第10話 脱出ゲーム 後話


 私服に着替えた後私は駐車場へ。


りく君お疲れ様です」

「ウガー」


 用務員の鬼役だった戮君。

 彼は生い立ちが特殊で戸籍がないため戮が本名と言えるそうです。


「開始直後、教室の戸を破壊しての登場迫力ありましたよ」

「ウガウガ」


 ウガとしか喋りませんが、慣れると簡単な意思疎通は出来るようになります。今のは褒めてくれてありがとうといった意味です。

 

「……ウガ?」


 私の身体を視まわす戮君。


「怪我はしていませんよ、心配してくれてありがとうございます」


 筋骨隆々で顔も強面の大男、見ただけで子供はおろか大人でも逃げ出しそうな戮君ですが、普段は優しい性格をしています。

 デスゲームの鬼役も人を殺すのも、命令に従ってるだけのようです。

 深い事情は聞いていません、この業界は同僚でも詮索はNGなので。


「お疲れ二人とも。待たせて悪いな」


 後から現れたのは、


「お疲れ様です音重さん」


 音重さんもギャップが凄いんですよね。

 謎の仮面男姿であのイケボを聞くとダンディーなおじ様を想像してしまうのですが、

 その正体は、メタボ体型でバーコード禿げおっさんなのです。しかも、ちょっとヨレたスエットで仕事に来てるんです。

 いやまぁ、だからって何かが悪いわけじゃないんですけどね。

 仕事に支障はないですし、


「車に乗ってくれ」


 私達の送り迎いも引き受けてくれてますし、


「あとこれ、腹が減ってるだろ。コンビニでお茶とおにぎり買っといた」

「ありがとうございます」

「ウガ~」

「いいさ。お前らが命がけで頑張ってるのに対して、俺はモニターを見てアナウンスするだけだからな」

 

 気配りも出来る人なんです。

 なので文句があるわけではないのですが、…残念に思ってしまうんですよね。

 

「まずは紅を駅にだな」

「キッドさんは待たないのですか?」

「病院に行くそうだ」

「ウガ?」

「命に別状はない。内臓を痛めてる可能性があるそうだ」


 JKがちょっと飛び乗っただけで病院送りですか。キッドさんは射撃以外ほんとザコですね。ノビ君とかに改名したら良いんじゃないでしょうか。


「出発するぞ」



 車内で私は脱出ゲームライブ配信後の評価掲示板をスマホで検索する。

 

「……評価は微妙ですね」

「そうなのか?エリミネーションルートで逃げた奴がいたり、ラストのキッドを追い詰めた参加者を紅が上から串刺しにしたりと、予想出来ない展開が多くて高評価狙えると俺は思ってたんだがな」


 運転しながら音重さんが意外そうに首を傾げる。


「ラストは概ね好評です。ただエリミネーションルートで逃がしたことに、ヤラセ疑惑が出てます」

「…ちょっとデキ過ぎに見えたかもな」

「追跡中に通話してたのも要素の一つみたいですね」

「あれはゲーム中に電話かけた渡辺が悪い。仮に逃がしたことが問題視されても上には俺から言っといてやる」


 役職的には渡辺さんが音重さんの上司なのですが、音重さんの方が業界歴は長く、上層部にも顔が利きます。


「渡辺さんも上からの指示と言ってましたよ、私が脱がないと首が飛ぶとか」

「それは渡辺が「上からの」と言った方が指示に応えてくれると考えての虚言をろうしたんじゃないか」

「私も同感です」


 途中で切りましたが「いいカメラアングルの所で」とか言ってましたしね。


「嘘つきセクハラマンは、死なない程度に刺しても許されますか?」

「はははっ。仕事に支障が出るから腹パンぐらいで許してやれ」

「了解です」


 因みに音重さんはセクハラとかしません。メッチャしそうに見……いや、これは偏見ですね。


「そう言えばコメント欄で【ブルマ脱げ派】と【ブルマはブルマで良い派】とで論争が起こってたな」

「それ、別スレでまだやってます。皆さんどんだけスカートの中にご執心なんですかね、JKモノのエロ動画なんて腐るでほどあるでしょうに」

「それはそれ、これはこれ。というやつだろうな」


 このスレのコメントは気にする必要ないですね。


「ウガウガ?」

「戮君が関するコメントですか?ありますよ」


 私は用務員やチェーンソーが含まれるコメントを流し見る。


「多いのは「用務員の殺しが派手で良かった」や「チェーンソーで殺される際の断末魔が最高」などのコメントですね」

「デスゲームの視聴者にはスプラッター系を好む者が多いから、会社としても狙い通りだ」

「ウガー」

「それ故でしょうが「もっと用務員の殺しが見たかった」「逃げられ過ぎ」と言う様なコメントも多いです。15人中の2人ですから少ないのは確かですね」

「ウガ…」

「仕方ないさ戮。ナイフを持った紅なら「勝てるかも」と素人でも思えるが、チェーンソーを持った戮相手じゃ逃げる以外に選択肢はない」

「音重さんの言う通りです、殺し方で良コメントを貰えてるのですから鬼役としては高評価ですよ」

「ウガウガ~」


 戮君はホっとした様子で貰ったおにぎりを食べ始めました。


「掲示板を見るに、今回ゲームの評価を一番落としてるのはキッドさんですね「唯撃ち殺してるだけで面白くない」や「ゴール前で銃持って待ち伏せとかハメ戦法だろ」と叩かれてます」

「キッドの射撃は見る奴が見れば凄さが分かるんだがな」

「幾つか「的確なヘッドショットが凄い」といったコメントもありますが、素手の素人相手に鬼が銃を使用すること自体に批判コメントが多いですね」

「それはキッドではなく企画班への批判だな」

「私が銃を使用する鬼役なら、参加者を上手く戮君の所へ誘導して連携して殺したり、銃弾では足を止めるだけにして敢えてアイテムで撲殺したり、と色々出来ますけどね」


 キッドさんは射撃以外ザコなので無理でしょうが。


「俺の経験上、殺し方を凝るデスゲームーは早死にする。紅もほどほどにな」


 今回のは素人モノだから殺し方に凝ったのですが…、先輩の言うことは素直に聞くべきですね。


「ご忠告痛み入ります」


 


 反省会をしている内に車は駅に到着。


「送ってくれてありがとうございます」

「もう暗いから気をつけてな」

「ウガー」

「はい、お疲れさまでした」


 私は手を振って車を見送る。


「さて、明日は学校ですし。寄り道せず真っすぐ帰りますか」


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