第631話 傘2

タッタタタタ――。


俺と海織の横を雨が降っているのに、傘を差さないで走っていく女の子が抜いていった。って……先に後ろ姿にピンと来ていたのは海織だった。


「あれ?七菜ちゃん?」

「——ふへぇ?」


俺と海織を抜いていった女の子は急に話しかけられたからだろう。急停止してこちらを振り向いた。うん。俺達を抜いていったのは、雨に濡れた七菜だった。俺は七菜を見つつ。


「……こちらはガチで忘れたか?」


そんなことをつぶやいたのだった。すると――俺の手から傘が消えて――冷たい。


「楓君傘貸して」

「ちょ、海織。って――貸しての前に傘持っていってましたよね?はぁ……」


はい。現在は傘を何故か持っていなかった海織といろいろと話しながら、伊勢川島駅から家へと歩いていた所なのだが――そしたら俺達の隣を傘を差さずに、濡れながら七菜が通過していった。そして海織が声をかけたところで七菜が足を止めて振り返ったところである。って――海織が俺の手から傘を持っていったため。俺――濡れてるんですが。何でこうなった?うん。冷たいよ?なんかちょっと雨が強くなったのかな?あっという間に濡れたよ?うん。冷たい。


「七菜ちゃん。傘持ってなかったの?」


俺がそんなことを思ってる間に海織は小走りで七菜のところまで行き。七菜を傘に入れていた。


「宮町先輩に加茂先輩って――宮町先輩。その――加茂先輩が濡れてますが……いいんですか?」


七菜は俺に気が付いていたが――海織は――スルーという感じで。


「大丈夫大丈夫。あっ、ハンカチ貸すよ」


そう言いながら、海織は自分のカバンの中からハンカチを取り出し。七菜に渡したのだった。俺――濡れっぱなしです。


「あっ。宮町先輩。すみません。朝バタバタしてまして、傘持ってこなかったら雨降りだしちゃいまして――」

「そりゃ大変だったね。七菜ちゃん大学でも濡れたんじゃない?」

「講義棟から濡れました。冷たいです」

「早く帰らないとだね」

「——俺も冷たいから早く帰ろうかな」


うん。何で俺はこんなことになっているのだろうか。おまけに先ほどから本当に雨がちょっと強くなってきたので――うん。濡れネズミみたいな状態となっていた。ちなみに七菜も濡れネズミ状態って――ふと2人に近寄りながら七菜を見ると――だった。


「七菜ちゃん早く帰って着替えないと、楓君がエッチな視線で七菜ちゃんを見てるよ?」

「はい!?」

「——」


海織は何を言い出すんだよ――と、思いつつ。うん。七菜ごめん。見た。ってか……たまたま目に入ったと言いますかね。うん。七菜は大学でも既に濡れたと言っていたので、結構全身しっとり状態――服が張り付いて大変そう――うん。透けてるね。すみません。見ました。


「なっ!?加茂先輩。今は見ないでください!電車では気にしてたけど、今お2人に会ったら油断しました!」


そう言いながら七菜がくるりと向きを変えたのだった。いや――そんなはっきり見えてないから。うん。大丈夫かと――というのは、まあ言わなかった。うん、下手に言ってもなのでね。


「楓君がエッチだーそんな子に育てた覚えはないのにー」

「海織が絶好調すぎる……って俺育てられてたの?」

「——加茂先輩に見られた……」

「……いや、七菜そこまで――」

「見ましたね」

「——はい」

「にひひ―、さあさあ早く帰ろう。2人とも風邪ひくよ」

「——なんだろうこれ」

「とりあえず――着替えたいです」


結局その後俺が濡れるということで、七菜はそれ以上濡れることはなかったのだった。うん。って……やっぱりおかしくない?でも――まあ七菜をあれ以上濡らさないためにこれが良かったのか?って、海織が変なことを思いついて、それを実行をしなければ――傘は2本あったはずなんだが……って、ちょっと言いたくても何故か海織は七菜とともに七菜の部屋の方へと入って行ったため。俺は1人で自分の家へと戻り――冷たい。うん。濡れネズミになり冷たくなった体を温めるためにシャワーを浴びることになったのだった。


俺がシャワーを浴びて着替えてから。濡れたものを拭いていると――少しして海織が俺の部屋に帰ってきた。


「いやー、楓君災難だったね」

「——なんかいろいろ言わないといけない気がするんだけど。って、まずは七菜大丈夫だった?」

「えっ?七菜ちゃんの下着の答え合わせ?」

「そんなことは1ミリも言ってない。濡れた七菜大丈夫だったか。なんだけど」

「ちなみに七菜ちゃんは――」

「海織。お黙り」

「いいの?」

「いいの?じゃなくて、ってか海織が傘を突然持っていったから俺の持っていた荷物が濡れまくっているのでそれを拭くの手伝って」

「はーい」


それから海織と俺は片付けタイム――濡れたものを拭いて片付けるということをして。片付けが終わると海織が七菜を呼びに行く。と言い出して、七菜が俺の部屋へと夕方やって来たのだった。


「——」

「なんか七菜の視線が痛いな」

「楓君が七菜ちゃんの下着見ちゃったからねー」

「宮町先輩っ」

「ごめんごめん」

「って、まあ加茂先輩睨んでも――なんですけどね。傘持ってなかった私が……ですから。って、そういえば加茂先輩も濡れてましたが大丈夫ですか?」

「えっ?あー、うん。問題なし。冷たかったけど」

「楓君は女の子のためには強いから大丈夫だよ」


ベシベシと俺の腕を叩いてくる海織。


「海織はホント絶好調というか――今日はぶっ飛んでいるよ」

「ぶっ飛んでいる?」


俺のつぶやきに七菜が反応する。


「いや、今日の海織なんかいつも以上にテンション高くてね」

「そんなことないよー。いつも通りだよ」

「まあ確かに――宮町先輩楽しそうですね」

「楓君いじりは楽しいよ?」

「——ホント絶好調ですね。加茂先輩」

「でしょ?」


ニコニコの海織を見つつ。七菜はすぐに状況理解をしてくれたらしいってか、多分だが。このころから既に海織の体調はおかしかったのだろう。でもテンションが高かったからか。自分でも横になるまで気が付かなかったらしい。


翌日……何故か唯一雨に濡れてなかった海織がちょっと熱を出しましたとさ。何でだよだった。

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