第54話 実家 ③
「ところで、さっき言ってた新事業成功パーティー。来月の予定ではありませんでしたか?」
私にもパーティー参加の可否確認はありました、興味ないので辞退しましたけど。
「急遽早まったのじゃよ」
…クリア祝いを早めた理由もこれでしょうね。
「徳政さんと義光さんは早くお父様に誉めて頂きたいのですね」
「どうかの…、来月では赤字になってるからかもしれん」
「…さすがに冗談ですよね?」
「当初予想していた利益の三分の一以下。可能性としては全然あり得る」
事業の具体的なことは何も知りいませんが、ビジネス競争で伸し上がったお父様が言うならあり得るのでしょう。
「そもそもじゃ、今まで何度も失敗して損失が山積みなのだぞ」
徳政さんと義光さんが新事業を立ち上げるのはこれが初めてではありません。2度目や3度目でもないようです。
「ワシも新事業失敗は幾度も経験している、成功すれば祝いパーティーもしておった。じゃがそれは今までの損失を挽回出来る成功でこその祝いじゃ!今回だけで微々たる利益が出てパーティーってどういう思考しとるんじゃ!」
”パチッ”…話に気持ちがいって将棋の方が荒くなってますよお父様。
「良い方に考えるなら……、お父様に伝えていない秘策があり新事業はこれから利益が右肩上がり、失敗した負債を補える算段がある。とかですかね」
「悪い方に考えると?」
「お父様という後ろ盾が大き過ぎて、失敗を認識て来ていないボンクラ。ですね」
「はぁ~……せめてその中間ぐらいであって欲しいの」
溜息と共に指したお父様の一手が予想通りだったので、すかさず”パチッ”、
「王手です」
「むっ……………ワシの負けじゃな」
「ありがとうございました。悩み事のせいで荒くなってましたね」
「…美優が跡継ぎなら、こんなことで悩んだせんじゃろうにの」
「そういう冗談を言うから、奥方様以外も私を目の敵にしてくるのですよ」
隠し子だけでも問題ではありますが、まだ個人的の範囲です。
しかし、隠し子が財閥の跡継ぎ争いに加わるとなれば、組織的な大問題になってしまいます。
なのにお父様は「徳政と義光は頼りないから美優を跡継ぎにするのも良いかもの」とか皆の前で言うのです。
「奪い取られない自信があれば笑い飛ばせる冗談じゃ」
誰も笑ってませんよ、毎回シーンとなるだけです。
「文句を言ってくるなら実力で黙らせてよい、徳彦のようにの」
「徳彦君は黙るどころか火に油を注いでる感じなんですよね」
「卑怯な真似をしてきたらワシに言え、若いウチに邪道を覚えるとボンクラどころかクズになってしまうからの」
これは逆に言えば「正々堂々なら相手してやってくれ」とも取れます。
奥方様が「その女ばかり」と言ってましたがお父様は息子や孫達を蔑ろにしているわけではないと私は思っています。
違いはお父様の期待に応えることが出来るかどうか、それだけです。
「ここらでお開きにするかの」
「はい」
やっと休めます。
「……そうそう、貞夫と泰子にクリア報告はしておいたぞ」
お父様は戸の前に立ち私に背を向けながらそう言いました。
「お父さんとお母さんは喜んでくれてましたか?」
「…喜んではいないかの」
「くくく、二人からしたら私がデスゲームで死んだ方が良いのでしょうね。本当の解放となるのですから」
人狼ゲーム二日目での「私が逃げたりしたらお父さんとお母さんが殺されるんだよね」の言葉は嘘ではありません。
初デスゲームをクリアして真実を知った上でデスゲーマーに成る事を決めた後。
私はお父様に、「もし私がデスゲーム出場を断ったり、逃げて行方を晦ました場合はどうなるのですか?」
と質問しました。
お父様の答えは、「貞夫と泰子をデスゲームを出場させるつもりじゃ」とのこと。
ただ殺されるのではなくデスゲームを出場させられるのですが、お父さんとお母さんは私と違って凡人なのであっさり死んでしまうでしょうから結果は同じです。
ですが人質とは思っていません。
お父さんとお母さんは清白家の分家などではなく、元は多額債務者で強制的にデスゲーム出場が決まっていたのをお父様が条件付きで救ったそうです。
その条件が、私をデスゲームをクリア出来る優秀な人間に育てること。
つまり自分達がデスゲームに出場したくないが為に私を育ててデスゲームに出場させたわけです。
なら私が出場したくなくなったら、二人を出場させてもお互い様ですよね。
「美優、デスゲーマーを辞めたくなったら逃げ出したりせずワシにちゃんと言うのじゃぞ」
……これは「最後に特別なデスゲームを用意している」という意味でしょうか…?
お父様の心情は置いといて、この言葉への返答は決まっています。
「デスゲーマーとして日本一ぐらいにはなろうと思うので、しばらくは辞める気ありません」
「…わはははっ!さすがワシの娘じゃ!」
お父様の娘でなければデスゲーマーに成っていませんよ。
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