第53話 実家 ②


 景虎様とのモニター越しデスゲーム談義が終わり今は、

 ”パチッ”


「3七なり……鋭い一手じゃな」

 

 将棋を指してます。

 時刻は既に0時を回っているんですよ、お年寄り同士の談義が長かったので…。

 まぁ、メールを読んだ瞬間ゆっくり休めるのは先になるだろうと思ってましたよー。若いので大丈夫ですけどねー。


「美優は将棋でも攻め気が強い、景虎の言っていたことも間違ってはおらんの」


 景虎様が指摘した私の人狼ゲームでの穴は大きく分けて三つ。


・序盤から目立ち過ぎていた。

・初日の襲撃で剛力は危険に思えた。

・エセ関西と手を組めば怪我せず勝てた可能性もある。


 総じて「他に安全な策があったのではないか」というものでした。


「景虎様なりのアドバイスですかね」

「そのつもりじゃろうな、景虎は将棋でもビジネス競争でも守りを主戦法とするからの」

「見た目からは虎の様に攻めそうなイメージなので意外です」

「ワシのイメージは虎の牙を持ったじゃな。堅実な安全策を取り、同時に相手を分析して隙があれば一気に噛みつく。カウンタータイプとでも言うべきかの」

「ふふっ、それはデスゲームで対戦したら厄介そうですね」

「堅実な安全策を取る奴はデスゲームに出場しようとは思わん」

「…それもそうですね」


 デスゲーム出場者の大半は多額債務者や犯罪者。どちらにしろ堅実な生き方をしていたとは言えません。

 仮に運が悪くてどちらかになったとしても、デスゲームの完全な安全策は出場しないこと。

 つまり自分の意思でデスゲームに出場している時点で堅実な安全策を取る人ではないと言えます。

 例外は拉致監禁からの強制出場ですが、景虎様のような金持ちは対象外です。デスゲーム運営も無差別に拉致しているわけではありませんから。


「親切心ではなく羨望からでた言葉じゃろうがな」

「景虎様が私を羨望…?」

「景虎でも「もし自分が出場したら」と想像はする。しかし景虎に美優のような攻撃的な戦法は想像でも「自分には出来ない」という思考に行きつく。心の底では羨ましい悔しいと思っているのじゃよ」

