第261話 クリスマス11 ~シンキングタイムは8分~
「ただいまー」
と、海織は誰もいないであろう部屋に向かってそう言いながらドアを開けた。当たり前だが部屋は真っ暗。逆に真っ暗じゃなかったら……びっくりか。
「ちょっと待ってね。電気つけるから。あと部屋温めないとね。誰も居なくて冷えてるから」
そう言いながら海織は先に部屋の奥へと進んで行った。
俺は荷物を持ち。靴をそろえてから中へ。
すると……なんかバタバタ海織がしているな――と思っていたら。
「はい。間に合ったー。クリスマスプレゼントー」
「えっ?」
そう言いながら海織が俺の前に綺麗にラッピングされた袋を……。
「あれ?ケーキがプレゼントじゃ……」
「あれはあれだよ。はい。ちゃんとプレゼントあるよー」
と、受け取る俺……なのだが――。
「あの……すみません。ホント。忘れてました。プレゼントの事」
「ふふふー。これはお仕置きかな?でもまあ普段から楓君の家にお邪魔してるから。私的には毎日プレゼントもらってる感じだから気にしなくていいよ?」
「いやいや後日ちゃんと……」
「ちなみに……世間では何でもいうことを聞く券。とか渡す人もいるみたいだよ?」
と、急にニヤッとしてこちらをのぞき込んでくる海織。うん。またよからぬこと考えてるな……間違いない。この顔はいつものやつだ――うん。間違いない。
「そのようなことは聞いた事—―無いような。うん。俺はないかな……」
「えー。でも楓君それならまだクリスマスの日に間に合うよ?」
まあ確かに時間を見ると……まだ日付は変わってないのだが……。
そうか。だから海織はセーフ。と言っていたのか。
「何でもいうことを聞くというのはリスクが高いので後日ちゃんと多めの予算でお返しを検討します」
「えー、えー。何でもいうことを聞く券がいいー。それがいいー」
「……駄々っ子だった」
「いいもん。沙夜ちゃんに言っちゃおう。楓君がプレゼント忘れてたー。って。沙夜ちゃんと一緒に楓君いじめするもんねー」
「……ちょっとタイムを」
「ぽちっ、としたらもうメッセージ送られるよ?」
「なんで準備してあるの!?」
海織はニヤニヤとスマホを持ってこちらを見ている。画面は確認できないので……うん。これは……。
「さあさあどうするのかな?」
「……海織がメッセージを準備出来ていないに……賭ける」
「あれー。そっちに賭けちゃうのかな?いいのかなー?本当にそれでいいのかなー」
「……」
うん。この子の表情から読み取るのは――難しい……うん。いやでも準備してない気もするんだが……とか俺が思っていると。
「ぽちっと」
海織はそう言いながらスマホを人差し指で……ぽちっと。
「ちょっちょっ。何でもう押してるの!?」
「へへー。正解は準備してない。だよ。まだおやすみー。って言ってなかったから。スタンプ送っただけだよ」
と、海織が今度は画面を見せてきて……うん。海織のスマホには。本当におやすみ。のスタンプが今送られたところだった。
ホッ。だが……ホッとはまだできない。
「で、何でもいうことを聞く券でいいのかなー」
「……内容で判断というのは……?」
「それは――ダメー。ニヤニヤー」
このお方いい笑顔ですね。
めっちゃ楽しんでるよ――。
どうしようかな……まあ準備を忘れた自分が悪いのだが――。
「……ですよね。って言うことでしばらく文句を言われても後日—―ということで」
「ヤダーヤダー」
「やっぱり駄々っ子だった……」
「駄々っ子です!」
「認めた」
うん。海織の精神年齢が下がっている気がします。あれかな?クリスマスだからかな?もうすぐ日付変わるけど。
「じゃ……普通のお願いしかしないからさー」
「海織の普通のお願いのレベルが――怖いんだが。って普通のお願いじゃないお願いするつもりだったの!?」
「はい。決まり」
「ちょ、決まってないから」
「決まり。いいでしょ?プレゼントを忘れた楓君?泣くよ?泣いちゃうよ?ニヤニヤー」
「……ニヤニヤ言ってるんですが――」
うん。まあこうなる未来予想図はあった気がする。うん。俺弱かったです。
「……はい」
「やったー!じゃあじゃあ」
そう言いながらスマホはソファーにほられて……こちらに急接近の海織さん。
「……海織。テンション高すぎ。もう遅い時間だからね?」
「だってなんでも言っていいんでしょ?楽しいに決まってるじゃん!」
「—―出来る範囲で」
「どうしようかなー。どうしようかなー。まだ今日は後8分くらいあるからね。しっかり考えて使うねー」
スマホで時間を確認してみると……うん。23時52分—―あっ3分になりましたね。
まあ海織に押し切られた形だが――。
とりあえず……クリスマスにプレゼント?と言えるのかはわからないが……うん。これプレゼントなのだろうか――やっぱり後日ちゃんと何か買ってこようかな。うん。ちょっと予算プラスして。
俺がそんなことを思っていると海織はシンキングタイム?とか言うのだろうか。何を言うのか考えているのか。自分の世界に入ったようだ。
「一生楓君をパシリに使う……うんうん」
「……」
何だろう。今ぼそりとめっちゃ怖いことが聞こえた気がする……って海織はずっと居てくれるというか……そういう考えなのか。うん。それはとってもとってもありがたいというか。嬉しい事なのだが……パシリってのが――うん。
「でもこれは――かな」
うんうんうんうん。ちょっと考えなおそうか海織。
「……1日1回キスさせる――うんうん」
「—―」
……ちょっと止めに入った方がいいかな?ボソボソ言われるとこっちがなんというか……恥ずかしいというか。この子は恥じらいとかどこに置いてきたんでしょうかね?って今なんかすごい事言わなかったか?
その後も海織はボソボソと――。
何だろう……。
嬉しいのだが……。
俺が死にそうだった。
って、海織気が付いているのかな……自分がめっちゃにやけながら考えていることに……まあ後4分くらい。もう少しだけ。何も言わずに我慢していようかな――うん。
「あー、どうしようかなー。何でもって言いたいこといっぱいありすぎて悩むー」
ついにボソボソではなく普通に頭を抱えていた海織だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます