第56話 学園ラブコメ…? ②
放課後16時前、体育館裏に向ってます。
ですが、私の後ろを茜さんと聖華さんが歩いてます。
「何故2人もついてくるんです?」
「そりゃ面白そ…美優が心配だからに決まってるだろ」
「その通りですわ、決して好奇心を抑えきれないわけではありませんわ」
本音隠す気零じゃないですか。
「実際のところ相手が複数人待ってたら、美優さんも怖いでしょう」
同級生が何人待ってようが怖くありません。
「女子三大天の座を狙う敵かもしれないしな」
そんな座は
でも、心配しているのも嘘ではないのでしょう。
「…相手が1人だったら、離れててください」
体育館の横沿いから裏を覗くと、
「おい、あれって…」
「近衛君ですわね…」
やはり…、
「2人はそこで待っててください」
私は2人を残して、近衛君に近づきます。
「清白さん!来てくれてありがとう!」
私の姿を見て喜びの表情になる近衛君、…演技なら大したものです。
「一応確認しますが、手紙の差出人は近衛君ですか?」
「うん、ごめんね呼び出したりして」
「伝えたいこととは、教室では言えない内容ですか?」
「う~ん…、言えなくはないけど、教室で言うことではないかな…」
変な言い回しですね。デスゲームでの脅迫なら教室で出来るはずない。
まぁ、そもそも私を脅すなど出来ないのですけど。
「でもここまで来てくれたから、単刀直入に言うよ」
近衛君は三歩分程の距離まで詰め、少し頭をさげ手を差し伸ばし、
「好きです、付き合ってください!」
…おや、本気のラブレターでしたか…?読み間違えましたかね…。
脱出ゲームで生き延びた人は他人の空似?…でも私が蹴った個所を怪我してましたし…。
デスゲーム関係なく私に告白してる…?なくはないと思いますが、しっくりはきません…。
単刀直入と言いつつ真の意味は「秘密をバラされたくなければ、俺の女になれ」とか…?これが一番あり得そうですが…。
差し出した手をプルプル震わしながら私の答えを待つ近衛君。悪意は感じられないんですよね…。
いずれにしろ、私の答えは決まっています。
「お断りします。話が以上でしたらこれで失礼します」
「待って待って!理由ぐらい聞いて」
「興味ありません」
「…清白さんは紅だよね」
脅迫紛いの告白が正解でしたか…。
「何を言っているのか分かりません」
近衛君がどこまで知っていようと関係ありません、私は知らぬ存ぜぬを貫くだけで良い。後でお父様に報告すれば、近衛君に適切な処置がくだされます。
「待って!違うんだ!正体をバラすとかって脅す気は微塵もないんだ!そういうのは禁止だって聞いてるし、学校なんかでこういう話をするだけでも僕が危険になることは知ってる」
近衛君の瞳と声に熱が帯びてます。
「それでも気持ちを伝えずにはいられらくなったんだ!デスゲームでの君が、人を殺す紅が、とても美しかったから!」
…この感じ覚えがありますね。
「意味が分かりません、一から説明してください」
「あ、そっか…、僕は脱出ゲームで…、出場した経緯から話した方が良いかな?」
「一からで」
「え~と…、僕は昔からホラー映画とかが好きだったんだけど、沢山見る内に怖いのが見たいんじゃなくて、…人が殺されるのを見たいんだって気づいたんだ。……」
近衛君はこちらの反応を待ってます。
いや、待たれても、
「それで?」
としか言えないのですが。
「え、うん…、自分に殺人衝動とかあるのかなって考えたりもしたんだけど、自分で誰かを傷つけたいとは思わないんだよね。でも見る方はエスカレートしていって、フィクションじゃ物足りなくてダークウェブでリアルな人殺し動画を探すようになったんだ」
繋がりが見えましたね。
「そして色々探してるウチにデスゲームにいきついたんだよ」
フィクションでないデスゲーム動画は一般人が普通にネットで検索しても見つかりません。
ダークウェブと呼ばれるネットの深い部分にアクセスし、数多あるパチモンサイトに騙されず本物の動画サイトを見つけ、高額の料金を支払って視聴できるようになるそうです。
厳密にはもっと複雑らしいですけど、詳しくは知りません。私は見る方ではなく
「でもデスゲームの動画は高額だから直ぐに貯金が底をついて…」
「……まさか、借金を?」
「いや、借金はしてないんだけど……、伝手で脱出系デスゲームに
こんなところに、借金も無いのに伝手で初デスゲーム出場したバカが居ましたよ。
「出場した結果、クリアは出来なかったけど生き残ることは出来たんだよ。知ってると思うけど」
「私は何も知りません。でも続きを話してください」
「…それで賞金は得れなかったんだけど、……出場の手配してくれた人とはより仲良くなったんだ。それまではネットだけのやり取りだったけど実際に会うようになって…」
