第610話 彼女は知らず知らずのうちに関わっていた

「七菜ちゃん。一緒にお風呂入ろー」

「何でそうなるんですか。ここは狭いから無理です。ってそもそも入りませんから」

「密着すればOKでしょ?」


誰か助けてください。先輩に絡まれています。


「——何が密着すればなんですか。入りませんからね?」

「せっかくの七菜ちゃんところお泊りなんだから。照れないでさ」

「何でお泊りで一緒にお風呂になるんですか」

「入りたくない?」

「ないですよ」


現在私は加茂先輩の部屋から斎宮先輩とともに戻ってきて――何故か自分の部屋に入る前に締め出しを一時的に食らった気がしますが――いや、斎宮先輩がですね。いつの間にか私のカバンからこの部屋の鍵を持って行ってまして――私が加茂先輩と話している間に私の部屋に斎宮先輩が侵入しまして――さらに鍵を閉められた。ですね。まあその時はすぐに開けてもらいましたが。ニコニコと悪い顔をしていました。私は一体何に巻き込まれているんでしょうか?この先不安しかないのですが――。


「もう。七菜ちゃんは恥ずかしがり屋だなー。まあ寝る時は一緒だもんね」

「あっ。場所的に――そうなりますか」


斎宮先輩だけ床。ってのは――ですからね。うーん。ホント大変そうです。


「七菜ちゃんと密着はもう少し後かー。残念。早く柊に報告したかったのに。七菜ちゃん奪ったって」

「斎宮先輩。意味の分からないことを言ってないでお風呂どうぞです。あとが詰まります」

「なら一緒に」

「入りません」


それからもまだちょっと斎宮先輩とのやりとりは続きましたが――何とか。ホントやっとのことで斎宮先輩をお風呂場へと押し込んだすぐの事です。


「疲れた」


そうつぶやきながら私が床に座ると――。


♪♪~


私のスマホが鳴りだしました。スマホのところへと四つん這いで移動して――確認です。


はい。誰からかはすぐに。画面を見ればわかったのですが――怪しいです。


……なんでお兄ちゃんから私に電話が……滅多に連絡なんてしてこないのに――何故今か。怪しすぎますよ。怪しいです。詐欺かもしれませんね。こういう場合は――出ない。そうです。皆さん怪しい番号(登録してあっても怪しい場合含むです)からの電話は出てはいけません。はい。非通知とか見知らぬ番号は無視しましょうです。大事な連絡なら何度もかかってきますからね。その時に取ればOKです。


♪♪~


「……」


♪♪~


「……」


おかしいですね。今日のお兄ちゃんと思われる番号しつこいですよ。何度も何度も連続でかかってきますよ。何でですかね?大事な用事?いやいやあのお兄ちゃんが?ないでしょ。


……はい?何度もかかってくる時は大事な連絡じゃないか。って今自分で言ってなかったかですって?はい。言いましたね。でもお兄ちゃんですよ?あのお兄ちゃんですよ?私がちょっと変装してみたら、私って気が付かないようなお兄ちゃんですよ?そんなお兄ちゃんから私に連絡ってありますかね?


♪♪~


「……」


――わかりました。さすがに何度も鳴っているから出ましょう。それに斎宮先輩がお風呂から出てくると――ですからね。今はまだ出てくる雰囲気はないので出ましょう。


「——はい。どちら様ですか?」


おっと、お兄ちゃんからとわかっているのに知らない番号から電話のパターンで出てしまいましたが――まあこれはこれで正解ですかね?お兄ちゃんではなく――詐欺。の可能性もありますから(番号はお兄ちゃんからなのですが――)でもです。もしかしたら。がありますからね。警戒大切です。


「————」


あー、はい、お兄ちゃんでした。超元気そうです。ウザいレベルで今日も元気です。何なんですかね。今日は斎宮先輩も元気でしたが――みんな元気な日?って。そっか。お兄ちゃんも斎宮先輩も基本いつでもこんな感じ。元気ですよね。はい。無駄なことを考えました。とりあえず――お兄ちゃんがなんか電話口で叫んでますが――がはははっ。って、今日もうるさいです。聞きにくいんですよ。ホントにもう。


「で、お兄ちゃん何?」

「————」

「えっ?あー、うん。明日から宮町先輩のところに遊びに行くけど――って、なんでお兄ちゃんそれ知ってるの?ちょっと待って?どこからの情報?」

「————」

「がはははははっ。じゃなくて、どこから聞いたの!?私の予定を。ちょっと」

「————」

「だから笑ってごまかさない。お兄ちゃん。ちょっと」


やはり詐欺の可能性ですよ。はい。お兄ちゃんじゃなかったのかも――声というか。雰囲気は完全にお兄ちゃんですが――なんで私が明日から出かけることを知っているんでしょうか?先輩方としか話してないはず――あっ。もしかして白塚先輩から――うん。その可能性は高そうですね。お兄ちゃんと白塚先輩なら連絡とっていてもおかしくないですし。ですね。白塚先輩が犯人ですね。ホントにもう。困ったもんです。何で勝手に人の予定を話しちゃうんですかね?えっ?白塚先輩が原因とは決まってない?まあですが――怪しいのは疑えです。はい。


「————」

「——なんで私の予定知っているかは、何となくわかったからいいけど――で、何で急に電話してきたの?」

「————」

「えっ?何それ?明日加茂先輩から目を離すな?いやいやお兄ちゃん何言ってるの?ちょ、えっ!?本当にそれだけ?ちょ」

「————」

「——切ったよ。あのお兄ちゃんいきなり電話切ったよ」


私のお兄ちゃん謎なことを言って、がははははっ。とか最後も言って電話を切っていきましたよ。はい。本当に切りましたよ。


「——なんだったの……」


私の部屋には私のつぶやきと。お風呂場からの水の音だけが聞こえていました。

先ほどのうるさかったお兄ちゃん――と思われる声はもうスマホからしていなかった。

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