第630話 傘
土砂降りではないが――ポツポツでもない。普通に傘が必要なレベルの雨が今は降っている。今日の空は朝からどんより曇り空だった。でも――もしかしたら降らないで終わるかも――という感じだったのだが――結果朝こそまだ曇りだったが―—天気予報通りお昼過ぎから天気は崩れたのだった。
ポツポツ降りだしたら――そこから雨はやむ気配なくずっと降り続いている。もし天気予報がなかったら、多くの人が傘を持たずに家を出たということになっていたかもしれないが……うんうん、今は天気予報がある程度予想できるから便利ですね。なのに――。
「——なんで俺の横に居る方は傘を持ってこないのかなー」
便利な世の中なんですけどね。でも天気予報を見てないと――俺の横に居るお方みたいになる。って、待てよ?確か朝家で一緒に天気予報を見ていた気がするんだが――あと、俺の記憶が正しければ、家を出る際も傘の確認もした気がするんだが……などと俺は思いつつ。多分先ほど買った物が濡れないようにしている海織を見ている俺だった。
「うん?何か楓君言った?」
いやいや聞こえていたでしょ?俺普通につぶやいていたから。
「——聞こえていると思うんだけどなー」
「えっ?なんの事かなー。あっ、もうちょっと待ってねー。濡れると――だから」
現在俺と海織は伊勢川島駅に居る。これからどこかに行くのではなく。今日は大学の講義が休み。あっ、俺が受ける予定だった講義が休講になってね。そして、そもそも今日は講義が入っていなかった海織とともに、朝から買い物に出かけており。近鉄四日市駅を13時30分に出る普通電車に乗り――少し前。13時39分に伊勢川島駅に到着したところである。
ちなみに先ほども触れたと思うが外は雨である。朝はまだ降ってなかったんだけどね。でも今は傘が必要なレベルで雨が降っている。地面には水たまり多数。という感じだ。
もちろん朝出かける際に怪しい天気だったため。俺と海織——あっ。海織はね。昨日俺の家に居ました。完全に住みつかれているので――大きくはもう触れません。はい。とりあえず朝から一緒に居た海織とともに天気予報を確認して、傘を持って買い物に出かけたはずなのだが――それは帰りの電車でだった。
――――。
「雨降って来たね」
車窓を見つつ海織がつぶやいた。
「だね。風が無いからまだまっすぐの雨だけど――」
「でもこれは傘がないから困っちゃうよ。どうしようかなー」
「……ちょっと待って何で傘持ってないの?」
買い物は近鉄四日市駅周辺だけだったので、傘が必要なところはなかった。なので、行き。買い物へというときは曇りだったため。今のところ俺も持っていた傘はまだ使っていないのだがちゃんと手には傘がある。なのに――帰りの電車に乗り外を見ていると、隣に居た海織がそんなことをつぶやいたのだった。
って、なんで朝一緒に天気予報見ていて「傘いるよねー」みたいな話をしていたはずなのに、このお方傘を持ってないかだよ。うん。俺が疑問に思っている間に、短い移動のため電車は伊勢川島駅へと到着して――今である。
――――。
「良し。楓君準備OK。じゃ相合傘してあげよう!」
「……はい?」
なんかおかしいな。俺がちょっと今日の事を思い出していたら、隣で移動の準備が出来た海織がそんなことを言い出したのだった。
「——楓君?どうしたの風邪でもひいてぼーっとしてる?」
「なんか――いろいろおかしくなかったかな?って」
「うん?楓君相合傘したかったんだよね?」
「唐突に何をこのお方は言い出すのか」
「えっ?楓君が相合傘したいなー。って言ったから仕方なく私は傘を家に置いてきたんだけど?」
「そんな過去はありません」
うん。海織の記憶は何かおかしいのかな?俺にはそんなやりとり。お願いをしたことはないんですがね。
「照れちゃってー」
バンバン。
何故に俺は海織に背中を叩かれているのか……ちなみに俺が持っているのは普通のサイズの傘。本日はビニール傘であり。2人は――入れなくはないが。密着必須というサイズである。まあ幸いというか。既に電車が駅に到着してから少し経過しているので――海織が変なことを言っても周りの視線が無いのが救い――でもなかった。ちらりと周りを確認したら改札を抜けていく人が居た。どうやら四日市方面へと向かう電車がこの後来るらしい。
「楓君。ほらほら雨強くなるとだから行こうよ」
「なんかおかしいなー」
「ほらほら、楓君が傘持ってよ」
「……謎すぎる」
海織に言われるがまま俺は傘を広げて――外へと出る。海織は普通に俺の腕を捕まえてきた。うん。完全密着してきましたね。まあ――家でもあること――ってこのことは言わなくていい気がする。でも――外でこれは恥ずかしくないですかね?だった。
「どうどう?楓君のご希望の相合傘ですよー?嬉しい?にひっ」
ニヤッとしつつそんなことを言いながら海織がこちらを見てきた。
「海織さん?」
「うん?」
「何も俺は言ってない。って、俺朝家を出る時確認しなかった?「あれ?海織傘持たないの?」って、そしたら「今日は強くは降らないみたいだから折り畳みにした」って言ったよね?折り畳み傘は?」
「私の家かな?」
「持ってすらいなかったか」
これは 今後持ち物確認したげないといけないんですかね?この子さらっと無いものを有るというみたいなので……。
「何々?楓君は私にずぶ濡れになってほしいの?」
「記憶を取り戻してくれるなら濡れて頭でも冷やしてほしいかなー」
「酷いなー。いいの?楓君?ずぶ濡れになったら。いろいろ透けちゃうと思うけど?不特定多数に私見られちゃうんだけどなー」
そう言いながら片手を傘の外に出してみる海織。うん。まあ雨が降っているので濡れますね。
「——うーん。まあ濡れて風邪ひかれてもだからそんなことはしないが――って、なんか無駄にくっついていませんか?」
「濡れちゃうからねー」
「——無駄な事話してないで早く帰ろう」
「あっ。楓君楓君すべると危ないからゆっくり歩かないと」
俺が速く歩こうとするとそれは海織によってストップがかけられた。
「……なるほど、海織が相合傘をしたかったと」
「えー、楓君じゃん。無理矢理私がしたかったみたいにしてくるなんてー」
「こりゃ何を言ってもか」
俺と海織が話しながら歩いていると――。
タッタタタタ――。
足音が後ろから聞こえたなと思った瞬間。俺と海織の横を傘を差さないで走っていく女の子の姿があった。
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