第55話 学園ラブコメ…? 


 頬の傷跡が目立たなってきたある月曜日の朝。

 学園に登校し席に着いた私は、


「?…これは」


 机の中の覚えのない封筒に気づきました。【清白さんへ】と宛名が書かれています。


「手紙ですかね……」


 直ぐ開封せず曲げたり捻ったりしてみます。カッターの刃とか入っていたら危ないですから。


「おっす美優」

「おはようございます茜さん」

「…何だそれ?」

「私宛の封筒が机に入っていました」

「えっ、ひょっとしてラブレターか?」

「まだ中を見てないのでなんとも…」


 茜さんが顔を寄せてきました。


「近いですよ」

「読まねぇの?」

「人前で読むモノではありませんから」

「固い事言うなよ。急用かもしれないぞ」

「急用を置手紙で知らせないでしょ」

「でも嫌がらせかもしれないしよ」

「嫌がらせ?」


 私も刃が仕込まれてないか確認しましたが、それは裏の業界に関わっているから。普通の学生は封筒=ラブレターor嫌がらせとはならないはず…。


「ごきげんよう、何を騒いでますの?」

「美優がラブレターっぽい封筒貰ったんだよ、聖華も一緒に読もうぜ」

 

 何で茜さんが誘うんですか。


「ラブレターっぽいの封筒……直接渡されたのですの?」

「いえ、机の中に入れてありました」

「…それは一緒に見た方が良さそうですわね」


 何でそうなるのですか!?龍宝学園では机の中の封筒は複数人で読む仕来りでもあるのですか?


「中等部時代の話なので美優さんは知らないでしょうが、ラブレターに扮した嫌がらせが騒がれた時がありますの」

「ラブレターと思わせて罵詈雑言が書かれてるとか、呼び出して告白とか思って待ってる奴を笑い者にしたりとかな」


 中学生の嫌がらせならそれぐらいでしょう。似た嫌がらせは私の中学でも聞いた事があります。お金持ち学校でも所詮中学生は同レベルという事ですかね。


「今は高3ですよ、やって良い事と悪い事の区別はつくと思いますが」

「区別出来てて悪い事をする犯罪者は世の中いっぱいいるだろ」

「…それもそうですね」

「もし罵詈雑言が書かれていたら鑑識に回しましょう。筆跡や指紋から相手が分かると思いますわ」

「犯人は打ち首獄門だ」


 心配してくれているのか、楽しんでいるだけなのか…多分両方ですね


「……そこまで言うなら、一緒に中を見ますか」


 真剣な内容だと相手に悪いですが、机の中に入れておく方も悪いと言えます。

 封筒を開けると中には便箋、書かれていた内容は、


『突然お手紙を差し上げます失礼をお許しください。

 どうしても伝いたいことがあります。

 今日の放課後16時に体育館裏でお待ちしております。

 都合が合えばで構いません、お越し頂けたら幸いです』


 差出人の名前は書かれていません。

 ラブレター?…にしてはビジネス的な文章ですね。

 

「これは嫌がらせの可能性高いですか?」

「「え…あ…ん~…?」」


 二人も答えあぐねています。


「とりあえず美優を憎んでる感じはしないな」

「時間も明確ですし先に待っているなら、本当に大事な話があるのかもしれませんわね」

「相手にとって大事でも私にとってはどうでいいのことが多いですが」


 というより生徒同士で大事な話など一度もありません。


「あら、裏に花の絵がありますわよ」


 便箋を裏返すと、赤い薔薇の絵が描かれていました。


「赤い薔薇…、花言葉は『情熱』『愛情』だったな。本気まじのラブレターじゃね」

「……茜さん花言葉とか覚えてるんですね」

「意外ですわ…」

「うっせぇよっ!」


 茜さんは男勝りに見えて乙女チックなところもあるんですよ。


「薔薇の意味は確かに呼び出して愛の告白がしたい、と読み取れますわね」

「ここまでして嫌がらせだったらやっぱり打ち首獄門だな」


 2人は本物のラブレターか凝った嫌がらせかの二択で考えてますが、私にはもう一つ考えられます。


 ラブレターなら赤い薔薇を裏に描く必要はありません。

 もし赤い薔薇が紅薔薇、紅を意味しているとしたら、


『お前の裏の顔が紅であることを知っている』


 という脅迫状にも読み取れます。


「放課後会って話を聞いてみるしかありませんね。交際の申し込みだったら相手が誰であろうと断ることになりますが」

「…美優が家から恋愛禁止されてるって噂本当なのか?」

「恋愛禁止とまでは言われてませんよ」


 半端な男性ではお父様が反対しそうですが。


「なんか将来政略結婚させられるとかも聞いたけど…」


 政略結婚?…そんな噂が流れるとしたら原因は一人しかいませんね。


「茜さん、他所様の御家事情に口出すのはよくありませんわよ」

「御家事情などではありませんよ、徳彦君が流したデマ情報です」

「なんだよ!甥っ子君のイタズラかよ」

「困った甥っ子君ですわね」


 同い年でも徳彦君が戸籍上私の甥っ子なのは、2人だけでなく同級生大半に周知されています。


「話を戻しますが、交際を断ることと清白家は関係ありません。同級生に興味がないだけです」

「ん?……年上が好みとかって話か?」

「違ってはいません、好みというなら強い人ですけど」

「格闘家などの逞しい男性ってことですの?」

「広い意味では合ってますね」

「へぇ~、美優は強く逞しい大人の男性が好みなんだな」

「だからと言ってバカは対象外ですよ」

「補足なくても誰でもバカは嫌ですわ」

「…二人はどういう男性が好みなんです?」


 さして興味ありませんが、私だけ話すのもなんか癪なので。


「私もヒョロッとした男は好みじゃねぇが、マッチョも好きじゃねぇんだよな…。いて芸能人で例えるなら、ヴィエンツかな~」

「それって今人気のアイドルですよね」


 茜さんが例えで出したのは日米ハーフで王子様系イケメンアイドルの名前。乙女チックな茜さんは王子様系が好みのようです。


「茜さんはミーハーですわね」

「ミーハーじゃねぇよ!そういう聖華はどうなんだ?」

わたくしは外見より中身が大事だと思ってますの、優しく包容力のある男性が好みと言えますわね」


 聖華さんは超名家なので、対象男性の基本スペックがまず高水準。上流階級の選りすぐり男性に+優しく包容力があれば好みという意味でしょう。


「つまんねぇ答えだな、自慢の縦ロールが泣くぞ」

「笑いを取るところではありませんし、縦ロールは関係ありませんわ」

「縦ロールの聖華さんなら婚約者の1人や2人いるのでは?」

「それも縦ロール関係ありませんし、婚約者が2人以上いては駄目ですわよ」

「言い間違いました。白鳳院家の一人娘なら婚約者候補の1人や2人いるのでは?」

「…縁談の話なら数えきれない程きているそうですけど、お父様がまだ早いと止めてますわ」

「聖華とこの親父さんはそんな感じだな」


 白鳳院家の現当主が娘を溺愛しているのは有名。私と茜さんは白鳳院家が主催するパーティーに参加して会った事もあります。


「お二人には縁談の話ありませんの?」

「ウチはそんな上品な家じゃねぇよ」

「私も正式な話はありませんね」

「……そうですの」


 何か含みのある間ですね。


「楽しそうに何話してるの?」

「縁談とか言ってましたね」


 私達が珍しく恋バナをしていたからか、他の女子も集まってきました。


「いや、縁談は聖華だけで最初は…」

「好みの男性のタイプについて話してましたの」

「お三方もそう言う話するんですね!」

「混ぜて混ぜて!」


 騒がしくなってきたので、会話は二人に任せましょう。ラブレターのことは秘密にしてくれるようですし。


 私は会話を聞き流して、視線を一人の男子生徒に向ける。丁度向こうもこっちを見ていて目が合い、すぐ逸らされました。

 私が鬼役を務めた脱出ゲームで生き延びたクラスメイトの近衛君。

 彼なら私を紅だと知っている可能性があります。逆に言えば体育館裏で待っているのが近衛君だったらラブレターではないということになりますね。

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