第8話 脱出ゲーム⑦


 よく見たらラケットが折れてました。ですが攻守ともに予想以上に使えました、微妙な武器アイテムとか思って申し訳ない。


 さて、最後の一人です。

 良い取れ高も作れましたし、尺も稼げていますので、仮に彼を殺してゲーム終了となっても問題はないでしょう。

 …にしても変な人ですね。


「何故ボーっと見ていたのですか?」


 鈴木さんは宝箱を開けるでもなく、逃げるでもなく私と剣術バカさんの戦いを観ていました。 

 声をかけられハっとしたように扉に向って走り出す鈴木さんに、


「もう遅いですよ」


 ラケットを投げつける。

 お、屈んでかわされました。

 私は先回りして扉の前に立ちふさがりナイフを抜く。


「チキンになられると面倒なので、ここで殺らせてもらいます」


 チキンというのは隠れて動かない人の呼び方。

 長時間移動しない場合は近くの警報がなって居場所がバレる仕様なのですが、その長時間探すのが面倒です。


 私が繰り出すナイフを、鈴木さんは巨大三角定規を盾にして防ぐ。

 中々動けますね。

 次々と斬りかかりますがギリギリで防御されます。


 鈴木さんは初めから二人に戦闘を任せて、自分は戦うつもりがないような言動をしていました。

 それは演技で奇襲を狙っているのかとも考えましたが、筋肉バカさんの時も剣術バカさんの時もボーっと観ていただけ。

 本当に変な人ですね。

 どんな思惑があるにせよ、殺すことに変わりないのでどうでもいいですけど。


 動けると言っても反射神経が良いだけ。

 私は右手に持ったナイフを左手にパス、鈴木さんはそれにつられ体ごと向きを変える。

 ナイフだけに集中して隙だらけの鈴木さんの側頭部を蹴り飛ばす。


 スパッツ脱いだのにハイキックなんて、今度こそパンツがライブ配信されちゃう!

 と、思いましたか?

 安心してください履いてますよ、ブルマを。因みに色は赤です。


 セクハラどころか強姦すらよくあるの業界ですから、スパッツを脱げと指示される可能性も想定内です。


「あなたはどうやって殺されたいですか?」


 答えが返ってこないと分かり切った質問をしながら近づく。


「……あれ?」


 私は思わず足を止めてしまいました。

 蹴り飛ばした事で瓶底眼鏡が外れた鈴木さんの顔に見覚えがあったからです。

 

 近衛このえ君…?


 このタイミングで、またポケットのスマホが震える。

 

 危なっ!? 

 更に鈴木さん改め近衛君(?)が苦し紛れに三角定規を投げつけてきて扉に向って走りだす。


 不意の出来ごとが重なった為、体勢を崩してしまい出遅れました。

 追いかけながらスマホを出し、スピーカー通話ボタンを押す。


「何ですか?見てると思いますが今忙しいのですけど」


 不満が滲み出ているはずの私の声に対して、


『紅さん何でスパッツの下にブルマ履いてるんですか!?というか何で持ってるんですか?今の時代体操着にブルマ指定してる学校なんてないでしょう』


 渡辺さんから予想してた言葉が返って来ました。


「ネット通販で買いました」

『確信犯じゃないですか!』

「確信犯の使い方間違ってますよ」

『そんなことはいいんです。お願いです紅さん、ブルマ脱いでください』

「セクハラなのでお断りします」

『チャット欄が「ブルマを脱げ!」の嵐になってるんです!一部「ブルマはブルマで良い」とかもありますが』

「ならブルマで良いじゃないですか」

『脱いでくれないと僕の首が…プツっ』


 くだらない事に構っている暇はないので通話を切る。


 追いかけて扉を開けた時には近衛君(?)は下の階に行ってしまい姿が見えない。

 頭にダメージを負ったはずなのに速いですね、鍋を被っていたからでしょうか。

 三階に降りると二階との間の踊り場にその鍋が転がっているのが見えました。


 慌てて駆け降りる際に落とした…

 私は階段を降りず直ぐ近くある女子トイレの前へ。

 そこそこ頭がまわるようですからね、鍋は下階への誘導でこちらに隠れたが濃厚とみました。

 

「変態として殺されるのがご所望のようですね」


 女子トイレの扉を開く……おや?居ない…。

 個室は全部空いており、用具入れは錠があって入れない。一つ一つ個室を見るもやっぱりいません。忍者みたいに天井に張りついてたりもしてません。

 隣の男子トイレに入ったのでしょうか?階段からの距離は僅かに女子トイレの方が近い。刹那を争う状況で下階に誘導までしておいて、僅かとは言え遠い男子トイレに入る意味はないはず…。

 もしかして、下階に誘導してトイレに隠れたと思わせて、やっぱり下に降りたとか…。

 どちらにせよ、女子トイレには居ないのですから他を探すしかないですね 


 トイレを出ようとしたその時、私は違和感に振り返る。

 何の変哲もない学校の女子トイレ、


「窓に鉄格子がない?」

 

 脱出ゲームですから当然正面玄関口以外に出口はありません。外に通じる扉や窓は頑丈な鉄格子を取り付け出れなくしています。


 窓を開け外を見ると…、近衛君(?)がいました。窓の横を通る屋上から地面まで続く雨樋をつたって降りています。

 

「これは…エクセプションルート」


 エクセプションルートとは、賞金は貰えないが命は助かる脱出経路です。

 参加者は場所はおろか存在すら知らされてません。鬼役も今回のゲームに設置していると聞かされていません。

 事前にデスゲームの情報を収集したところで知り得ることは不可能。

 屋上に来る前に見つけていた?…だとしたら下階への誘導は時間のロスでしかない。

 

 これしかあり得ませんね。

 どうやら近衛君(?)はデスゲームをクリアする上で最も重要なを持っているようです。


「ここからでもナイフを投げて当てれなくはないですが…」


 止めておきましょう。 

 賞金は出ないので損はありませんし、逃がしたのを咎められたとしても渡辺さんが電話してきたのが原因ですから。



「クラスメイトのよしみで見逃してあげますよ近衛君。また明日お会いしましょう」





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