第9話 脱出ゲーム⑧


 エクセプションルートで近衛君(?)が脱出してもゲーム終了のアナウンスが流れません。

 

「あと一人参加者が生きているようですね」


 チキンの警報は聞いていませんから、上手く逃げ回ってる参加者なのでしょう。

 

 私は女子トイレを出て、


「さて、何処へ行きましょうか…」


 鍵があると分かってる体育館屋上なら、参加者が必ず来るでしょう。

 とはいえ、これ以上体育館屋上で待つのはハメ戦法の範疇を超えてしまいます。

 これまで校舎屋上→校舎三階→体育館三階→体育館屋上。

 上の階ばかりなので下に降りましょう、一先ず正面玄関に向かいますか。


 と決めた時に遠くでの銃声が聞こえてきました。


「講堂の方ですね」



 

 講堂内は聞いてた通り鉄棒やら平均台やら色々な障害物が置かれていました。

 そんな講堂内にいるのは二人。

 一人は拳銃を持つ体育教師。

 もう一人はノースリーブにハーフパンツの20代ぐらいの男性。No.2『ちょいマッチョ』参加理由:ギャンブルで出来た借金の返済。

 プロフィールにはパルクール経験者とも載っていました。

 ちょいマッチョさんは賭けの倍率は一番低い、逆に言えは運営側がクリアする確率が一番高いと思っている参加者。

 

 今講堂内ではちょいマッチョさんが走り周り障害物を利用して、体育教師の銃弾を掻い潜っています。

 私は二人の戦闘を講堂の二階ギャラリーでこっそり観戦中。


 倍率は一番低くそして銃相手にあの動き…、ちょいマッチョさんは本当に素人とは考え難いですね。


 先ほど素人モノの企画にプロやアマが紛れ込むことが屡々あると言いましたが、

 アマが大半で運営側も知った上で参加させます。

 参加者の身元調査はおこないますから、アマが虚偽プロフィールを伝えたところで分かります。

 虚偽だと分かっても参加させるのは良い動画にする為です。完全素人だと「クリア出来るかも?」ってところまでいかないことが多いんですよ。

 他の業界でもと謳いながらアマや準プロを起用するなんてよくありますしね、視聴者もこの辺は大目に見てくれます。

 ですが、

 プロだと判明した場合は不参加にします。

 アマは賞金目当てなので問題ないのですが、プロの場合は企画潰しが目的の可能性があるからです。

 簡単に言えば商売敵の嫌がらせですね。

 過去あった企画潰しの実例だと、

 今回と似たルールの脱出ゲームで、紛れ込んだプロは素手でも武器を持った鬼役より強く、一人で全鬼を倒し参加者を導いて全員クリアを成し遂げました。

 話題になって視聴回数は多かったものの、クリアした全員に賞金を支払うことになるので億単位の大赤字。責任者は本当に首が飛んでるでしょう。


 これを聞いて「プロと分かった時点でその参加者を失格にすれば良いじゃん」と思う人もいるでしょう。

 それは出来ないのです。

 この業界には破ってはいけないおきてがありまして、

 その一つ、


【ゲームを開始したからには、参加を運営が承認したとみなされる】


 つまり素人モノの企画にプロが紛れ込んでいたとしても、ゲーム開始したからにはプロの参加を運営が承認したことになり、ゲームを不本意な展開にされても悪いのは開始前に参加不可にしなかった運営というわけです。

 

 おきてを破った場合は会社ごと消されると聞いてます。具体的なところは私も知りませんが、裏の業界だけに口にも出せない内容なのでしょう。

 

 おきては他にもありますが、それは今度話しましょう。


 下で行われている戦闘に動きがありました。

 体育教師の銃が弾切れになり、反撃のチャンスと接近するちょいマッチョさん。

 でも弾切れは誘い、体育教師は瞬時に弾倉を入れ替え余裕の距離で銃口を向けます。

 が、先にちょいマッチョさんがポケットから出した何かを投げつけました。

 何かが体育教師に当たると白い粉が舞う。

 …あれは石灰ですね。どこかでラインカーを見つけて中の石灰を布か紙かで包んでポケットに入れていたのでしょう。

 視界を奪われた体育教師は当てずっぽうで銃を撃つも当たらず、タックルで倒されマウントポジションをとられました。

 ちょいマッチョさんは銃を持つ腕を押さえながら体育教師の顔面を殴りつける。


「先生射撃以外ザコすぎー」


 どうしましょう…、助けに行くか、傍観するか。

 鬼が一人倒される展開も悪くはないのですが、拳銃を奪われるのは厄介です。

 仕方ありませんね、助けに行きますか。

 丁度壁付近にいますし。

 私はギャラリーを移動して二人の真上となる位置へ。

 ナイフを抜いて飛び降りる。


 落下の勢いそのまま、ダイレクトにちょいマッチョさんの頭にナイフを全力でぶっ刺す。

 ナイフは脳天から刺さり顎まで突き抜ける。

 頭部を串刺しにされたちょいマッチョさんは何が起こったかも分からず絶命。


「助けに来てあげましたよ先生」

「ぐぇっ!…ふっ、ざけん、な…クソ重てぇ…」


 苦しそうな体育教師。

 馬乗りされてる上から更に、私が二階から飛び乗ったわけですから、肋骨ぐらい折れてるかもしれませんね。

 でも命を助けてくれた女の子に「クソ重てぇ」はないでしょう。


「重いなんて先生酷~い」


 ゲシゲシと踏みつけてやります。 


「マジで、や止めろ…」

 

 ここで“ピンポンパンポーン!”と校内放送で


『全参加者の脱落を確認 。現時刻をもってゲームを終了する』

 

 GAME OVER のアナウンス。

 

「業務終了です、お疲れさまでしたキッドさん」


 キッドというのは体育教師の名前、もちろん偽名です。


「撮れ高は十分作れたと思いますが、鍵の解除一つでは「クリア出来るかもしれない」といった臨場感はないでしょうね。素人モノでヤラセ無しでは仕方ありませんが」


 この業界ヤラセには厳しいんですよね。

 私がおこなった舐めプ戦闘程度なら盛り上げ要素と見てもらえますが、ワザと逃がして鍵を開錠させたりしたら滅茶苦茶叩かれます。


「素人モノは運が重要と言われていますから、今回は…」

「反省会は、後にして、くれ。早く医療班をぐはっ」


 …吐血とか止めて欲しいですね、本当に私がクソ重たいみたいじゃないですか。鍛えてるので筋肉の分体重は平均よりやや上ですけど。


「私がサクっと楽にしてあげましょうか?」

「やって、みろ。銃弾より速く、刺せるならな」


 ナイフを見せたら、キッドさんが銃口を向けてきました。


「冗談です。ゲームが終了したのに殺たりなんてしませんよ」


 人を殺すのはゲーム中だけです、私はデスゲーマーですから。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る