第57話 学園ラブコメ…? ③


 火曜日、学園では私に近衛君が告白した話が予想以上に広まっていました。

 理由は近衛君が龍宝十傑の一人だからのようです。女子から人気があるのは聖華さんから聞いていましたが、


「清白先輩、近衛先輩に告白されたって本当ですか?」

「本当ですよ、お付き合いは断りましたけど」


 まさか、全然知らない後輩の女子から話しかけられるほどとは思いませんでした。


「私は中等部時代サッカー部のマネージャーで、ずっと近衛先輩に憧れてて…」


 私の中学にもいましたね、こういう自分がどれだけ相手を想っているかを伝えて、遠回しに手を出すなと言う女子。


「断りましたって聞こえませんでしたか」

「あ、いえ……すみません」



 面倒臭いことに一日に何回も似たような会話をすることになりました。

 でもきっぱり断ったことは聖華さんと茜さんという学園で影響力ある2人が証言してくれるので、すぐ収まるでしょう。


 放課後。


「清白さん美味しいケーキ売ってる店知ってるんだけど、一緒に行かない?もちろん奢るよ」


 面倒の原因が話しかけてきたら収まらないでしょうがっ!


「…近衛君、昨日の私の言葉聞いてましたか?」

「うん。確かに僕は清白さんのこと何も知らないから知る努力をしようと思って」

「私は近衛君に興味ないので、お付き合いする気もお友達になる気もないと言ったんです」

「うん。だから僕の事も知ってもらって興味持ってもらおうと思って」


 …どれだけ都合の良い頭をしているしょうか?

 

「もしかして、からかってますか?だとしたら本気で怒りますよ」

「いや全然そんな気はないよ…、でも僕は…」


 近衛君は私の目を真っ直ぐ見て、


「あの時清白さんと会えたのは運命だと思ってるんだ」

「近衛君…、気持ち悪いです、今すぐ目の前から消えて下さい」

「あ、こういうのは嫌いなんだ。一つ清白さんのことが分かったよ」


 …これは厳重注意ではぬるいかもしれません。


「まだ美優のこと諦めてねぇのか近衛」

「しつこい男は嫌われますわよ」


 茜さんと聖華さんが助けにきてくれました。


「でも一回で諦めたらあっさり過ぎない」

「まぁ確かにな」

「そうですわね」

「一言で納得しないでください。今も断ってるのにつきまとおうとするんですよ、ストーカー予備軍と言って過言ではありません」

「クラスメイトをお茶に誘っただけだから過言だと思うけど…」


 ストーカーは皆自覚がないんですよね。


「…昨日から思ってたけど、突然過ぎないか近衛。今まで美優と関わりねぇだろ?」


 この質問は私も女子から聞かれました。「近衛君に聞いてください」以外の返答など私にはないんですけどね。

 

「…説明は難しいんだ。嘘偽りなく言えるのは、運命を感じた。それだけだよ」

「運命かぁ……、そういうこともあるかもな」


 乙女チックな茜さんに運命という言葉が効いています。


「美優さんは強く逞しい大人の男性が好みなのですわよ、近衛君とはかけ離れてますわ」

「だったら鍛えて強く逞しくなるよ。「大人」ってのが「頼りがいのある」って意味ならそうなれるよう努力する」

「簡単なことではありませんわよ」

「僕の全てを費やして清白さんの理想の男性になるよ」

「…美優さんを想う気持ちは本物の様ですわね」


 聖華さんまで何ほだされてるんですか。


「想う気持ちが本物かどうかなんて言葉だけで分からないでしょ聖華さん。それと、運命って言葉だけでチョロく籠絡されてたら将来クズ男に騙されますよ茜さん」

「チョロくねぇよ!」


 チョロい人も皆自覚がないんですよね。


「確かに目に見える結果を出さないとだね。…因みに有名人に例えたら誰が好みとかある?具体的な目標があれば鍛える方向性が決めれるから」

「有名人に例えたら……そういう考えはしたことありませんね」


 そもそも私は男性を好きになったことがないんです。

 気になった男性がいないわけではありませんが、それは習い事の師匠やコーチなど。好意ではなく敬意を持っただけと言えます。

 少なくとも弱い男に興味がないので、合わせて「強く逞しい年上の男性が好みかな」ってだけです。

 

「具体的な目標を提示するなら、私より強い事ですね」

「え!?美優それハードル低くね?」

「私は強いですよ」

「それで同級生に興味ないって、学校で一番強いつもりですの?」

「私は天才ですから」


 茜さんや聖華さんには分からないでしょう。この目標をクリアする難しさは。でもデスゲームで私に襲われた近衛君は、


「それって素手の勝負でも良いの?」


 …分かっていないようですね。


「素手なら私に勝てるとでも?」

「あ、いや……勝負のルール次第かなって。柔道なら僕小学校の時習ってたし、体格も僕の方が少し大きいから勝てる可能性はありそうとか考えたり…」


 近衛君がのファンと言ったのは撤回します。この程度の認識だったとは…。


「良いでしょう、柔道で私に勝てたら近衛君と付き合ってあげます」

「本当に!?」

「マジかよ!?」

「本気ですの!?」

「ええ。さっそく道場へ行きましょう」


 


