第6話 脱出ゲーム⑤


 体育館屋上はテニスコートになっていました。そこら中にテニスボールが転がっており、そして中央にはこれ見よがしに宝箱が置いてあります。


 分かり易過ぎ…いや、宝箱にダイヤル式の錠が掛かっていますね。

 脱出ゲームですから多少の謎解きも用意してると言ったとこですか。

 改めて周りを見渡してみると、テニスボールに混じって、サッカー、バスケ、野球のボールが一つずつ転がっています。

 ダイヤルは四桁ですから11、5、9の組み合わせのどれかで開きそうですね。

 

 屋上には他にラケットも置いてありました。微妙な武器アイテムですね、テニス経験者でなければサーブを狙い通りに飛ばすのも難しいですから。ラケットの縦で殴れば攻撃力高いでしょうけど、


 それはともかくこれからどうしましょう…。鍵の側で待つのはハメ戦法気味ですが、一人ぐらいならここで殺ってもセーフな気がします。

 …少し待ちましょうか。

 

 私は暇潰しに壁打ちをしていると扉を開き参加者が…、


「おい、鬼がいるぞ」

「確かにモニターに映っていた一人だな」

「あ、あれ見てください、ち中央に宝箱があります」


 三人も来てしまいました。

 この時間で残る参加者が一人になってしまうのはちょっと微妙…。ですが宝箱を前に逃げる気はないでしょう。

 現れたのは、


 筋骨隆々で30代ぐらいの男性、No.1『筋肉バカ』

 参加理由:トレーニングし過ぎで出来た借金の返済。


 白髪で60代ぐらいの男性、No.7『剣術バカ』

 参加理由:道場存続の為に出来た借金の返済。

 

 瓶底眼鏡で20はたち前後ぐらいの男性、No.13『ネトゲ廃人』

 参加理由:課金し過ぎで出来た借金の返済。


 三人ともあだ名にたがわぬ参加理由。ただ筋肉バカさんと剣術バカさんは人気上位だったはず、今回の企画は体力重視ですから分からなくないですがバカとつく人に賭けるのはどうなんでしょう…。


「状況から見てあの小娘を倒して鍵を奪えということか」

「き気をつけてください、ナ、ナイフ持ってるはずです」

「チェーンソーや拳銃に比べたら屁でもねぇ、俺が相手するからお前らは宝箱の方を頼むぜ」

「ふ二人がかりで、倒した方が…」

「俺一人で余裕だよ」

「ワシも小娘相手に二人がかりは気が進まん」


 おやおや、数の有利を捨てるとか、やはりバカですね。


「なら、け拳銃持った鬼が潜んるかも知れないので、ま守ってくださいよ」

「…道場の死体を見たのですか?でも体育教師はいませんよ」

 

 私が教えてあげると三人は驚いた顔になる。

 鬼は口も聞けないとでも思っていたのですかね。


「何故教えてくれたと思う?」

「だ騙して油断させようと、し、してるのかも」

「信じて貰えないなんて悲しいですね~」


 まぁ、逆の立場なら私も信じませんが。

 

 三人は校内を色々回ったようで幾つかアイテムを身に付けてます。

 ネット廃人さんは、鍋を被って頭を守り剣道の胴当ても着け、手に巨大な三角定規…盾のつもりなのでしょうか。

 剣術バカさんは竹刀を持ってます。

 でも、筋肉バカさんはアイテム無しですね…。


「どうして一人だけアイテム持ってないのですか?じゃんけんで負けたとか?」

「アイテム?…ああ、鍋や竹刀のことか。見れば分かんだろ」


 筋肉バカさんが両腕を上げてポーズをとる。ボディービルダー風に言えばフロントダブルバイセップスだったかな。


「凄い筋肉ですね」


 こう言って欲しいのでしょう。


「そうだ!この鋼の肉体があれば半端は武具なんて要らねぇ」


 本気で言ってるなら真性のバカですね。


「それに一つ目の鍵をゲット出来たのも鈴木のお陰だか…」

「大岩さん!敵に情報を話すのは」

「おっとそうだな」


 話を遮ったのはネトゲ廃人さん、鈴木という本名なのでしょう。

 彼が頭脳担当で、謎を解き一つ鍵を見つけて解錠出来たのも彼のお陰たからアイテムを譲ったとかですかね。

 そういえばこの三人、スタートの合図と同時に集まって…いえ、説明の時には近くにいたような…。

 

