第52話 実家


 音重さんに病院へ送ってもらい、治療にしてもらった後。

 一旦自宅に帰り着替えて準備をしてから、本家からの迎えの車に乗って屋敷に向かいました。


 清白財閥の本家は門を潜ってからも車で走行するほどの豪邸。

 私を乗せた車は母屋の前…を通り過ぎ、停車したのは離れ屋の前です。


「送迎して頂きありがとうございます」


 運転手にお礼を言うと、


「礼には及びません、お嬢様」


 …お嬢様と呼ばれるのは、今だに慣れません。

 現在私は、戸籍上では清白 徳光の養子ということになっています。

 分家の優秀な娘を本家の総帥が養子として引き取った、という設定が一番スムーズだったそうです。

 

 車を降り手荷物を提げて、離れ屋の扉へ歩きだそうとするよりも早く、

 バァっーン!!

 扉が勢いよく開き、


「待ちわびたぞっ!我が愛娘、美優よ!」


 飛び出して来たお父様に抱き着かれました。

 年齢は67、総白髪で和服を好んで着ているので老人感は強目ですが、

 

「お久しぶりですお父様。……少し苦しいです」


 立ち振る舞いには活力が満ちています。


「すまんすまん。そうじゃ!怪我の具合はどうじゃった?」

「心配には及びません。痕も残らず綺麗に治るそうです」

「そうかそうか!」

「これお土産です、お父様の好きな日本酒」

「おぉ、ありがとの。なにをボサっとしておるお前達、荷物を持ってやらぬか」


 控えていた使用人達が慌てて私に駆け寄ってきて、荷物を受け取り運んでくれます。


「さぁさぁ中へ、食事を用意してある。一緒に食べようじゃないか」

「はい、お父様」


 何も知らない使用人達からしたら、いつも厳格な総帥様が 養子の娘が帰ってきたことにはしゃいでいるように見えるでしょうね。いや、それ自体は間違っていませんか……。

 初めは本当に闇の組織の黒幕感があったんですけどね…。

 


 テーブルには豪華な料理が溢れそうなほど並べられていました。


「ゲームクリアおめでとう美優。誠に見事じゃったぞ」

「ありがとうございますお父様」


 もうお分かりだと思いますが、

 お父様が私をゲーム終了当日に呼んだのは、クリア祝いがしたかったからです。 




「村人だったとしてもギャルの演技でゲームを進めたのじゃな」

「はい。ムードメーカーは吊られ難く、意見も聞いて貰えるベストなポジションと思いますから」


 食事をしながらの話題はクリアしたばかりの人狼ゲーム。クリア祝い+デスゲームの話をするのがお父様に呼ばれた時のデフォです。

 

「村人だった場合は鉄板焼きパーティーなどしなかったと思います、思考の妨げになりますから」

「ふむ、人は怒りや悲しみだけでなく、楽しい嬉しいなどの感情でも冷静な思考が鈍る。序盤から陽気なキャラで築いた楽しい雰囲気が、人狼として終盤で効いていたの」

「あそこまで楽しい雰囲気になったのは、エセ関西さんが居たからですね」

「忍者の子孫とは面白い参加者が居たものじゃな。美優の顔に傷をつけたことは許せんが、あの一戦は痺れるものがあった」

「バトルフェーズで一番の見所はあそこですね。私的に一番焦ったのはD.Dさんが拷問を止めようと暴走した時ですけど」

「あぁ、あれの!ワシもモニターで視ながら「何やっとんじゃこのバカはっ!」と思わず口に出してしまったぞ」

「そういえば、D.Dさんの本名と刑務所が分かれば連絡先調べれますよね?」

「それは可能じゃが…、あんなバカと今後も会う価値があるかの?」

「ムエタイに少し興味が湧いたので」

「それなら本場の現役ムエタイチャンピオンを呼ぶ方が良いのではないか、もしくはムエタイの名コーチか。美優が強くなる為に必要なモノはいくら費用が掛かろうと用意してやるぞ」

