第629話 忘れてない

突然伊勢海老にありつけた――というのはもう過去のお話。

あれから時は少し過ぎまして……。


本日の俺はゼミの部屋に居ます。外はいい天気。強い日差しが燦燦と――そして室内では鋭い眼差しが――という状況だ。などと俺が思っていると、鋭い眼差しが無くなった。


「ほっほっほー。宮町さん斎宮さんグッドじゃ」


藤井寺先生がそんなことを言いながら先ほどからずっと読んでいた海織と斎宮さんが作って来たプリント見て言った。そして2人の元へとプリントを戻した。


「おお、海織ちゃんの協力合って私なんか出来てる私すごいじゃん。うん。遊んでばかりじゃないよ。卒論もちゃんとしてるよー。うんうん。頑張った私」

「沙夜ちゃん頑張ったからね」

「海織様ー感謝ですー」


少し赤ペンが入っている返されたプリントを見つつ斎宮さんが海織の横で自分を褒めている。あと大変喜んでいるという状況だ。

ちなみに海織に関しては――もうほぼ赤ペンは入ってない。ゼミが始まった頃の全員真っ赤っか祭りというのは――遠い昔の事となったらしい。うんうん。みんな頑張っている――頑張っているのだが……。


現状。卒業論文も大詰めとでも言うのか。これは柊経由での周りからの噂だが。そろそろできつつあるのが普通という状況らしい。もちろんそれはこの教室でも同じであり。海織、斎宮さんはそろそろ完成。という感じだ。なのだが残りの2人はと言うと――。


「——ほっほっほー。白塚君。加茂君は――あとちょっとじゃの」

「「……」」


うん。前ほどではないが――まだまだ赤ペン大量発生という状況が続いていた。おかしいな。前回の時はちょっといい感じと思ったのだが――書き足したり書き直したところがダメだったのだろうか――と思いつつ返されたプリントを見る俺。


「マジかー。俺頑張ったのに―」


柊は柊で――はっきりとは見えなかったが。うん。裏に透けるレベルで赤ペンが入っている様子だった。


「あとちょっと。ほっほっほー。じゃが。時間は有限じゃのほっほっほー」

「「おぅ……」」


藤井寺先生は笑顔のままなのだが――これは遠回しに君たち。そろそろ期限が近づいているよ。と言われてる感じがした。なんか嫌な感じを感じ取った俺と柊同じ反応をしたのだった。すると柊のプリントを覗き込んだ斎宮さんが……。


「うわー、柊は浪人かな。にひひひひー」


などと思っていると俺の隣には海織が来ていて。


「楓君は――あと少しの感じだねー。誤字が多いね」


既にちゃんとゴールの見ているお2人は余裕な感じで、俺と柊のプリントを見てそれぞれそんなことを言ったのだった。

卒業論文のゴール近いと余裕そうです。まあ男性陣はまだちょっと……というのが現状だ。

まあこれは帰って本当に真剣に直しをしないとな。などと俺が思っていると――


「楓!パソコン室籠ろう!」


なんか柊が言ってきたのだった。うん。突然なんか言い出したよ。


「……家でもいいのでは?」

「家はダメだ沙夜の邪魔が入る」

「ちょ、なんで私?」

「妨害されるからな。ってか。藤井寺先生に本も読め言われたし」


っか。柊が藤井寺先生と言ったので、ふと先生が先ほどまで座っていたところを見ると――もぬけの殻だった。どうやら――退室済みだったらしい。音なく消えた。いつの間に――だった。


「とりあえず柊。それは図書室に籠った方がいいのでは?」

「作りながら読む」

「それは――来週また赤ペン祭りになるかと」

「とにかく――ヤバいというオーラを藤井寺先生から感じたからな。やる気の今のうちに」

「まあ、確かにだが――」


そんなやり取りをしながら俺達は片付けをして――その後、海織、斎宮さんはパソコン室に籠って卒論を作る。ということはしなくて良いため。俺と柊の話には入って来ず。2人は2人で、どこかに寄って帰ろうか。みたいな話をしており。そのまま俺達とは別れて駅の方へと向かって行った。

そのため本日は男2人での行動となり。俺と柊はパソコン室に向かったのだった。


そしてパソコン室に籠った俺と柊。幸いなのか。今日のパソコン室はかなり空いており――ほぼ貸し切り状態という感じで俺と柊は卒論制作を行ったのだった。

ちなみに、俺は直しがメインだったので――本当なら直したりしたら終わりだったのだが……。

パソコン室が空いていたがため――。


「楓ーこれどう書いたらいいんだ?」

「楓ー。ごちゃごちゃだー」

「楓ー」

「楓――……」

「……自分のが進まん」

「楓ー消えた!」

「……何故?」


何度も何度も柊が声をかけてくるため。結構作業には時間がかかったのだった。ってか。俺自分のが終わったら終わったでずっと柊のお手伝いみたいになったのだった。


結局その日は湯の山温泉駅21時06分発近鉄四日市行き普通電車に乗って帰ることに俺達はなったのだった。

うん。疲れたー。腹減ったー。という感じで、電車のシートが最高と思いつつ家に帰った俺でしたとさ。

なお、家に帰ると海織が居たのは――もう言わなくてもいいよな。普通に俺の部屋使ってるからね。あっ、住んでると言った方がいいか。


「あっ、おかえりー。遅かったね。ご飯にする?お風呂にす――」

「疲れた疲れた」

「むー。楓君が最後まで言わせてくれなかった」


俺が部屋へと入ると海織がそんなことを言いながら近寄って来たので――とっとと口を挟んでおいた俺だった。拗ねている感じの海織だったが――いや、柊の相手で疲れたんだよ。マジで数時間拘束コースだったし。


「柊の相手マジで大変だったんだから」

「じゃ、選択肢は私かー。おぉー」

「いやいや何で――」


うん。家に帰って来ても大変な俺でしたとさ。


「じゃ今から楓君癒しコースだね」

「海織。いろいろタイム」

「タイムなしでーす」


――マジ大変でした。はい。

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