「そちらの鈴木さんがリーダーですか?」

「別にリーダーってわけじゃねぇよ、最初に話しかけて…」

「それ以上何も答えないでください、誘導尋問されます!」

「クククっ、随分ハキハキ喋れるようになりましたね。さっきはあんなにドモっていたのに」

「そっ、そそそんなことは…」


 憶測混じりですが、

 ・ドモった話し方は演技。

 ・説明前から強そうな相手に声をかけ、チームを組んだ。

 ・一つ鍵を見つけて解錠した。


 ちょっと素人とは思えませんね。


「ひょっとしてアマですか?もしくはプロ?」

「?…」


 これについては知らない感じですね。

 デスゲームの参加者はザックリと三つに分けられます。

 素人:デスゲーム初参加。

 アマ:デスゲームを一回以上クリア経験有り。

 プロ:デスゲームを複数回クリア経験有り、且つ企業に雇われている。


 今回のデスゲームは素人モノなのでプロやアマは参加不可。ですが、虚偽プロフィールや他人の成りすましで紛れ込むことも屡々しばしばあるのです。


 でも、鈴木さんの演技はおざなり過ぎますし、会話の反応も素人のソレ。

 ネトゲ廃人というあだ名が、ネットに卓越しているという意味なら…、


「デスゲームのことを色々知らべて参加したみたいですね鈴木さん」

「っ!?」


 今の反応は図星っぽいですね。

 

「鈴木よ、あの小娘は何故話しかけてくると思う」

「はっ、時間稼ぎ!他の鬼もここに来る、のかも」


 半分は正解です、私が話しかけているのは尺稼ぎ。

 ライブ配信のデスゲームでは、早く終わり過ぎたり逆に長くなり過ぎたりも多々あります。

 ヤラせが無いことの証明とも言えるのですが、視聴者からは「短過ぎて視聴料損した気分」「長過ぎてダレた」といった感想が多くなります。

 なので、鬼役は会社から「出来る限り〇時間~〇時間ぐらいに収めてください」というような指示を受けます。


 現状この三人を直ぐ殺してしまうと、早く終わり過ぎる可能性が高い。


「モタモタしてられねぇな」


 とは言え、尺に囚われるとリアルな臨場感が失われてしまいますので、無駄なお喋りはここまでにしましょう。

 向こうも勝手な憶測でヤル気のようですし。


 ナイフを警戒してかゆっくり近づいてくる筋肉バカさん。

 …構えや動きから格闘技経験は無さそうです、唯のボディービルダー志望なのでしょう。

 私は足元に転がっているテニスボールをラケットで拾いあげ、上へ垂直に打ち上げる。

 筋肉バカさんはつられてボールを見上げてます。


「本当に筋肉バカです、ねっ!」


 ラケットを振りかぶり全力サーブ。

 腹部に命中した大岩さんは痛みに顔を歪め腹を抱える。


「筋肉バカの大岩さんに賢いJKが、身体について三つレクチャーしてあげますよ。あ、でも…脳みそまで筋肉だったら覚えれないかも」

「て、テメェ…」

「一つ目、筋肉量が多い=痛みに強い、ではありません。骨や内臓まで衝撃が伝わり難いので丈夫な肉体とは言えますが、痛みに強い肉体にするなら、打撃を受け続けて皮膚を厚くし耐性を作る必要があります。空手家が巻藁や砂袋を殴って拳を強くするアレです」


 レクチャーしながらまたボールを二つ拾う。


「大岩!追撃が来るぞ!」

 

 遅いですよ剣術バカさん。

 次は下からのボレー。ボールは大岩さんの顔の眼付近に命中。

 さらにもう一つのボールを上に放り投げ、仰け反った大岩さんの股間にスマッシュ!


「ふぐぇぁっ!??」

「二つ目、仮に鍛えた部位に打撃が効かずとも、身体には鍛えることが出来ない部位があります。今体験したように眼や、男であれば睾丸です」


 悶絶して股間を抑えながら前のめりに倒れる大岩さんに私はレクチャーを続ける。


「最後の三つ目、人間の身体はどれだけ鍛えようと鋼にはなりません。したがって」


 私はナイフを抜き、うずくまる大岩さんの後頭部目掛けて投げつける。


「ナイフは刺さりますので、半端な防具でも身に着けた方が安全ですよ」


 後頭部に深々とナイフが刺さった大岩さんは、ビクンっと大きく痙攣して動かなくなる。


「ちょっと言い間違えましたね。筋肉関係なく死ぬ人は覚える必要がありませんでした」

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