「まだ興味が湧いた程度なので。チャンピオンや名コーチはD.Dさんで色々試した後、必要だと思った時にお願いします」

「…ふむ、そうじゃな。美優がしたいようにするがよい」


 ここで言っておきますと、私とお父様がデスゲームの話をしている時に部屋に入れるのは、使用人の中で上位の者だけ、今部屋にいるのは執事長と護衛長の2人。

 本家に雇われている人間でお父様がデスゲームを愛好している事を知るのは極僅か、お父様が若き頃から仕えている者のみが知っています。




 食事の後、モニターで人狼ゲームライブ配信後の評価掲示板を一緒に見ています。


「ふふふ、紅を称賛するコメントばかりじゃ。今回の主役が誰だったか、議論するまでもないからの」

「アンチコメントも一定数ありますね、大半はエロ要素が少ないことへの不満ですが」

「こんな連中は無視じゃ。デスゲームにエロ要素を求める奴らなぞ、にわか以下じゃ」

「他にヤッチュウさんが狂人でなければ結果は変わっていた、という説が議論されてますね。…ゲーム終了後もライブ配信が続いていたんですか?」

「あの極道に焼きそばを奢ってビールを注いでやるところまで配信されておったぞ」

「なるほど…、ですがあまり意味のある議論とは思えませんね」

「たら・れば議論は結論が出んからの。まぁ、これはこれで楽しみ方の一つじゃから否定もせんがの」


 お父様は、足の後遺症がなけ、という議論に結論を出す為に私を創造うみ出したわけですからね。


『総帥様、伊集院様より着信が入りました』

「お、ようやく連絡してきよったか」


 お父様はカメラを起動させ、モニターにリモート通話の画面を表示しました。

 

「遅かったではないか景虎」


 映し出された相手は伊集院いじゅういん 景虎かげとら

 デスゲームを愛好するお父様の趣味仲間。表の事業でも関わりが深いらしく、ときに争いときに手を取り合う宿敵ともの関係だそうです。


「俺は忙しいんだよ、徳光と違って」

「嘘つくでないわ。人狼ゲームの配信中、定期的にコメント書き込んでたの分かっとるんじゃぞ。開始から終了まで見とったじゃろ」

「…フンっ、見ていたことは否定せん。先の気になる良いデスゲームだったからな。人狼ゲームにバトル要素を組み込んだことで、夜の襲撃も目の離せない展開になっていた」

「おいおい、良いデスゲームになったのはバトル要素だけが理由ではなかろう~」

「急かさずとも分かっている、紅の勝利は見事だった。開始時から陽気なキャラでの印象操作、バカな味方への冷静なカバーと指示、予期せぬ籠城策を単独撃破。まさに万能タイプの優秀なデスゲーマーの戦いぶりだったよ」

「フォフォっ!分かってるではないか!」


 紅の話題が出たのでお父様が視線を向けてきました。


「お褒めに預かり光栄です景虎様」

「っ!…美優嬢も一緒だったのか」


 私も景虎様とは社交界パーティーなどで何度かお会いしており、名で呼び合うぐらいには親しいです。


「優秀な愛娘のクリア祝いをしておったのじゃよ」

「…デスゲームをクリアして、その日の内に年寄りのお守とは、本当に苦労が絶えないな美優嬢」


 景虎さんが一瞬驚いたのは私がお父様と一緒に居ることではなく、デスゲームのクリア当日だということにようです。


「クリア祝いと言ったのが聞こえなかったのか、もう耳が耄碌しておるのか景虎」

「耄碌したのは徳光の頭だろ!二日半デスゲームに身を投じていた者がどれ程疲弊するか考えろ」

「それぐらい考えとるわ!最高の病院で問題無いと診断されたから祝っとるんじゃ!」

「表面に出ない精神的疲労があるだろうが!」


 二人が議論をかわすのはいつものことで、止めないといつまでも続きます。


「大丈夫ですよ景虎様、私は若いので」

「そうじゃそうじゃ、年寄りが要らぬ心配するでないわ」

「徳光の方が年上だろ」


 景虎様は66歳。名前通り虎を思わせる強面で、髪は黒く量も多いので若く見えます。…若作りしてるとも言えますが。


「だが確かに、若手トップと言われるデスゲーマーには要らぬ心配だったな。おっと言い忘れてた、デスゲームクリアおめでとう美優嬢」

「ありがとうございます」

「礼を言いたいのはこっらの方だ、楽しいゲームを見れた上に儲けさせてもらったからな」


 景虎様は私の勝利に賭けていたようですね。


「私は何番人気だったんですか?」

「5番人気で丁度真ん中だ。プロフィール覧で「若手トップクラスの実力」と紹介されていたが、バトルフェーズがある為女は不利と考える者も多かったんだろうな」


 若い女性はデスゲームで取れ高的に人気、ギャンブル的には不人気が通常。真ん中なら高い方でしょうね。


「次からは若手ではなく若手と紹介されるべきじゃな」

「それは親バカ贔屓だろ。最近台頭してきている若手デスゲーマーは多いぞ」

「凡人デスゲーマーに美優と同じ完全勝利は出来んじゃろ」

「同じである必要はない、それに完全勝利と言うには穴もあった」

「穴があったのはもう一人の人狼がバカだったからじゃ」

「最大の穴は相方がバカだということは間違いないが、小さな穴は幾つもある」

「ほぉ~、では全部言うがいい。論破してやろう」

「娘自慢だけで終われると思うなよ」


 これは……長くなりそうですね…。

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