さっきの「伝手」と、この「出場の手配してくれた人」が怪しいですね。近衛君も意識して隠してる言い方です。
裏で糸を引いている者がいるのかもしれません。
「それでこの前、人狼ゲームの編集版を見せてもらったんだ」
あの人狼ゲームを見れば、私が紅だとは分かるでしょう。ですがピンポイント過ぎる。
「凄かったよ!最初は全然清白さんに見えな…」
「感想などいりません」
「あ、そう…、それで気づいたんだ。僕は人が殺されるのを見るのが好きだけど、殺す人を見るのも好きなんだって!そして今まで見てきた中で一番紅がカッコ良かった、美しかった!だから」
近衛君はまた手を差し伸ばしきました。
「お友達からで良いです!仲良くしてください!」
「…なるほど」
要は
近衛君の状況を例えるなら、推しの女性アイドルの正体が同級生だったことに舞い上がってる感じですかね。さらに同じ嗜好の秘密を共有しているという状況に、ワンチャン仲良くなれると思ったのでしょう。
「お断りします」
残念ながら勘違いです。
「特殊な性癖をお持ちの様ですが私には関係ありません。人が死ぬのを見るのも人殺しを見るのも、私は好きではありません」
「え、そんなわけ…」
「あなたが私の何を知っているんですか」
「うっ……」
「私は近衛君に興味がありません。話は終わりです」
「あ、待って…」
まだ呼び止めてくる近衛君を無視して
「茜さん聖華さん、終わりましたよ」
2人が居て良かったかもしれません、あの様子だと付き纏ってくる可能性もあります。
私の声に二人が姿を……、何故かその後ろに女子がぞろぞろいます。
「何で集まってるんですが?」
「
二人は目立ちますからね、こんなところに揃って居たら気になるのは確かです。
「あと手紙の話を盗み聞きされてたっぽい」
それは茜さんの声が大きかっただけだと思いますが。
「それでどうだったんだ?結構長い事話してたけど」
「この状況で聞きますの?」
「断りましたよ」
「この状況で答えますの!?」
「皆さん状況から察してますよ」
「…それもそうですわね」
広まった方が近衛君が今後話しかけてこないでしょう。
「断ったのは好みではないからですの」
「ええ」
「まぁ近衛に、強く逞しい年上感はねぇな」
「近衛君はどちらかと言えばかわいい系ですわね」
かわいい系ね…、そんな近衛君が人殺し動画を見るのが大好きだと知ったらどういう顔をするでしょうか…。
あ、そんな相手に好かれてる人殺しが言うなって話ですね。
帰宅して早々に私は実家に電話をかけました。
『はい、清白家です』
「美優です。お父様に代わって頂けますか」
『少々お待ちください』
直ぐに回線が切り替わり、
『美優から電話とは珍しいの』
「お忙しいところ申し訳ありませんお父様」
『構わんよ、相応の要件なのじゃろ』
「はい。今一人でしょうか?」
『うむ、一人じゃ。そう聞くという事はデスゲーム関連じゃな』
「以前私が鬼役を務めた脱出ゲームに、クラスメイトが出場していた話を覚えていますか?」
『エクセプションルートで逃げた奴じゃろ、名は…近衛 天晴じゃったか」
近衛君のことは前にも報告しています、お父様は念の為、彼の周辺を調べてくれました。結果、両親とその仕事に裏の業界との繋がりはなし。本人も裏はもちろん不良グループ程度すら繋がりはなし。
その時は脅威にならないと判断しました。
「そうです。彼が今日、私を紅と知った上で接触してきました」
『…脅されのか、今すぐその者を始末するよう…』
「いえ、脅されたりはしていません。一応仲良くしたいという要望でした」
『詳しく話してくれ』
・
・
・
『なるほどの。天才で可愛い美優に恋焦がれるのは無理ないが、若さゆえ少々暴走しとるの』
「私の見た感じ悪意を隠してる様子もありません」
『なら厳重注意で様子見かの…。美優がもっと重い罰を望むなら別じゃが』
「私も厳重注意が適切だと思います。ただ気になるのは近衛君のデスゲーム出場を手配した者です。生き残った近衛君と直に会うようになって、私が出場する人狼ゲームを見せた。これは偶然にしては出来過ぎです」
『ふむ…………その件ワシに預けてくれぬか?』
「もちろん構いません。何か心当たりが?」
『まぁの。分かり次第連絡する』
「お手数おかけします」
『日常のデスゲーム関連はワシの問題と言える、何かあれば直ぐに報告しなさい』
「ありがとうございます」
『別にデスゲーム関連以外でも連絡してきてよいぞ。言い寄って来る男がいて迷惑しているとかの』
「その程度なら自分で対処出来ます」
『美優はしっかりし過ぎてて、自分から甘えてくれんから寂しいの』
「それは欲張り過ぎですよお父様」
『そうじゃな、すまんすまん。また連絡する』
「はい、失礼します」
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