第68話 学園ラブコメ…? ⑭
近衛君と下校途中にある紅葉の並木道を歩いています。
秋には紅葉がとても綺麗で人も多いですが、夏前の今はチラホラなので危ない話をしても聞かれる心配はありません。
「もう体調は万全なんですか?」
「うん。重度の脱水症状だったけど、他に外傷はなかったからね」
「退院してから何日かは桜さんが車で送り迎えしてくれてましたよね」
「母さん心配性だから。でも母さんも働いてるし、元気なのに送り迎えは恥ずかしいから止めてもらったんだ」
龍宝学園では車で送り迎えしてもらっている生徒は沢山いるので、恥じる事など何もありません。近衛君的にお母さんに送り迎えされるのが恥ずかしいのでしょう。
「息子を心配する良いお母さんじゃないですか。私は嫌われているようですけど」
「いや、そんなことは…」
「小声でしたけど「第一発見者が犯人って可能性はあるわよね」と言ってたの、ちゃんと聞こえてましたよ」
近衛君を発見した次の日に近衛夫妻と会っています。名目は息子を助けた私に感謝する為。表面上は感謝してくれました、表面上は。
「ご、ごめんね。母さん思った事をポロっと言っちゃうんだ」
「言い訳になっていませんよ」
「れ、冷静じゃなかったんだよ。心配で夜も寝れてなかったらしいからさ」
「近衛君が助かって寝れるようになった今でも「あの
「は、はは、清白さんの相手の思考を読む能力は本当に凄いね。昨日の夕食時も「清白さんが嫁に来たら、絶対嫁姑大戦争が起こるわよ、絶対よ!」って言ってた」
「近衛家に嫁に行くことは絶対無いので「無用な心配です」とお伝えください」
万が一嫁に行ったとしても、大戦争は私の圧勝で直ぐ終戦するでしょう。
「でもさ、清白さんがたまたま行ったイベントの帰りに、倒れてる僕を見つけるなんて唯の偶然じゃすまないよ。今までのことも含めて絶対運命で結ばれてるんだよ」
「近衛君を見つけた運命の相手は梅子おばあさんです。旦那さんは他界されているらしいので気兼ねなく交際を申し込んでください」
「いやいや、そういうことじゃなくて」
「雑談はここまでにして本題に入りましょう」
鋭い視線を向けて質問する。
「近衛君、正直に答えてください。ボイスレコーダーなどでこの会話を録音しようとしてますか?」
「え、ううん!全然そんなの考えても無いよ」
「もし、今からの会話が世に出たら、近衛君の両手両足をミンチ肉にしてハンバーグを作って桜さんと春治さんに食べさせます。ダルマ状態になった近衛君の目の前で」
「あ…うん、分かったよ」
こんなこと言われて「うん、分かったよ」ですか…。
「近衛君が拉致監禁されたのは私が裏業界のルールを破った違反者として報告したからです」
「あぁ、やっぱり。タイミング的にそうだろうなって思ってたんだ」
「解放される前に「二度と紅に関わるな」と言われませんでしたか?」
「言われたよ」
「なら何故今日も話しかけて来たんですか?私が再度違反報告するれば、次は本当にさっき言ったような残酷な罰を受けることになりますよ」
実際に、DB第一支部では類似した虐殺拷問ショーを公開してます。裏業界では違反者を楽には殺しませんし、家族を巻き込むことも多々あります。
「……僕は監禁されてる間、紅が出場したデスゲームでの言動をずっと思い返してたんだ。それと告白した以降の清白さんの言動も」
「それで?」
「至った結論は「売られた喧嘩は買う」「嘘はつくけど約束は守る」なんだ。だから監禁されて僕は三日半ぐらい飲まず食わずだったけど、清白さんなら殺す指示はしてないだろうなって考えてたんだ。殺すなら自分で
……どういう頭の構造していたら、こんなに自分の都合良いよう考えれるんでしょうか…?
