 『アイディアボックス』は簡単に言えば目安箱。会社への要求や不満の意見も入れれますし、部署関係なく新しいデスゲーム企画を提案することも出来ます。


「渡辺さんが知らないのは『アイディアボックス』を確認していなからです」

「相談ぐらいしてくれても…」

「個人の意見を会社に知ってもらえるのが『アイディアボックス』の存在意義です。直属の上司の苦情書だって入れても良いんですよ」

「え、あ、…済みません。続きをどうぞ」

「渡辺、「続きをどうぞ」じゃない。支部長なのに『アイディアボックス』を確認していないのか?」

「いえ、その、忙しくて…」

「俺は暇だと言いたいのか」

「ひっ!す済みません、そそんなつもりは…」 

「お前はしばらく正座のまま黙ってろ」

「は、はいっ!」


 渡辺さんも不憫な人ですね。管理職の能力は低くないので表のホワイト企業に就職出来ていれば、人生安泰の暮らしを送れていたでしょう。ブラック企業から裏業界に転職してしまったばかりに…。


「早乙女は『アイディアボックス』に目を通しているか?」

「定期的に目を通してますが、デスゲーム企画なので中身は見ていませんでした」


 早乙女さんは質問に答えながらも視線は企画書に。部長に対しても失礼に思えますが、「見てくれ」と言われたのですから渡辺さんより正しい行動です。


「音重は?」

「俺はこの企画アイディアを読んだが…、紅の名は記入されていなかったはずだ」

「はい、『アイディアボックス』は匿名可ですし、発案者関係なく良い企画と思って貰えなければ意味はないので」


 私が企画したと分かると、多かれ少なかれ贔屓がありそうですから。


「なるほど……、紅の企画か…」

「音重の意見を聞かせてくれ」

「俺はこの企画を読んで面白いとは思った。しかし正直これはフィクションだなとも思えた、実際に行おうとしてもヤラセデスゲームになってしまうと。だから渡辺に伝えたりもしなかった」

「さすが元相棒、俺も初めは同じ意見だった」


 ヤラセデスゲームになってしましますか…、順調に進行した場合の結末まで書きましたから、そう判断されても仕方ありません。


「だが、書類の書き方が以前の紅の抗議書と似ている事に気づいてな」


 抗議書は脱出ゲームの編集版で、勝手に私に扮してのエロ映像が特典されていた件のですね。確かにこっちは紅の名を記入しましたし、書き方は似た様式になってます。


「紅の企画としたら、面白いデスゲーム型殺戮拷問ショーが出来上がるんじゃないかと俺は考えたんだ」

「……そう、それで私にも同行するように言った訳ね」


 流し読みですが早乙女さんも企画を大まかに理解したようです。


「つまり、第一第二合同企画」

「早乙女の率直な意見を聞かせてくれ」

「…主役の警察官、紅さんの企画なら当てはあるのよね?」

「種を蒔き、育ってます。実った時の収穫の準備がこの話し合い、ですよね獅子頭部長」

「ああ、そういうことだ」

「……準備が無駄になる可能性もあるわけね。でも…この企画が上手く行けば……、成功した場合の利益分配はどうなります?」

「第一に六割だ」

「6:4…それでは同意しかねますわ」

「違うぞ早乙女。第一6:第二2:紅2という分配だ」


 ん?…私に2?


「獅子頭部長、この会社は企画発案者へそんなに支払うんですか?」

「紅はこの企画のを自分でやるつもりだろ」

「私と仮定して企画したのは確かです」

「その仮定でいくと企画・進行・出演、全てに紅が関わることになる。それ故の配分だ」

「流石にそれは紅の負担が大き過ぎるだろう獅子頭。学校もあるんだぞ」

「それをお前等がサポートするんだ」

 

 ……腑に落ちませんね。実際に出来るかどうかは置いといて、若手に無茶ぶりしているのは獅子頭部長も理解しているはず。しかも、次回作もこけたら支部長の首が物理的に飛びかねない状況で。

 となれば…。


「上からの命令ですか?」


 私の質問に困った様に頬を掻く獅子頭部長。


「さっきも言ったが、DTカンパニーの人狼ゲームが大変好評だ、特に編集版は上半期人気ランキング上位に食い込むだろう」

「そんなに評判良いんですか。確かにとても上手く編集されてましたけど」

「DTカンパニーは技術力を売りにしてる会社だからな。とはいえ技術力が凄かろうと内容が悪ければ高評価は得られない。そして内容が良いのは紅が活躍によるところが大きい」


