第223話 出動要請 ~伊勢川島駅17時54分発~

「またねー。沙夜ちゃん。あっ夜メッセージするかも」

「OKOKー。またねー。海織ちゃんも楓くんもおつかれー」

「また来週。気を付けて」

「楓ー。またヘルプ頼む」

「そのヘルプはいらない」

「ひどいなー」


これはよくある光景。

湯の山線の車内での俺たちの会話である。主に中菰野駅と菰野駅間。もう少し正確に言うと。菰野駅到着間際の会話である。


まあ柊と斎宮さんは菰野駅で降りるのでね。到着間際にいつもこんな感じで話している。


もちろんだが。俺と海織はまだ乗っていくので座席に座ったまま。柊と斎宮さんは立ち上がりながら話す……という感じ。まあホント4人で帰る時は毎回あることである。なのであまり触れるようなことでもないか。下手したら毎日あることなのでね。でも今日は少し触れてみました。


って――そういえば、なんか俺が語るの久しぶりな気がする?うん。あれ?気のせいか。って俺はなにをいきなり言っているんだろうか。まるで誰かに視点が変わっていたかのような……。

そんなことないのにな。ちょっと余計な事。柊の卒論ヘルプとかをして疲れているのだろうか。うん。今日はとっとと帰って休もう――って……無理か。いつものお方が居ますからね。


「バイバーイ」


俺の隣で今菰野駅へと降りていった2人に手を振っているお方である。


「楓君」

「うん?」

「今日の晩御飯どうしようか?」


ほら、やっぱりね。とか思いつつお返事しないと拗ねますからね。多分。


「今日も普通に来るのね」

「もちろんだよ?明日休みだよ?」

「……ですね」

「で、どうしようかー。なんかこれって浮かばないんだよねー」

「うーん。何が家にあったかな」


柊と斎宮さんが降りていった後はまあこれもいつも通りか。海織と2人でなんやかんやと話しながら伊勢川島駅へと電車は向かう。


もちろんというか。最近ではほとんど毎日の事なのだが……今日も海織さんは俺の家に来るようです。はい。そして泊り――土日もダラダラ居る。そんな感じですかね。


17時35分。伊勢川島駅に到着。


「とりあえずまだ早いし。明日休みでゆっくりできるから楓君ところに帰って、冷蔵庫の中身とか確認してから決めようか?何もなかったら買い物行こう!そしてスイーツもゲットしよう」

「—―海織。元気だね」

「今から楓君独り占めですからねー。ニヤニヤー」

「……」


海織は今日もご機嫌です。はい。と、伊勢川島駅の改札を抜けつつ2人で話しながら。とりあえず家の方向へと歩いている。


♪♪


駅から少し歩いてきてもうすぐ家というところで海織のスマホが鳴る音がした。


「うん?なんだろう?」


海織はカバンからスマホを取り出し確認している。あっ、皆さん、歩きスマホはダメですよ。お隣の方が……やってますが……って止まりました。


「沙夜ちゃんだ」

「斎宮さん?」


海織が立ち止まったので俺も止まり海織の方を見る。


「うん、えっとね。なになに……今から楓君を貸してって白塚君が言っているってー」

「—―うん?」


俺は自分のスマホを確認してみるが――特に新着メッセージはなかった。


「ほら」


俺が自分のスマホとにっらめっこをしていると海織が自分のスマホの画面をこちらに見せてくれた。うん。確かに斎宮さんからで柊が俺を必要としているというか。貸してほしい。と言っていると……うん?まだ別れて数十分くらいで――本人からは連絡なし……うーん。謎である。


♪♪


すると再度海織のスマホが鳴った。海織はまた画面を見て――。


「味噌?」

「—―はい?」

「ほら」

「…………味噌だね」


海織のスマホには斎宮さんから追加のメッセージ。内容。本文は――味噌の2文字だけ。さらに謎である。何だろう。何かのゲームでもしているのだろうか?


「……楓君とくに予定ないし。戻ってみようか?」

「マジっすか」

「マジマジ。だって楽しそうじゃん」

「……まあ……いいけど――」

「じゃ、駅戻ろうか。今から向かったら次の電車間に合うかもしれないし」

「了解です」

「レッツゴー」


うん。俺の家が見えていたんだが……まさかのまたUターンとなりました。残念家にはたどり着きませんでした。


「ちょっと風が冷たいから。楓君楓君。腕貸してー」

「……最近よく言うけど――歩きにくくない?荷物もあるし」

「問題なしなし。私が風邪ひいちゃうでしょ?」

「なら暖かい服装を」

「楓君が居るからいいのー」

「……」


はい、もう特に触れてなかったのだが――最近は涼しく。ちょっと寒くなってきたからか。ちょくちょくこうやって駅から歩く時とかに海織が俺の腕にくっついている。というのはよくある。もう何を言ってもなのでね。もうそっとしておくのがいいということに俺の中でなりましたのでちょっとぶつぶつは言わせてもらうんだが……甘えさせてますね。ダメですね。俺。


って、まあ確かに暖かいんだが。ちょっとね。よく歩くところでこうやってくっついて歩くのは――なんか視線を感じるというか。いや、見られたりしてはないと思うんだが……うん。ちょっとね。周りがとか俺は思っているんですよ。お隣の方は全く思っていないみたいですが。これはそろそろ仕返しが必要ですかね?



「楓君反応が最近悪いんだよねー。もっと喜んでいいんだよ?ニヤニヤしてもいいんだよ?」

「海織。顔赤いね」

「あ、赤くないもん」


うん。本当は全く赤くない。でも今ちょっと赤くなった気がする。

いやね、少し前にこうやって言うとちょっと海織の反応がね。今みたいな感じで新鮮だった。というか。うん。ちょっと俺が勝った。みたいな感じになりましてね。たまに。たまに――反撃することにしました。


毎回しちゃうとね。海織が……またなんやかんやと起こしちゃうかもなので。


まあそんなこんなで海織となんか言い合いしながら――。

ちなみにちょっと腕をつままれていた気がします。はい。やりすぎ注意です。はい。


そしてまた伊勢川島駅に戻ってきました。そして次の電車を確認するために駅の時刻表に目をやる。


「えっと――次は……あっ間に合ったね54分だ」

「54分だから。もう来るじゃん。行こう!」


俺と海織は伊勢川島駅17時54分発の湯の山温泉行きの普通電車に乗り。菰野駅へと向かった。


帰宅時間だったのでちょっと電車は混んでいたが。乗っている時間は数分。特に問題なし。あっという間です。


18時03分菰野駅に到着。俺と海織は柊と斎宮さんのアパートへと向かって歩いた。


って、ここで気が付いたが。どっちの部屋に行けばいいのだろうか。

俺が海織に聞いてみると……。


「白塚君が。だから多分白塚君の家に沙夜ちゃん居ると思うよ?」

「そうかな?」

「まあまあ白塚ところが1階だから先に白塚君ところ行ってからでもいいんじゃない?」

「まあ――それもそうか。斎宮さんところだと上に上がらないとだからね」


と、いうことで海織が柊の家のインターホンを押した。


ピンポン。


ドアの向こうからの返事は早かった。声は……斎宮さんだった。ここ……柊の家だよね?うん。


などと俺は思いつつ。ドアが開くのを待ったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る