第69話 学園ラブコメ…? 後話
「街灯近くの一際太い木に隠れてるのは分かっています、高木刑事」
私が催促すると高木刑事が姿を見せました。学校の応接室で会った時はスーツ姿でしたが、今はTシャツにジーパン、帽子に眼鏡と変装っぽい格好をしています。
「何故分かった?」
「寧ろ私が聞きたいですね、あんな下手くそな尾行で何故気づかれていないと思えるのですか?あぁ、高木刑事はバカだから自分の無能さに気づいていないんですね」
「っ……」
顔を険しくして近づいて来る高木刑事。
私の方からも近づく。
「尾行していた理由をお聞かせください」
「話す必要はない、質問するのは私だ」
「以前言いましたよね「警察というだけで自分が偉いと思ってる人は嫌いです」と」
「嫌いで結構、正義の為なら嫌われるのも仕事だ」
「正義?…では尾行されていた私は悪なのですか?」
「それを見極める為に尾行していた」
お互いに3歩程の距離で立ち止まる。
「天晴君と何を話していた?」
「退院後の調子とかですよ」
「詳しく話せ」
「お断りします、令状は無いのでしょう」
「お前は拉致監禁事件の重要参考人だ」
「ええ、だから近衛君発見前後を事情聴取で全て話しました。でも今は関係ありませんよね、私が近衛君に危害を加えてるように見えたんですか?」
「ぅ……」
この程度で言葉につまる人が警察官になれるんですか…。
「見えませんよね、クラスメイトと一緒に下校してただけですから。まぁでも、私の質問にも答えてくれるなら高木刑事の質問にも答えてあげますよ」
「…こっちは公務だ、学生の遊びと一緒にするな」
「公務…ふふふっ」
「何が可笑しい?」
「尾行者が対象者と顔見知りでは気づかれる可能性は格段に上がります、私を尾行するなら当然私と面識のない警察官が任命される。なのに高木刑事が尾行していたのは警察の業務として認めてもらえなかったからではないですか」
「…天晴君の捜索状況を言い当てた時といい、警察の捜査方法を誰に聞いた?」
「この程度は警察を題材にした漫画を読むだけでも推測出来ます」
「漫画の知識では遊びだろう」
「なら高木刑事は違法捜査でしょ、公務として認められていないのですから」
「誰が認められていないと言った、それはお前の憶測だろ」
「では110番通報しますね。防犯カメラがそこにあるので、高木刑事が木の影から出て来たのは映っているでしょう」
「なっ!?」
高木刑事が驚いて私が指差す防犯カメラを見る。目立つように『地域安全カメラ作動中』と標記まであるのに気づいていないとは…。高木刑事が警察の中で特段に無能なのだと願いたいばかりです。
「私の質問に答えてもらえるなら通報はしません。どうしますか?」
「…何が聞きたい?」
「まずは業務でもないのに尾行する程、私を怪しむ根拠を話してください」
「幾つも不可解な点があるから、怪しいかを判断する為に尾行していた」
「つまり根拠はないと…」
おバカな高木刑事には世の中不可解なことだらけじゃないかと思うんですけど。
「次は高木刑事の質問に答えますよ、近衛君との会話内容ですよね」
「ああ」
私は、近衛君に許可した会話内容を、高木刑事に話す。
「天晴君はお前を諦める気が無いのか」
「私が救急車を呼んだことで、より運命を感じてるそうですよ。次私の質問です、不可解な点とは何のことですか?」
「…自宅を警察に拝見されるのを頑なに拒む点だ」
「理由がないからです、て会話は前にもしたじゃないですか」
近衛君拉致監禁事件の重要参考人になったことで、私が一人暮らしであることが知られました。
女子高生の一人暮らしは確かに珍しいですが、警察が部屋に入って良い理由にはなりません。
事件の捜査にしても、私が住むマンションの防犯カメラに近衛君が映ってる等の証拠があればの話です。
何も無いのに、部屋に入れろとか言うですよ。拒むに決まってるじゃないですか。
「女性警官でも拒むのには、何かあるからだろ」
「女性警官でも、私の生活空間が報告書になって提出されては一緒です、って話もしましたよね。この話題は価値観の違いで平行線だとも言いました。他の不可解な点を言ってください」
「…お前が将棋のイベントで若手棋士4人と四面指しで対局して勝った事は、運営委員に聞いて事実と確認出来ている。私は将棋に疎いので詳しい署長にそれがどれだけ凄いのかを聞いてみたら「将棋の天才なのは間違いない」との返答だった」
「私は天才ですから」
「イベントの後行く予定と話していた前田道場にも連絡をとり、総師範から事実と確認出来ている。前田 秋雨の名前に聞き覚えがあったので署長に聞いてみたら「機動隊がお世話になってる大先生だ、天才しか指導して貰えない」との返答だった」
「私は天才ですから」
「所長に「棋士に四面指しで勝ち、大先生に指導してもらえる程柔道の強い女子高生が清白 美優です」と言ったら「…それは女子高生ではなく、
「私は…
こんな乙女を
