第67話 学園ラブコメ…? ⑬
近衛君を発見した土曜から数日。
あの後私は救急車を呼び、警察と春治さんにも連絡しました。まさか本当に名刺の番号に連絡することになろうとは。
被害者が生きて発見されたとはいえ、事件の可能性が高いので第一発見者は重要参考人として警察に事情聴取されることになります。
ここで困ったのが私に声をかけたおばさんが認知症だった事。
救急隊員が来て近衛君の状態が、死ぬほどの危険はないと分かった後から会話が成り立たなくなったのです。「私が誰か分かりますか?」と訊いたら「…?あぁ、良子かい。別嬪さんになったねぇ、別人かと思っちまったよ」「…別人ですからね」なんてやり取りをしました。
おばあさんの娘夫婦にも会ったのですが「母が救急車の要請を!?母は認知症で、今日も知らない間に家を出ていたんです」と発言する始末。
なので私が近衛君の第一発見者代理、失踪事件の重要参考人になってしまったんです。
そうなっては時間制限付きで聴取とはいきません。柔術の道場へ行く予定もキャンセルです。
将棋イベントの運営に私の素性がバレることにもなりました。アリバイを証明してもらわないといけませんから。
お父様にも連絡する事になり怒られてしましました「若手棋士4人を四面指しで蹴散らすなんて、そんな面白そうなことするならワシも誘わんかい」と。
他にも色々と無駄な時間を使わされました。
「ちょっと良いかな?清白さんが通ってる道場って僕も通える?」
その元凶が放課後に、何気ない顔で話しかけてきてます。
「…近衛君、辛い目にあって記憶が飛んだんですか?」
「あ、いや、強くなるまで気安く話しかけるなって言われたのは覚えてるよ。でも柔道部全員が負けたって聞いて、それだとあの柔道部で頑張って練習しても清白さんより強くなれないのかな、とか思って…」
私が聞いているのはそこではないんですよ。
近衛君は警察やご両親に「拉致されて暗い部屋に閉じ込められていた」としか証言していないそうです。
それは覚えていないのではなく脅されているからでしょう。
裏業界のルールに違反して罰せられたことは近衛君も分かっている。その理由が私に
「……帰りながら話しましょうか」
これ以上時間を無駄にしたくありません。
「え、一緒に帰ってくれるの?」
「帰る方向が違うので近衛君からしたら遠回りになりますがそれで良ければ」
「うん、全然良いよ!」
……裏が読めませんね。
「なんだ近衛、病み上がりでまた美優に言い寄ってんのか」
「本当にストーカー認定されますわよ」
茜さんと聖華さんが来てくれましたが、今日は無用です。
「近衛君は鞄を取ってきてください」
「あ、うん」
時間ロスを無くす為に近衛君には場を離れてもらいました。
「今日は近衛君と話し合おうと思うので、お二人はご遠慮ください」
「ファミレスでも行くのか、付き合うぜ」
「個室のあるレストランの方が宜しいのでは」
「今日はご遠慮ください」
「っ……」
「固い事言うなって、友達だろ」
「3度目です、ご遠慮ください。4度目は言わせないでください、唯のクラスメイトの茜さん」
「え、唯の…」
「…無理強いはよくありませんわ茜さん」
「あ、ああ、そうだな。すまん美優」
「いえ、では失礼します」
「ごきげんよう、美優さん」
「またな、美優」
私は近衛君と合流して教室を出る。
……いけませんね。最近無駄な時間を使わされることが多くて、少々イラついているようです。
この程度で平常心を乱すなんて私もまだまだです。
「私は美優に、友達と思われてなかったんだな…」
「……茜さんは美優さんの中学校での話を知ってますの?」
「…?なんのこと言ってんのか分かんねぇけど、それは今関係あるのか?」
「他言無用を約束出来るなら、お話ししますわ」
「…ああ、絶対に他には言わねぇ」
「約束ですわよ。美優さんは中3の時、修学旅行で乗ったバスが事故に遭い、クラスメイト全員亡くなられてますの」
「なっ!?本当かよ?」
「ネットで学校名入れて詮索すれば出てきますわ。生き残ったのは美優さん一人、事故後の彼女は人が変わった様に他人と関わらなくなったそうですわ」
「美優が他人と関わらないのって、元からの性格じゃねぇのか?」
「中学時代の美優さんは、成績学年トップのクラス委員長。学校行事ではクラスを率先して引っ張り、テスト前は勉強の苦手な生徒の為に勉強会を開き、イジメられてる生徒が居たら助けてあげる。そんなリーダー的存在だったそうですわ」
「あの美優が、クラスを引っ張るリーダー…想像出来ねぇ」
「やらないだけで能力的には可能だと思いますわ。事故前の美優さんは友達と休日遊びに行ったりも普通にしていたそうですわ。ですが…」
「皆事故で亡くなったのか……えぇ~、トラウマもんじゃねぇ、それ。私それに触れちまった?」
「知らなかったのですから茜さんに否はありませんわ。でも美優さんにも悪気はないとお伝えしたかったのですわ、心の傷は繊細ですから」
「……だな、ありがとよ聖華。でも何で美優の過去についてそんなに詳しんだ?」
「白鳳院家は清白 美優の過去について少し調べた事がありますの」
「その言い方からすると、美優が清白家の養子なった経緯とかか」
「それも含めて生い立ちをざっくりと、理由は嫁とするのに問題ない相手か判断する為ですわ」
「嫁に…そういや聖華には兄貴がいたな」
「いえ、お兄様ではなく従兄のですわ。話を合わせていましたけど、以前から清白 財閥次期総帥の徳政様が美優さんの婚約相手を募っているのは知っていましたの」
「でも総帥が認めてないんだろ」
「本来、跡取りの男子がいるのに女子を養子にする理由など、他の名家と繋がりを作る政略結婚以外ありえませんの。それを総帥の徳光様が否定するなら、隠し子説の信憑性が増しますわ」
「増したらどうなんだよ?」
「政略結婚の価値が上がりますわね。徳光様にとって大事な存在ですもの」
「政略結婚を否定したら政略結婚の価値上がんのかよ。白鳳院家も清白家の財産目当てで美優を調べたってか」
「悪い言い方をすればそうなりますわね、家柄は白鳳院家の方が上ですけど、財力では清白家の方が上なので。まぁ、縁談の申込は一時保留ですけども」
「事故に遭って心に傷があるからか?」
「それだけでなく、美優さん公立小学校に通っていた時はヤンチャだったようで、ワルガキ男子達と喧嘩して軒並み倒してたそうですわ」
「…それは柔道部壊滅させたの見てるから容易に想像できるな。暴力的な女は白鳳院家の嫁になる資格なしと判断したわけだ」
「保留と言いましたでしょ、断定はしていませんわ」
「ふ~ん、…因みに美優の元両親は今どうしてんだ?美優の過去を知るのに連絡とったんだろ」
「…元ご両親の連絡先は分かりませんの」
「白鳳院家が調べて分からなかったってのか?」
「清白家にバレても言い訳出来る範囲でしか調べれませんもの」
「それでも今何処で何してるかぐらい分かんじゃねぇのか?」
「いえ、まったく。美優さんが養子になって以降の、元ご両親の情報は一切分かりませんでしたわ」
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