第425話 貸し出し中6

近鉄名古屋駅の構内を移動中の俺と七菜。

手にはこの後22時05分に名古屋駅を発車する宇治山田行きのアーバンライナーの特急券を持っている。

ちなみに俺と七菜が乗る電車はすでにホームへと入って来ている。お客さんの乗り込みも始まっている。


「アーバンライナー。これは私何回か乗ったことあります」


特急券に書かれている号車へと移動中七菜が言った。


「こちらとしては、ひのとりに乗りたいんだけどね。この時間はないといううか。そもそも名古屋方面から四日市に止まる電車がないからね」

「あー、あの赤?の特急ですよね。かっこいいですよねー。ちなみに私乗ったことありますよ」

「なんと」

「いつだったかな?確か親と出かけた帰りに八木駅?から乗りました。あとは……あったかな?」

「あー。そうか八木駅も一部電車は止まるんだっけ。いいなー」

「先輩本当に乗りたいんですね」

「いや、乗れそうで、乗れなくてね。どうせ乗るなら名古屋から難波とかで乗りたくて」

「あー、確かに私も乗ったですが。短い区間だったんで……長い距離はないかな?あと。先頭車両でしたっけ?あのちょっと高い座席に乗って行きたいですね」

「プレミアム車両だね。うんうん。乗りたい」

「ってか、先輩ここですよ」

「あっ。本当だ」


俺は七菜に言われて足を止めた。

うん。話しながら歩いていたら通過するところだった。ちなみに発車前の音楽が鳴り出したので、俺と七菜は車内へとそのまま入った。


「あっ。ここですね。出口に近いところです」


車内へと入ってすぐ。七菜が座席へと座った


「結構乗ってるね」

「ですね」


俺はちょっと車内の様子を見てから七菜の横に座った。すると七菜が……。


「特急で正解でしたね。座れるっていいですね」

「だな」


俺はそう言いながらそういえば海織とのメッセージどうなったんだっけ?と思いつつスマホを出して確認すると……。


「……先輩は彼女さんの確認ですか?」

「ははは……まあそんな感じというか。七菜を待っている時にメッセージが来てね」

「そうだったんですか……」


何だろうまた。違和感を俺は感じたような……でもそれが何かわからないので……とりあえず話をそのまま続けた。


「うん。で、向こうは特急で移動中……って」


うん。俺が海織とのメッセージ画面を確認するとちょうど数分前に……。


「実家の最寄り駅着いたよー」


……海織はもしかしたらすでに実家に到着したかもしれない。とか俺が思っていると。俺のスマホを覗いてきていた七菜が……。


「あれ?宮町先輩もう実家に着いたん……ですかね?」

「かもしれない」


俺はそう返事をしつつ。スマホを操作して。


「こちらは今名古屋駅出発」


と返事をしておいた。

俺が海織にメッセージを送ると同時に電車はゆっくりと動きだした。

22時05分。宇治山田行きの特急アーバンライナーは近鉄名古屋駅を発車。発車してしばらくは地下なので真っ暗なのはいつもの事だが……少しして外に出ても外は……当たり前だが真っ暗だった。


「遅くなっちゃいましたね」

「まあ来たのが夕方だし」

「ですねー。すみません」

「いや、それは問題ない」

「……ってか先輩」

「うん?」


俺が七菜の方を見ると……何だろう?何かを言いたそうな顔をしている七菜が居た。


「……その凄い事だと思うんですが……言っていいですか?」

「なに?」


どうした?と俺が思いつつ七菜に聞くと……何故か七菜が苦笑い?をしつつ……。


「その……ですね。お手洗いに行った時に気が付いたんですが……」

「うん?」

「私の……カバン。多分宮町先輩が持っている紙袋の中です……パン屋さんで一緒に置いていたので間違って持ったみたいで……あはは……」

「……うん?」


うん?どういうことだ?と俺が思っていると……。


「その……買い物した後にパン屋さん入ったじゃないですか。その時に荷物の整理をしたんですよ」

「あー、してたね。いくつか小さな袋とかを1つの紙袋にって」


俺が少し前の2人の行動を思い出していると……。


「はい。で、この後はICカードだけポケットに入れておけば……その帰れるじゃないですか」

「まあだね」

「で。私ICカードが入れてあるスマホだけ持って……カバンも袋の中に入れたんですよ」

「うん。あれ?ってことは七菜。スマホとICカード以外持ってないということ?」

「あっ、財布は持ってます。パン屋さんでお会計した時に上着のポケットに入れていたので」


そう言いながら折り畳みの小さな財布を七菜を取り出した。


「あれ?でも財布とスマホ……あるなら。まあまた海織が帰って来るときに荷物を持って来てもらえば大丈夫じゃない?」

「いや……その……一番重要と言いますか……」

「うん?」

「えっとあと私のカバンの中に入っていたのは……まあ雑貨と言いますか。ちょっとしたものと……家の鍵なんです」


と、七菜が申し訳なさそうに言った。


「……うん。わかった。七菜自分の家に入れないと」

「理解が早くて助かります」

「ってか海織も気が付いてない?」

「どうでしょうか?本当はトイレに行った時に気が付いてもしかしたら……まだ宮町先輩駅に……って思って。連絡しようとしたんですが……」


七菜はそう言いながらスマホの電源を押した……が。付かなかった。


「スマホ使い過ぎたみたいで電池切れで」

「……いろいろと重なることで。とりあえずこっちから連絡するよ」

「すみません。ってどうしよう。家入れない」


七菜がそう言いながら下を向いた時だった。


♪♪


俺のスマホが鳴った。俺が確認をすると……再度の海織からで……。


「楓君楓君。荷物間違って持ってきちゃった!。七菜ちゃんの荷物持ってきちゃって、今見たら七菜ちゃんのカバン入ってるんだけど。七菜ちゃん大丈夫?」


うん。同じタイミングというか。俺が知ったのと同じタイミングで海織も気が付いたらしい。

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