第59話 学園ラブコメ…? ⑤
水曜日の昼休み。
「美優さんは相変わらず大盛サラダですわね。それが強さの秘訣ですの?」
「強くなるつったら肉だろ」
「重要なのは食事のバランスですよ」
食堂で聖華さん茜さんと食事をしています。
「でも筋肉作るのは肉だろ」
「タンパク質ですよ、肉料理を食べなくてもプロテインを摂取して運動すれば筋肉はつきます」
「えっ!?美優さんプロテイン飲んでますの?」
「そんな驚く事ではありません。運動部でもプロテインぐらい摂取しますよ」
「
「護身に運動部も文芸部も関係ありませんよ。もしもの場合に頼れるのは己の身体ですから」
これはデスゲームだけでなく世の摂理ですね。
「美優さんは一体何から身を守る想定をしてますの」
「やっぱゴリラじゃね」
「あぁ、ゴリラですか」
「ゴリラ…?」
デスゲームでは猛獣と戦わせられることもありますが、この二人がそんなことを知ってるはずが…?
「そういや近衛の奴、昨日美優にボコられたから休んでんな…」
「あの程度ボコったと言いませんよ」
「平気そうでしたけど、内心傷ついていたのでしょうか…」
「正々堂々の勝負なので、傷心で引きこもりのなろうと私に責任はありません」
「敗者に冷てぇよな美優は」
「勝者こそが正義ですから」
「それを言うのはだいたい悪役ですわよ」
悪役も嫌いではありませんから。
食後そのまま三人でお茶をしていると、
「ちょっと良いか清白?」
五里君が話しかけてきました。
昨日も思いましたが、女子だけが居るところに率先して話しかけて来る人ではなかったなずなのですけど…。
「どうしました?」
「俺と柔道で勝負してくれないか?」
「おっと、本当にゴリラが襲撃に来たぞ」
「昨日の今日で気の早いゴリラですわね」
さっき2人が言っていたゴリラとは五里君の事でしたか。確かにゴリラっぽい顔をしてますけど…。
「2人とも親切に解説をしてもらった相手をゴリラ呼びは失礼でしょう」
「…そうですわね、済みませんゴリオさん」
「すまんゴリオ」
「いや、構わない」
ゴリオでは変わっていないと思うのですけど、本人が構わないなら良いですかね。
「それで、私と柔道で勝負がしたいとのことですけど、流れからして昨日の近衛君との勝負が理由ですか?」
「ああ」
部活動とは言え柔道選手、強い相手と見たら勝負を挑まずにはおれないということでしょう。
「気持ちは分かりますが、体格差が大きいですからね…。五里君体重は?」
「85㎏ぐらいだ」
「私と25㎏以上差があります、柔道での勝負は公平とは言えないでしょう」
「うっ…それはそうだが……」
総合格闘ルールならどうとでもなりますが、そんな試合は先生が認めないでしょうし…。
「そもそも伊藤先生の許可とってるんですか?」
「いや、まだ先生には話していない」
「では先に許可をとってください。公平でない勝負を先生も認めないと思いますが」
「……分かった」
放課後。
「伊藤先生から許可をもらった」
「認められたんですか…」
武道精神とやらは何処へ…?
「先生も体重で不公平なことは理解しているから、清白に有利なルールにするそうだ」
「…そういうことですか」
道場の掃除といい、機転の利く先生ですね。
「分かりました。では道場に行きましょう」
道場に向かう途中。
「お二人は暇なのですか?」
当たり前のようについてくる茜さんと聖華さん。
「バスケ部あるけど、気になって集中出来ねぇよ」
「私もどう意見ですわ」
「二人には関係ないのですから、部活や家の用事を優先すべきだと思いますよ」
「連れないこと言うなよ、友達だろ」
「柔道場はアウェイですから私達が応援してあげますわ」
「……好きにすればいいですけど」
柔道場に着き、昨日と同じく胴着に着替えて、開始線に五里君と対面して立ちます。
「体重差を補うルールを説明する」
伊藤先生が考えたルールは、
「一つ目、清白が投げた場合、判定を甘くする」
具体的には技ありを一本にしてくれるそうです。
「二つ目、寝技は禁止」
寝技は立ち技以上に体重差の影響が大きいです。それに男女ということも考慮してくれているのでしょう。
「三つ目、五里の勝利は五戦で三勝した場合のみ」
私からみて、二敗三分でも最終的勝敗は引き分けにするという事の様です。
…これはやり過ぎですね。
「どうだ清白?」
「三つ目は無しで。対等に勝ち越した方が勝者にしましょう」
「清白がそれでいいなら構わないが…」
「その代わり、柔道では攻めず消極的と判断されたら指導を取られますが、この勝負では取らないでください。五里君相手では組み手から重要になりますから」
「…良いだろう。五里もこのルールで構わないな」
「はい」