人間は水分を摂取しないと4~5日で死ぬとされています、三日半は死ぬ一歩手前。タイミング的に私が関わっていると考えれても、死なない保証など微塵もないのに。
「私に罰の決定権はありません。それに寧ろ罰を厳しくしてもらうよう進言しました」
「その相手って人狼ゲーム中に言ってた黒幕だよね。僕を攫った人もこう言ってたんだよ「お前はあのお方を怒らせた」って。怖がらせようと思ったんだろうけど僕はその言葉で冷静になれた、もし本当に裏業界の重鎮を怒らせたんなら餓死なんて温い殺し方はしないだろうから。この推測は当たってるかな?」
…根拠がなさ過ぎて推測とは言えませんが、
「当たらずも遠からずです。ですが、懲りずに私に話しかけて来た理由にはなっていません」
「それは、僕が柔道で勝ったら付き合う約束したから、これ関連の話なら大丈夫かな、と思って」
「……頭の中がお花畑なのですか?」
本気で脳の代わりに別のモノが入ってるのではないかと疑ってしまいそうです。
「え、いや、でも、退院して学校に復帰したら「清白さんに柔道で勝ったら『お友達から』になれる」って噂を聞いたよ」
「それは私も認知しています、まず五里君を倒す必要がありますけど」
「ゴリオも僕と同じ勝負したんだよね、でもゴリオは拉致されていない。つまり交際を申し込むこと自体は問題ないってことだよね」
「始めっからそこは問題にしていません。問題は裏のルールを再度破ろうとしていること、私はそれを言及しているんです」
「僕もルールを破りたいわけじゃないんだ。告白した時は先走り過ぎだったと、拉致監禁されてる間に凄く反省してる」
反省の色、全然見えませんけど…。
「でも認めてもらう為には清白さんと同等以上に強くならないといけない。それには清白さん以上の鍛錬をする必要がある。だから清白さんの通ってる道場に僕も通えるか聞いたんだ」
「…その質問一つで命を落とす可能性があると理解した上でですか?」
「ここで引き下がったら絶対に認めてもらえないだろうからね」
「何故そこまで私に固執するんですか?」
「それは運命を感じたからだよ」
「…次に運命って言葉を使ったら本当にハンバーグにします」
「ご、ごめん。でも具体的な経緯と理由は告白した時話したし」
「紅の人殺しシーンは動画を買えば見れるじゃないですか」
「そうなんだけどね……直に見るのに比べたら、やっぱり…」
直に…あぁ、なるほど。
「私が筋肉バカさんや剣術バカさんを殺すのを見た時が、一番興奮したわけですか」
「え、あ、興奮っていうか…」
「正直に答えてください」
「……はい、そうです」
ほんと変態ですね。
「私と交際しても直に人殺しは見れませんよ、日常では犯罪になりますから」
「それも人狼ゲーム中に言ってたね。でも恋人兼パートナーになれたら話は変わってくるよね」
「パートナー…、ペア戦デスゲームも知っているんですか」
デスゲームにはチーム戦も存在します。
中でも男女2人ペアが条件のデスゲームは多いです。理由はエロい取れ高が増えるから。出場ペアが必ずしも恋人同士というわけではありませんが、互いに命を預けれる男女となれば、Hな行為をゲーム中に行う可能性が高いそうです。
「私とペアでデスゲームに
「あ、いや、清白さんと恋人になりたいのも本心からの望みだよ」
「私がデスゲーマーでなければ告白はしていなかったでしょ?」
「うっ……うん」
「別にそこは言い淀むことありませんよ。異性を容姿より能力重視で好きになるなんて、割合は少なくとも普通のことですから」
「そ、そうだよね」
人殺しの能力限定の場合は変態だと思いますけど。まぁ、それは個人の価値観なので置いておきましょう。
「問題の原点は近衛君が順序を間違えてることですね。私とペアでデスゲームに出場したいなら、まずデスゲーマーになるべきです。近衛君がせめてアマのデスゲーマーだったら私は違反者報告をしていませんよ」
学校で裏業界の話を出したのはちょっと問題ですが、2人っきりで話せるようにラブレターで校舎裏に呼んでるので相手がデスゲーマーなら大目に見てあげたでしょう。
「ペア出場の考え方に至ったのは監禁された3日目なんだ」
それが拉致監禁されて、凄く反省した故の結論ですか……。
近衛君のことが分かってきました。人狼ゲームで私が思考を読めなかったヤッチュウさんと同じタイプですね。
ヤク物こそやってはいませんが、重度の脳内麻薬中毒者に該当します。
例えとしてギャンブル中毒者が分かり易いでしょう、近衛君の場合はギャンブルではなく、人殺しを見ることで脳内麻薬が多量分泌され、それを至高の喜びと感じている。
このタイプの思考が読めないのは、生き物にとって最も重要な生存本能よりも快楽を優先するからです。
近衛君が今日私に話しかけてきたのも、自覚なく生死よりも快楽を優先した結果でしょう。
「私なりに納得が行きました」
「え、それじゃ僕とパートナーに…」
「クソ雑魚とパートナーになるわけないでしょうが」
「だ、だよね。それで話は最初に戻るんだけど、強くなりたいから清白さんが通ってる道場に僕も通えるかな?」
本当奇麗に話かけられた時に戻りましたね。
「まず、五里君を倒してください。話はそれからです」
「あ、僕もそこからなんだね」
「当然です。ルールは守らないといけません」
既に五里君に挑戦した男子は10人を超えているそうです。
「最初に清白さんと勝負してるから、例外かなって思ったんだけど…」
「都合よく考え過ぎです。それに私が通ってる道場を教えても意味がありません、相手の実力によって指導者が代わるので、クソ雑魚な近衛君では伊藤先生と同等以下の指導者が割り当てられると思います」
総師範に直接指導してもらえるのは、ほんの一部の人だけです。
「ゴリオを倒すのが第一段階か……。あ、違反者としての再報告はしないでくれるってことで良いんだよね?」
さきにそっちを気にすべきでしょうに…。
「梅子おばあさんに免じて、違反者報告はまだしないでおいてあげます。命を救ったのに近衛君が直ぐ死んだら悲しむでしょうから。ちゃんとお礼を言うんですよ」
「うん、あのおばあさんには父さんと母さんも本気で感謝してて、今後も定期的に会いに行こうって話になってるんだ」
「…つまり私には感謝していないということですね」
「あっ!……いやいや、清白さんにも感謝してるよ」
それ「あっ!」のあと「ヤベ」って考えてる
「でも「高齢で認知症なのに天晴を救う為に救急車を要請してくれるなんて奇跡だ」みたいに親は思ってて…」
「別に私に感謝はいりません。今後無駄な時間を使わせないでくれたらそれで良いです」
「分かった。父さんと母さんには関わらないように言っておくよ」
「近衛君もですよ」
「…やっぱり、ゴリオに勝つまで気安く話しかけたら駄目な感じ?」
「クラスメイトとして時々話をする程度は良いです」
思考が読みづらいだけに放置は危険ですから。
「そっか、よかった」
「まだ安心は出来ませんよ。違反者報告はしませんが、デスゲーマーに成りたいと私に相談してきたことは報告します。それを上が処罰対象と判断したら近衛君はハンバーグになります」
お父様から「その後、小僧はどうじゃ?」と聞かれるでしょうから、報告しないという選択肢はありません。
「…処罰対象になる可能性は高いのかな?」
「前例がないので何とも言えません。近衛君お得意の運命に身をゆだねるしかないですね」
お父様は、私が近衛君の為に救急車を呼ばなくていけなくなったと聞いて面白がっていましたので、悪くは思っていないでしょうけど。
「処罰されるかは考えても仕方ないってことか」
「今後の行動次第でも変わってくるでしょうから、軽率なことはしないように」
「分かったよ。今は鍛えてゴリオを倒すことに専念する」
「そうしてください」
そろそろ別れる頃合いですね。
…あと、気になるのは、
「そう言えば、行方不明の間に近衛君のパソコンは警察に調べられなかったのですか?」
「調べたらしいよ。でも手がかりはないと思ったみたい」
「ヤバイ動画とか、パソコンに入ってないんですか?」
「入ってるよ。でも細工をしてあって、起動時のパスワード画面で僕の生年月日を入力すると、調べても何の問題も無い高校生らしいデスクトップが表示されるんだ」
…パスワードが分からない場合、とりあえず生年月日を試しに入力するはず、と読んでの細工ですか。その辺はちゃんと頭が回るんですね。
「他にも細工はあって…」
「詳しい話は結構です、警察に問題なしと思われてるなら構いません。では、この辺で別れましょうか」
「あー…、清白さんが嫌じゃなければ家まで送るけど?」
「嫌です」
「そう…」
「もし今日の会話内容を聞かれることがあったら「退院後の調子」とか、「近衛家の事」とか、「改めて強くなる宣言した」とか、そんな事を言ってださい」
「…うん、分かったよ。それじゃまた学校で」
「ええ、また学校で」
私は、反転して来た道を戻る近衛君の背をしばらく見つめる。
…ひとまず近衛君は問題なさそうですね。少なくとも私を害する気は感じられない、上は要観察の判断を下すでしょう。
ペア戦デスゲームは私も興味あるので、格闘戦だけでも私に勝てるデスゲーマーに成れたら一緒に出場してあげてもいいでしょう。
まぁ、今の近衛君の実力では五里君に勝つのさえ、まだまだ先の話でしょうが。
残る問題は…
「隠れてないで出て来てもらえませんか、高木刑事」
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