「警察署長にそう言われては不可解にも思いますね、今回はそれで納得しておいてあげますよ。ですがこれっきりにしてください、私は人間ですし付きまとわれるのは嫌なので」
「いや、不可解な点は他にもある。清白財閥について調査しようとしても許可が下りない。それどころか止めさせられる」
…私を怪しむのは百歩譲ってあげますが、清白家を怪しむと言うなら話は変わってきます。
「近衛君の事件と清白家が関係あるとお考えで?」
「それを調べる捜査すら上に禁止されたんだ」
「上が捜査する必要無しと判断したからでしょう」
「理由も聞かしてはもらえない、不可解過ぎる」
「高木刑事が知る必要ないと判断したからでしょう、何も不可解なことなどありません」
「今まではこんなことなかった。清白家が財力のある名家だから調べるなと言われてるとしか思えない」
その通りですよ、理由分かってるじゃないですか。
「だが、警察が相手よって捜査するしないを決めては正義が揺らぐ」
始めにも「正義の為」とか言ってましたね。
「高木刑事の掲げる正義とは何ですか?」
「法を犯す悪を捕まえ、弱きを助ける。それが正義だ」
「…強い人は助けないんですか?」
「ここで言う「弱き」は不当な暴力に虐げられ助けを求めてる人を意味している」
スラスラ出てきますね、警察の教科書にでも乗ってるのでしょうか。
「…清白 美優。お前の掲げる正義とは何だ?」
「私は正義など掲げてはいません」
「だが俺の言葉に不満げな顔だった、違う正義を考えているんだろ」
私は正義を只の言葉としか思っていませんが、高木刑事がそれで納得しないのは考えるまでも無い。
「正義は結果ですね」
「結果…?」
「今回の近衛君の事件で例えたら、「警察が拉致監禁された少年を救い出し、犯人を捕まえた」この場合は皆正義と思うでしょう。ですが「警察が見つけた時には少年は殺されていて、犯人も取り逃がした」だった場合、正義とは思いません。それどころか、頑張って捜査した警察を非難するでしょう」
「…警察は万能ではない、悔しいがそれは事実だ。だが警察が正義であることを否定はすることにはならない」
「警察が不祥事を起こすこともありますよね、当然正義とは思われません」
「それも事実だが……人とは変わってしまう事がある。正義から悪になってしまうことも」
含みがある言い方でしたね……。
「設定を変えましょう。災害があり被災地で辛い生活を強いられてる人々がいたとします。とある人気歌手が被災地へ赴き、ライブを開いて歌で人々を笑顔にして感謝されました。この設定では悪は存在しません、この歌手は正義か否か?」
「それは正義だ。悪はいなくとも善行は正義となる」
「では、同じ被災地の人々にお金持ちが多額の寄付をしました。生活環境が大きく改善され人々は喜び大変感謝しました。ですがそのお金持ちは法を犯して成り上がった人物で、多額の寄付も人気を得てさらにお金を得る為の布石でした。このお金持ちは正義か否か?」
「それは正義ではない」
「何故ですか?歌手よりも感謝されているんですよ」
「大きな善行をしたとしても過去の悪行は消えてなくなるわけではない。それに邪心のある善行は正義とは認められない」
邪心ある善行でも助けられた人々は正義と認めると思いますが、高木刑事の価値観では違うのでしょう。
「多額の寄付で生活環境が改善し、人々に感謝された点だけで見ればどうです?」
「…その点だけで見れば正義だ」
「なら私は言う通りじゃないです。悪の存在は必要ない、歌でもお金でも方法は関係ない、多くの人に喜ばれたという結果が正義です」
「それは……違うとは言わないが…」
「つまり警察が正義ではなく、警察が行った結果を周りが、正義かどうか判断するんです」
「いや、最後のは飛躍している。常に人々が安全に暮らせるように勤めている、目立つ善行ではないが警察は正義だ」
警察は正義ではありません!
思わず反射的に口から出そうになりましたが、説明出来ないので止めました。
もし本当に警察が高木刑事の掲げる正義であるなら、デスゲームは実在しません。
デスゲームは、国・警察が見て見ぬふりをしているから、犯罪にならず行えるのです。
……デスゲームがなければ、私は
……存在しない…物の怪…、デスゲームの物の怪。
「ふふふっ、警察署長の返答、間違っていませんよ」
「何がだ…?」
「いえ、こちらの話です。正義論は人それぞれということで締めくくりましょう」
私は高木刑事の言葉を待たず背を向け、
「もう付きまとわないでください。もちろん清白家を嗅ぎまわるような真似もしないように」
「…清白家が悪で無いならな」
親切心で言ってあげてるのに。
「訴えられても知りませんよ。では、さようなら」
正義感の強い刑事……、面白くなりそうな企画を思い付きました。
上手くことが運ぶか分かりませんが、種を撒くぐらいは、大した損にならないでしょう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます