第58話 学園ラブコメ…? ④
「一試合目勝ちは清白。…インターバル挟まず二試合目を行うのか?」
「そうですね、近衛君も
「え、あ…ちょっと待って…」
投げられた場所で座ったまま立ち上がっていない近衛君。
「どこか痛めましたか?」
「いや、そうじゃなくて…清白さんって柔道どれぐらいやってたの?」
「…それは対戦相手する質問ではないでしょう」
「それはそうなんだけど……」
「怪我してないなら、さっさと立って開始線についてください」
「う、うん」
近衛君は急いで立ち上がってと開始線につきました。
「では二試合目、始め!」
今度は開始と同時に近衛君が前に出てきました。早くタイに戻したい気持ちが行動に出ているから。
分かり易いですね。
私は近衛君の袖を掴み引きつつ足を払う。
”ドスン!”と尻もちを着く近衛君。
「一本!」
「これで二勝目、後がなくなりましたよ近衛君」
「今の何ですの?近衛君が勝手にこけましたわよ」
「あれは出足払いだ。負けを取り戻そうと前に出た近衛の足を払うように蹴ってこかしたんだ」
「授業で習った気がするな」
「基本技の一つだからな。だが試合で一本取れる程綺麗に決めるのは難しい、しかも清白はほとんど力は使わずタイミングで投げていた。近衛が前に出るのを読んでいたのだろう」
「あっさり美優さんが勝ちそうですわね」
「…清白が勝った場合はどうなるんだ?」
「決まってねぇけど、美優のこと諦めろって話になんじゃね」
「…そうか」
「では三試合目を始めましょう」
「……先生ちょっと時間ください」
「良いだろう、一分間のインターバルをとる」
作戦を考えるんでしょうけど、無駄なあがきですね。
「清白は護身として家から柔道を習わされたと過去形で言ってたが、続けているんだな」
「…二週間に一度ぐらいで道場に行ってます。今の一瞬で気づくんですね」
「全く練習してなくて今の出足払いはあり得ない。…惜しいな、ウチに女子柔道部があれば、清白ならいい所まで行けただろうに」
伊藤先生は若い頃オリンピック候補になった程の柔道選手。
「女子柔道部があっても入部しませんよ」
「近頃全然大会で結果出せてないから、肩身が狭いんだ」
「先生の悩みを打ち明けられても困ります」
龍宝学園は文武両道のエリート校なのですが、当然ながら全て運動部が強いわけではありません。
強いのは、テニス部・乗馬部・ゴルフ部。金持ちがやるイメージのあるスポーツが大会で成績を残してます。
武道系だと今代の剣道部はよく表彰されています。
柔道部は表彰されてるところは見た事ありません。
「他の先生方から「元オリンピック候補が情けない」とか言われてるんですね」
「そんな直接的に言う先生はいない」
遠まわしには言われてるってことですね。
「…そろそろ一分経ったのでは」
「そうだな。近衛始めるぞ」
「はい」
近衛君は作戦を考えていたようですが、ほとんど無意味な行為です。
本来作戦とは相手を知った上で立てるもの。私の実力を測れていなければ立てようがない。
となれば考えつく作戦は奇襲。
足を取りに来ること。
「三試合目、始め!」
合図と同時に近衛君は低い姿勢で向かってきました。
ホラやっぱり。
私は後ろに下がりながら、近衛君の後頭部と背中を抑えて潰します。
「熱痛っ!?」
勢い余って近衛君が顔面を畳で擦りました。経験ある人も多いと思いますがこれ痛いんですよね。
寝技をする気は無いので私は直ぐに立って距離を取ります。
続いて立ち上がった近衛君は案の定、額を擦り剝いていました。
「痛たた…」
「待て!」
近衛君が怪我をしたので伊藤先生が試合を止めました。
「近衛大丈夫か?」
「はい、大丈夫です」
「棄権しても良いですよ」
「その場合勝敗は?」
「もちろん、近衛君の負けです」
「続けるよ」
「さっきの、近衛がタックルしたように見えたけど、アリなんか?」
「アリだ。近衛が狙ったのは恐らく双手刈、相手の脚を両手で掴んで押し倒す技。清白は余裕を持って対応していたからこれも読んでいたんだろうな」
「柔道ってそんな簡単に相手の行動を読めますの?」
「簡単ではない。読めるとしたら、大きな経験差があるか、相手を研究していたか…」
「美優だったら「私が天才だからです」とか言いそうだな」
「言いそうですわね」
「確かに清白は頭が良いからな。それも行動を読める理由の一つだろう」
「……ゴリオさんは美優さんと仲良いのですの?」
「いや、二年の時勉強を教えてもらったことがあるだけだ」
「それだけですの…」
伊藤先生は近衛君の怪我を確認する。
「血は出ていないな。では再開するぞ、近衛」
「はい」
「これ以上怪我の無いようにな、次何かあれば止めにする」
擦り傷とはいえ顔だったから神経質になっているようですね。
心配せずとも次で終わりますよ。
「始め!」
今度は突っ込んでくることは無く、近衛君は構えて摺り足でゆっくり近づいてきます。
ここまでで柔道でも大きな実力差があることは分かったはずです。
ですが、私の事を技巧派だと思っているでしょう。
「近衛君は力勝負に持ち込めば勝機はあるとか考えてるんじゃないですか」
「え、あ、まぁ…」
「そんな甘い考えを今から壊してあげますよ」
私はまた普通に歩くように近づき両腕を出す。
「どうぞ、好きに技をかけてください」
「……」
舐められてると分かったでしょうが近衛君からすれば勝機。
慎重に私の襟と袖をとり、
「はっ!」
背負い投げを仕掛けてきました。
が、
「ぐぅっ…」
私は全く持ち上がりません。
近衛君は体勢を戻し、次は体を引きつけて大外刈りを仕掛けてきました。
が、
「ぬぬぅっ…」
私は全く揺るぎません。
「非力ですね」
逃げ足が速いだけの近衛君ではこんなもんでしょう。
「はぁ、ふぅ…はっ!」
近衛君はまた背負い投げを仕掛けてきました。
今度は好きにさせず背後から腕を回して帯を掴む、そして一気に近衛君を持ち上げました。
「えぇ!?」
「終わりです」
背中から勢いよく畳に叩きつける。
「い、一本!」
「三タテで私の勝利ですね」
「えぇ!?何ですの今の?」
「美優が近衛を持ち上げて叩きつけたな、あれって柔道の技か?」
「裏投げ…いや、清白が立ったままだから後腰か。列記とした柔道技だ。女子が男子を後腰で投げるは俺も初めて見たがな」
「男子を持ち上げるとか、
「少しだけど近衛の方がデカいしな」
「もう一つ解説しとくと、清白は近衛の投げを全く意に介していなかった。筋力でも清白の方が勝ってるんだろう」
「美優って見た目文学少女だけど中身ゴリラだよな」
「…あぁ、だからゴリオさんが…」
「何がだからか知らんが、清白の勝ちが決まったから試合することになった詳しい経緯を話してくれ」
「三勝で清白の勝利」
「これで理解してもらえましたでしょう。弱い近衛君に興味ないんですよ、今後は気安く話しかけないでください」
近衛君は悔しそうに俯いて、返事はありません。
「こら清白!敗者を貶すんじゃない。武道精神の基本だろ」
私はデスゲーマーなので武道精神など持ち合わせていません。
ですが学校では優等生を演じているので、
「はーい、済みません」
反省のフリだけしておきます。
「…分かったよ。清白さん」
お、諦めがつきましたか…。
「鍛えて強くなったら、また勝負を申し込むよ」
…何も理解していませんね。
ここで諦めてくれたら酷い目に合わずに済むものを。
私は近衛君の言葉は無視して、茜さんと聖華さんの元へ。
「おつかれ美優、圧勝だったな」
「お疲れ様美優さん、柔道お強いのですね」
「私は天才ですから。と言いたいですが近衛君が雑魚過ぎるだけです」
私は二人の後ろにいる男子生徒に視線を向ける。柔道部の
「どうも、五里君」
「お、おう、久しぶりだな清白」
五里君とは二年の時同じクラスで、勉強を教えてあげた事があります。真面目だけど要領が悪くて点が取れない人だったので、勉強の仕方のコツを教えたという方が正しいですね。
…でも、
「五里君は柔道部主将でしたよね?」
「ああ、部で一番強いから…」
「主将が練習サボって女子をナンパとは、大会で成績残せないのも当然ですね」
道場にお邪魔してますが私達が使っているのは半分、試合場は二面あるので柔道部の人達は練習出来るんですよ。
なのに関係のない私達の試合を、練習止めて部員全員で観戦してました。
「ナンパ!?いやいやそんなことしてない!二人が試合の解説してくれと」
「ゴリオの方から声かけて来たんだろ」
「幾らでも解説すると言って、離れようとしませんでしたわ」
「はぁ~、真面目だった五里君も変わってしましましたね」
「本当に違うんだ!清白と近衛が勝負している理由が知りたくて…」
「ふふふっ、からかっただけですよ。五里君がそんな器用でない事ぐらい知ってます」
「そ、そうか」
「でもお邪魔しといて何ですが、私達が勝負する理由なんて柔道部には関係ないでしょう」
「それはそうなんだが……、柔道で負けたら本当に近衛と付き合う気だったのか?」
「約束ですので負けたら付き合いましたよ。でも負けるつもりは微塵もありませんでした、実際圧倒的勝利でしたでしょう」
「ああ」
「近衛君がしつこいから、諦めさせるために勝負を受けたまでです」