「……ゲームクリアの賞賛に嫌味は感じませんでしたよ」

「それはそうじゃ。デスゲームに出場た事もない者が勝者にケチを付けるのは無粋。内心を隠すのは才能より年期が必要じゃ」


 ”パチッ”お父様が次の手を刺しました、6四銀……これは……不味いですね。


「…さすがお父様、優勢だと思っていましたが誘いでしたか」

「これも同じ、ワシと美優とでは将棋の年期が違う」


 デスゲームを除いてお父様の趣味と言えるのが将棋。

 小6で始めたらしく、私が将棋を学ぶように言われたのも小6でした。中一で初めてお父様と指したのですが、完全敗北してとても悔しかったのを今でも覚えています。

 高3になった私の将棋歴6年、お父様は将棋歴50越え、確かに年期が違います。

 ……ですが”パチッ”、


「まだまだ私に勝機はあります」

「6七角か…、後一手誘い通りに指せられれば詰み筋も見えたんじゃが……。会う度に美優は強くなるの」

「18歳ですから当然です。私が勝ち越した時の言い訳を歳のせいにしても良いですよ」


 今の勝率はだいたい2:8でお父様が勝ち越しています。そう遠くない内に私が勝ち越すつもりです。


「ふぉふぉ、美優とは将棋を指すだけでも楽しいの」

「ふふ、私もお父様との将棋は楽しいです」


 お互い口は笑ってはいますが、目は真剣に盤面を見つめています。

 しかしここで、戸をノックする音が勝負に水を差しました。


「総帥様、宜しいでしょうか?」


 戸越しの使用人の言葉。


「急用か?」

「…奥方様が来ておられます」

「ワシは急用かを聞いておるのじゃ」

「あ、いえ…0時を過ぎても母屋に戻られないので心配になって、とのことですが…」

「フンっ、…もう少ししたら戻ると伝えておけ」

「は、はいっ……え?奥方様!?」


 使用人の驚きの言葉の後、戸が勢いよく開かれました。


「…騒々しいぞ、何かあったのか天音」


 現れたのはお父様の伴侶、清白すずしろ 天音あまね。お父様と私と将棋盤を順に視線を向けた後、


「はぁ~……、いつまで遊んでいるつもりなのですあなた?」


 安堵と呆れ半々の溜息をつきながら、そう聞いてきました。


「もう少ししたら終わる、母屋戻っておれ」


 盤面から視線を逸らさずの答えに眉を顰めつつ、


「…いらしてたのね、美優さん」


 次は私に、知っていたくせに聞いてきます。


「はい、お久しぶりです奥方様」


 清白 天音と私は戸籍上は母と娘、ですが血縁上の繋がりはありませんし、お互いの認識でも他人としか思っていません

 なので養子になる前まで通り「美優さん」「奥方様」と他人行儀に呼び合っています。


「家に招かれたなら母屋に挨拶ぐらいくるべきではなくて?」

「前回行った時は、挨拶に来る必要はないと遠回しに奥方様が言いわれましたので」

「…美優さんも少しは上流階級のマナーを勉強すべきですわね」

「上流階級のマナーを知っているはずの奥方様の言葉に従っただけなので、勉強すべきは奥方様なのでは?」

「っ…下民育ちはこれだから」


 他人行儀と言うより普通に仲が悪いです。

 別に私は仲良くしても構わないんですよ、奥方様が敵視してくるだけで。


「美優さんは明日学校でしょう、早く…」

「公欠届を出しておるから問題ない」


 龍宝学園の生徒は将来親の会社に就職する者が多いので、「親の仕事の手伝い」と言う名目で公欠届を提出すれば認可されます。

 私がデスゲームで学校を休む時は毎回この理由です。お父様は会社のスポンサーなので大きい枠組みで見れば嘘ではありません。


「また公欠を…?いったい美優さんに何をさせているのです?」

「お前には関係ない、さっさと戻れ」

「ですが……明後日には徳政と義光の新事業成功パーティーがありますのよ、明日は色々準備で忙しくなりますからもう…」


 徳政とくまささんと義光よしみつさんは2人の息子。もちろん人工子宮など使わず奥方様がお腹を痛めて生んだ実子です。

 

「パーティーの準備など使用人達だけで十分じゃ」

「でもあの子達が頑張ったお祝いなのですから…」

「くどいぞ、さっさと戻れ。4度目は言わすなよ」

「くっ……、どうしてその女ばかりっ…」


 奥方様は憎悪すら籠る目で私も睨みながら部屋を出て行きました。


「相変わらず愛されていますねお父様」

「愛と嫉妬は比例するものはないのじゃがな。仕方ない、ここからは一手30秒にするか」

「そうですね。あの様子では遅いとまた乗り込んで来そうですから」


 擁護するわけではないですが、奥方様は決して性悪女などではありません。

 清白財閥総帥の奥方としても、愛する夫を支える妻としても、後継の男子を育てた母親としても、何一つ問題ないデキた女性です。

 でも奥方様は、私の存在だけは許せない。


「40年以上連れ添ってよくデスゲームのことがバレませんね」

「昔はもっと聞き分けが良かったのじゃ」


 奥方様はお父様がデスゲームを愛好している事を知りません。

 つまり私を養子にした本当の理由を知らず、お父様の「分家の優秀な娘を養子にする」という独断決定を聞かされたのです。


 誰でも「何で!??」となるでしょう。


 後継となる実子が2人いて、さらにその徳政さん(42)と義光さん(39)は既に結婚していて子供もいます。

 お父様から見て、息子2人、義娘2人、孫は3人。


 改めて考えても「何でっ!???」となるでしょう。


 ここからは推測ですが奥方様は私を、お父様とだと考えているのだと思います。

 筋書きにすると、


 愛人の女は事故か病気で、死に別れになった。

 残されたを分家の者に育てさせた。

 年々愛人に似てくるを手元に置いておきたくなった。

 学業が優秀なのを理由に養子にした。

 愛人に似ているから特別に可愛がっている。

 

 こんな感じですかね。

 愛人ではないにしろ、お父様と他の女との娘なので間違いとも言えません。


 デスゲームのことを知らなくてもお父様が何かを隠している事は奥方様も知っていたはず。昔は聞きわけが良かったという事は、隠し事が愛人だったとしても外での事は許容していたのでしょう。

 しかしお父様は内に持って来た養子にした

 奥方様それがどうしても許せない、だから私の存在が認められないのです。

 

 まぁ、私からしたらどうでも良い事ですけどね。

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