 場所を移して柔道場。


「部活のお邪魔をして済みません伊藤先生」

「素人なら許可しないが、体育の授業で清白と近衛が経験者なのは知っているからな」


 体育教師で柔道部顧問の伊藤先生は、私と近衛君が柔道で勝負する事を了承してくれました、審判もしてくれます。

 そのかわり、


「さっき言ったように、負けた方が道場の大掃除を手伝うんだぞ」


 柔道部は夏前に道場を大掃除する決りだそうです。道場は広く倉庫も含めるとかなりの大仕事。人数は一人でも多く欲しいらしく、負けた方は手伝うのが勝負させてもらう条件となりました。

 私は勝つので関係ありませんけど。




「茜さんは美優さんの実力知ってますの?」

「柔道の授業で、技が綺麗だって先生に褒められてたのは覚えてる。でも授業で勝負はやらないから美優がどれぐらい強いかは分かんねぇ」

「…まぁ、美優さんに限って口だけってことは無いでしょうけど」

「美優が勝負で負けたのを見た事ねぇからな」

「ところで茜さん、バスケ部の方は行かなくて宜しいんですの?昨日も遅れたのでしょう」

「顧問からお小言ぐらいあるだろうけど、これを見逃すとかないだろ。聖華こそ今日習い事とかねぇのか?」

「既に遅れると連絡してますわ」




 胴着に鍛えた私と近衛君。


「勝負のルールは基本的な柔道」


 開始線を挟んで対面に立ちながらルールの確認をします。


「ですが、お尻や胸を故意に触ってきたら、殴る蹴るで反撃します。この場合は勝負自体も終了、約束も無しです」

「う、うん、分かったよ」

「一試合3分。全部で5試合、勝ち越した方が勝利です」


 一回勝負ではあっけなく終わるでしょうから。


「近衛君の方からは何かありますか?」

「え~と…仮に二勝二敗一分になった場合は?」


 あり得ないとは思いますが、一応決めておく必要はありますね。


「…引き分けで今日は終了、後日再勝負しましょう。掃除は二人共が参加ということでどうですか?」

「それで良いよ」

「他にはないですね」

「うん」

「では始めましょう」


 私は伊藤先生に視線を向けます。


「両者怪我しないようにな、危ないと思ったら止めるぞ」

「はい」

「分かりました」

「始め!!」


 開始の合図で私は普通に歩くように近衛君へ近づき、漫然と組み合う為に腕を出す。

 近衛君はそれにつられて何の警戒もせず腕を出してきました。

 

 バカですね。


 私は素早く近衛君の袖と腕を掴んで瞬時に懐に潜り込み、背負い投げ。

 柔道場に”バーンっ”と畳に叩きつけられる音が鳴り響きます。


「い、一本っ!」


 開始早々の一本に周りの茜さん聖華さん+柔道部員から「おぉっ!」と驚嘆の声が漏れます。


「まずは私の一勝ですね」



 


「美優強ぇ瞬殺じゃん。…近衛が雑魚過ぎるだけかもしれねぇけど」

「ただ腕出して投げられただけでしたわね。でも柔道部の人達も驚いてたので美優さんが凄いのだと思いますわよ」

「素人目にも綺麗な投げに見えたな」

「正直美優さんの動きが速くてわたくしにはよく見えませんでしたわ。あれは何て投げ技ですの?」

「背負ってたから背負い投げじゃね。一本背負いってのかもしんねぇけど」

「あれは背負い投げだ」

「そうですの……って誰ですの?え、ゴリラ!?」

「俺は柔道部主将のご…」

「いきなり現れんなよゴリオ、びっくりするだろ」

「俺は元から道場にいた」

「ゴリオ…名が体を表してますわね」

「それはアダ名だ」

「ゴリオは二年で私や美優と同じクラスだったんだ」

「俺の事はどうでもいい、聞きたいんだが何で清白と近衛は勝負してるんだ?」

「近衛が美優に勝てたら付き合うって話になってるからだよ」

「なん…だと…!?どうして柔道の勝負で付き合うって話になるんだ?」

「それは…」

「詳しく聞きたいなら条件がありますわ」

「どんな条件だ?」

「試合の解説をしてくれませんこと?」

「解説…?二人の試合のか?」

「ええ、わたくし達は柔道素人ですので解説してもらえると助かりますの」

「俺の分かる範囲で良いなら幾らでも解説する」

「それじゃ、さっきの試合の解説頼むぜ」

「今の試合は一瞬だったから言える事は少ないが…間違いないのは、清白は背負い投げが得意なのだろう。自分より大きい相手を投げても全く体の芯がブレていない、だから綺麗な投げに見える」

「では五試合して勝ち越すのは美優さんですのね」

「…そうだな、…そうでなくては困る」

「何でゴリオが困んだよ?」

「あ、いや……。それより二人が試合してる理由を…」

「それは勝負がついてからですわ」

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