「そうなのか…」
五里君が顎に手を当てて何か考えてるところに、
「コラ!何ナンパしてるんだ五里!練習しないか!!」
伊藤先生の叱咤が飛んできました、やっぱりナンパに見えますよね。
「あ、済みません!」
五里君は慌てて練習に戻って行きました。
「では私は着替えてきます。2人は先に帰って貰っても構いませんよ」
更衣室に行く途中、近衛君が伊藤先生に柔道部に入部させて欲しいと言っているのが聞こえました。
…伝手でデスゲームに
「美優さんってモテますわね」
「ゴリオなら強く逞しいっていう美優の好みに当てはまんじゃね、老け顔だしな」
「でもそう言う意味では相手にしてない感じでしたわよ」
「流石に顔がゴリラじゃ厳しいか…」
「美優さんの理屈で言うなら、ゴリオさんにも勝てる自信があるってことになりますけどね」
「さすがにそれは……でも美優だからなぁ…」
「美優さんですものね…」
帰宅すると丁度お父様から電話がかかってきました。
『昨日の件、詳細が判明したぞ』
「早いですね。心当たりがビンゴだったのですか?」
『うむ、先に言ってしまうと、近衛という小僧の伝手はワシの知り合いじゃった。迷惑かけてすまんの美優』
「いえいえ、お父様が謝ることでは。悪意はなかったのでしょう」
『そこは確かじゃ、向こうもワシの話を聞いて驚いておったからの。偶然が重なった結果としか言えん』
偶然の重なり……、それで運命だと。
『ワシが趣味仲間とデスゲームの新規層獲得の活動しておるのは話したことあるじゃろ。ワシの担当ではないが、ネットのコミュニティサイトも利用しておるのじゃ』
「それにかかったのが近衛君だったと」
『うむ。でじゃ、ネットだとデスゲームに出場したいという者が多いらしい。まぁ9割以上が口だけで
「……出場するデスゲームをあの脱出ゲームにした理由はあるのですか?」
『スケジュールが合ったから以外に理由はないそうじゃ。生き残った小僧をネットの方を担当する一人が気に入って会うようになった。あの状況で生き残ったのは奇跡に近いからの、興味が湧くのも分かる』
「…お父様も近衛君に会ってみたいのですか?」
『そこまでは思わんよ。クリアしたならともかく運で逃げれただけではの』
…でもお父様は、近衛君のフルネームを覚えてたんですよね…。
『美優が気にしておった、人狼ゲームの動画を小僧に見せた件じゃが、これも自分のコレクションを自慢しただけらしい』
「…そのお知り合いの方は私の事を知らない人ですか?」
これは別に「デスゲームを愛好する人で私の事を知らない人なんていない」とか、思い上がった思考ではないですよ。お父様は毎回趣味仲間に
『紅がワシの娘であることは知っているが、美優が龍宝学園に通っていることまでは知らん。景虎のように全てを話せる知合いではないのでの』
「私と近衛君がクラスメイトだとは知らなかったと……、お父様に異議したくありませんが、その証言は信用出来るのですか?」
『あやつがワシに逆らうようなことはせん。嘘だとバレた場合、地獄を見ると分かっておるからの」
…なるほど、デスゲームを愛好する趣味仲間でも上下関係はあって当然ですね。
『心底反省しているから明日にも謝罪に来たいそうじゃ。美優も同席するか?』
「いえ、悪意が無いなら私に謝罪はいりません。それより近衛君に対する処置は?」
『昨日話したとおり厳重注意のつもりじゃ』
「そうですか…」
『不満か?』
「今日も絡んできたもので、厳重注意ではちょっと温いかと思いまして」
『…詳しく話してくれ』
・
・
・
『……美優よ、それは逆効果じゃぞ』
「そうですか?実力差を分からせるのが一番だと思ったのですが…」
『どれだけ実力差があろうと「勝てたら付き合える」という一縷の望みが残るじゃろ』
「近衛君が私に勝つには年単位の鍛錬が必要です。労力に対する結果が見合っていません」
『…何を基準に見合っていないと判断しておるのじゃ?』
「付き合う=私を好きに出来るわけではありません。近衛君は女子に人気あるので、性欲を満たせる相手は他にもいます」
『……美優は恋愛事においては疎いの』
…これは彼氏いない歴=年齢をバカにされているのでしょうか。
『話を戻そう、美優は近衛 天晴に対してどういった処遇を望む?始末して欲しいと言うならそうするぞ』
「死んで欲しいとまでは思っていません。私に関わる気がなくなれば十分です」
『分かった、その様に処罰するとしよう』
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