 褒めてるニュアンスではないですね。


「となれば上の人達はこう言う「看板娘でなに他社を儲からせとんだ!」とな」


 …これはお父様ではないですね。この会社の筆頭スポンサーですがデスゲームでの儲けは二の次と考えてますから、そもそも他社のゲームに私を出場するように言ったのがお父様でしょうし。

 会社の経営陣か、またはデスゲーム事業が金になるとだけ考えて投資している人達でしょう。


「さらに「何故自社ではこんなクソつまらんの作ってんだっ!!」と続くわけだ」


 そこも繋がるんですね。


「上にはデスゲームを全然分かってない連中も居てこう言う「紅を出場させば好評なんだから、次は全面的に押し出せ!」とな」

「それは本当に何も分かっていませんね」

「だろ!だが「何も分かってねぇ連中が口出しすんな!」とは言い返せない」

「仕事ですもんね」

「仕事だからな。どうするか考えながら何気なく『アイディアボックス』を眺めてたらこの企画が目に入ったわけだ」


 …なるほど、合点がいきました。


「荷が重いだろうが、やる気はあるか紅?」

「やる気はあります、失敗しても責任はとれませんが」

「安心しろ。責任は渡辺がとる」

「ぼ僕ですか!?」

「なら断る理由は何も無いですね」

「ええぇっ!?」

「それなら第一も乗るわ。どう転んでも旨味があるし、どんな形にしろ紅さんと仕事してみたいしね」

「よし、決定だな」

「そんなぁ……音重さ~ん」

「観念して死ぬ気で企画を成功させろ。失敗したら俺も一緒にデスゲームに出場てやる」


 音重さんは見た目に反して、イケボで台詞まで男前です。


「それにこの企画は、紅の発案で、獅子頭が選んで、早乙女が応じたんだ。この意味が分からんほどバカじゃないだろ」

「あっ!この企画は成功間違い無し!!」

「そこまでは言わないが、失敗よりも大きく成功させることを考えろ」

「分かりました音重さん」


 チョロいですね、チョロ辺さんと呼んで良いレベルです。


「紅さん、企画成功させる為に僕を上司と考えず、何でも遠慮なく言ってください!」


 元から遠慮なく何でも言ってますけどね。

 

「そう言うなら…とりあえず、残ってる事務仕事終わらせてください」

「今日三人は事務仕事の為に出勤してたんだったな」

「私の割当分はもう終わっています。獅子頭部長と早乙女さんはまだ時間ありますか?さっそく企画の曖昧なところ固めたいのですが」

「やる気満々だな。時間はあるし企画の打ち合わせは俺も望むところだ」


 これで終わりという程、ギチギチスケジュールで来るわけありませんものね。


「だが、渡辺と音重は抜きで良いのか?」

「警察内部にどれだけ根回し出来るかを把握しているのは、獅子頭部長だけですよね」

「ああ、その点に関しては俺が対応することになる」

「なら問題ありません。早乙女さんにはこの企画に上手く組み込めるエロ要素のアドバイスをお願いします。私はそちら方面が疎いもので」

「良いわよ~。手取り足取り教えてあげるわ」

「私自身はエロNGなので、出場者を上手くエロ展開に持ち込むアドバイスをお願いします」

「駄目よー。紅さんを押し出す企画なら、微エロぐらいはOKしないと」


 微エロかぁ…どこまでを微を考えるかは人それぞれですからね…。


「その辺もこれから打ち合わせしましょう」



 さてさて、いつもとは毛色の違う大仕事が入りました。

 これはこれで楽しめるでしょう。








 時は流れ、

 私が企画し進行も務め出演するデスゲーム型殺戮拷問ショーが開幕となりました。


『我が名は紅。今宵の鮮血舞い上がる狂瀾ショーを催したゲームマスターである!』


 私はポーズを取りながらモニター越しに出場者に語り掛ける。


『さぁ!ゲームを始めよう、高木刑事』





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 近況ノートに、

 ゲームマスター紅のイメージイラストをアップしました。


 https://kakuyomu.jp/users/inonakayokozuna/news/16817330667474363343










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