自信のある顔をしてますね五里君。近衛君のような一か八かではなく、実力で自分の方が強いと思っている表情。
「両者怪我しないようにな」
こういう相手を倒すのが楽しんですよね。
「始め!!」
私は開始と同時に全速で間合を詰める。
五里君の襟と袖を取り、小内刈り。
「えっ?くっ…」
驚きつつも後ろに倒れないよう踏ん張る五里君。瞬時にその懐に入り、相手の踏ん張ってる力を利用して、背負い投げ。
五里君は慌てて抵抗するも横ばいに倒れる。
「技、いや…一本!」
普通なら技ありですが、ハンデルールにより一本になりました。
目を見開いて私を見上げる五里君。
ふふふっ、期待通りの表情をしてくれますね。
「ゴリオ相手でも瞬殺じゃん!?」
「25㎏以上重いから不公平って話は何だったのですの!?」
「…所謂あれか「柔よく剛を制す」ってやつか」
「あれには「剛よく柔を断つ」という続きがありますのよ」
「どっちなんだよ?」
「結局、柔剛合わせ持つ者が強いという結論ですわ」
「普通の事言ってるだけじゃねぇか!」
「諺なんてそんなものですわ」
「五里!清白が実力者なのは分かっていただろ、油断するな!」
「はい、済みません」
部活っぽいやりとりですが、
「伊藤先生、これは私と五里君の勝負なので口出し無用でお願いします」
「む、そうか。すまない」
「さて五里君、
「ああ」
五里君も油断だと思っているんでしょうね。
今のは試合前の「五里君相手では組み手から重要」という私の言葉を聞いて(慎重に攻めて来る)という思考に誘導された結果。
勝負は試合前から始まっているというヤツです。
「二試合目、始め!」
五里君は近衛君のように勝ち急いで前に出るようなことはせず、構えてゆっくり近づいてきます。
私はその場で軽くステップを踏む。
五里君が訝しげな表情になります、柔道の試合ではステップは基本使われませんからね。でもそれは普通のルールの場合。
私は掴みもうとする五里君の手を払いのけ後ろに下がる。
次の手も払い下がる、その次も。
場外が近くなったら素早く回り込みます。
「…そのまま逃げ続ける気か?」
「この勝負では反則ではありませんから」
「清白は身軽だから有効な作戦だ。逃げ切れればだがな」
五里君が掴もうとする、私が払って下がり回り込む。を何度も続け”ビー”と三分経過のブザーがなる。
「そこまで!二試合目は引き分け」
「はぁ、はぁ…。先生、インターバルをお願いします」
「分かった。一分間のインターバルをとる」
私はインターバルを要求し、呼吸を整える……フリをします。
「今回は美優逃げてばっかりだったな」
「今のこそ、体格差通りの展開に見えますわね」
「一試合目のは相手の油断をついたからって感じか…」
「ここまで美優さんの計画通りだと思いますわ。始まる前に攻めなくても反則にならないみたいな交渉してましたから」
「……でも、あんなに動き回って後三試合逃げ切れるか?」
「既に少し息上がってますものね…」
「一分経過だ。では三試合目、始め!」
三試合目も私は逃げます。五里君を中心に大きく動き回ることになるので、私の方が運動量が多いです。
3分間動き続けるのは、毎日練習している柔道部員でもしんどい。一分休んだとはいえ、さらに3分は、たまにしか練習しない文芸部では同じ動きが続くはずがない。
五里君含め、周り皆そう思っているでしょう。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
息が上がり動きも鈍くなっきてる…ように見える私の襟と袖を五里君が掴む。
「マズいっ!…」
五里君は強引にひっぱり、前に出させた私に内股…。
「なっ…ーんちゃって!」
「何っ!?」
予想の足応えがなく驚く五里君を内股すかしで投げる。
またも横ばいに倒れる五里君。
「っ!……一本!」
ちょっと勢いが弱かったので、有効気味の技ありでした。でも審判が一本と言えば一本です。
「これで私の二勝一分。五里君の勝ちはなくなりましたね」
「あれ…今のゴリオさんが投げませんでした?」
「私にもそう見えた」
「では何故ゴリオさんが倒れてますの?」
「私にも分かんねぇよ…もう直接聞くか。美優!今の何したんだぁ?」
「内股すかしです!相手の投げをかわしての返し技です!」
「凄い技かぁ?」
「タイミングは難しいですね!」
「美優は!タイミング合わせるの得意なんだな!」
「天才ですから!」
「だとよ。分かったか?」
「…美優さんが天才だから投げれたってことだけは分かりましたわ」
「天才って便利な言葉だな」
「本物の天才しか使えない言葉ですわ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます