第214話 ナローゲージ1 ~伊勢川島駅11時16分発~
とある日。
「ねえねえ、楓君、楓君」
いつものように……当たり前のようにか。
海織が俺の部屋でくつろいでいる。
昨日も大学帰りに普通に俺の家に来て、そして泊まり今も普通に居ます。はい。
ちなみに今日は休みなので朝食の後はのんびりとしています。
あと――現在海織がどこに居るか説明しておこう。
声は俺も真後ろから聞こえているのだが……うん?海織の問いかけに答えた方がいいんじゃないかって?多分大丈夫。今は説明の時間です。はい。説明開始です。
本日の俺は壁にもたれながらパソコンを叩き卒業論文を製作中です。すると……何故か俺と壁の間に海織が無理矢理入り込んできて……俺の背中に海織が居ます。以上海織の現在地説明終了。
うん、壁にもたれながら作業をしていたはずなのだが……もたれられなくなりました。そしてなんで狭い部屋とはいえ。こんな密なことをしているのでしょうか……。
あっ、俺が卒業論文を作っているのは遅れていてヤバイ。藤井寺先生になんやかんやと真っ赤に赤ペンを書かれた。とかではなく。ちょっとね今週藤井寺先生に見てもらうところまでは出来ていたのですがね。ふと印刷した紙を見ていたらミスを見つけてしまいまして……一部作り直していた。ということです。
で、そんな俺の邪魔をしている海織さん。
俺の後ろでスマホをいじりながらな何をしているのでしょうか?確かにちょっと涼しく?なって来たのでくっついてもらっても問題ないのですが……。
あっ、今はもう11月です。あっという間ですね。1年がもうすぐ終わろうとしています。やばいですね。時の流れが速い気がします。
俺の後ろで何かをしているお方は――ゆっくりかもしれませんが。
って、そういえば海織は今話しかけてきていたか。
「……何でしょうか?」
「楓君。今の長ーーーーーーーーーーい間はなに!?なんで時間差返事!?」
海織の表情は見えないが……ちょっと不機嫌海織になってしまった?いや、うん。多分声的には大丈夫と思います。はい。にしても俺の謎な説明時間?とでもいうのか。多分全く海織はわかっていないと思うが。今の間を何も言わず待っていてくれた海織。すごいです。はい。そして返事が遅くなりました。ごめんなさい。
「いや、ちょっといろいろありまして――集中してたから?」
「あー、もしかしてやらしいこと考えてた?背中がふもふするとか?あっ、でも私もたれてないから……楓君の勝手な妄想?」
「ないです。って海織は人の背中を机みたいに扱ってるよね?スマホ置いているのはわかってるからね?」
「えっとー。楓君はスマホじゃなくて私に密着してほしいと。なるほどなるほど。高くつくよ?高いよー。ニヤニヤー」
「言ってませんよ?」
「まあまあ。今くっつくと動きたくなくなるからねー」
「……」
「で、楓君。すっごく今更なんだけど」
「うん?」
「近鉄四日市駅のちょっと離れたところに小さな鉄道あるよね?」
「えっ……あー。うん。あるね。四日市あすなろう鉄道だね。確か……一度海織が1週間くらい来なかった時に乗ってみようと思って行ったら藤井寺先生に捕まったなー。うんうん」
「あっ、そんなこと言ってたね。あー、そうだ。たい焼き!たい焼き食べたんだよね?私も連れてってって言ったのにまだなんですけどー。沙夜ちゃんも言ってたよ?」
うん。忘れてた。そういえば――たい焼きや行こうとか約束したかもしれない……うん。忘れていました。斎宮さんも……なんか約束したかもしれません。
「……ちょっと忙しくてね?」
「嘘だー、忘れてたー。ひどい。ってことで今からその電車乗りに行こう!で、帰りにたい焼き食べよう!」
「—―ほえ?」
うん。この子はホントいきなり何かを決めますね。
「ほらほら楓君立って立って」
「海織がくっついているんですが」
「くっついてないよ?」
「いやいや、背中で何かしてるよね?ってもうちょっと待ってくれないですかね?あと少しでこれ終わるので……」
「えー。早く行こうよー」
「ところでなんで急にあすなろう鉄道に乗りたくなったの?」
「思いつき!」
「—―回答ありがとうございます」
「ふふふー。たまたまねー。どこか近場で面白そうなところないかなーって検索してたらヒットしてね。かわいい小さな電車が走ってるーって」
「まあ、うん。確かに近場だね」
「でしょ?で、乗ったことないなら乗りに行こうよ。調べてみたら結構短い区間だからさ。終点まで乗って戻ってこようよ」
「まあ海織がそれでいいなら。俺は前に挑戦して乗らないままになっているから……」
それからは俺はささっとやっていたことを終わらし。パソコンとか出していた物を片付けて……そのお隣では海織が出かける準備をしていました。
俺が片付け終えたころ海織はすでに準備OKらしく。俺を待っているという状態。
暇だったからか本棚から時刻表を抜き出して何かを見ている。あっ、そういえば近鉄の時刻表にあすなろう鉄道も載っていたか。
あっそうそう俺の準備ができるまでに……簡単に説明。海織が乗りに行こうと言っているのは四日市あすなろう鉄道。全線単線のローカル線でいいかな?個人的には、近鉄内部線、八王子線。とかの方がしっくりくるのだが……今は違うからね。そういえば近鉄時代の時は乗ったことなかったか。うん。こっちに来る用事がなかったからな。あまり遊びに……でこっちまで出てこなかったし。うん。写真とかでは見たことあったんだけどな……ってこんな雑な説明をしつつだと。待っている海織からお𠮟りを受けるので早く準備をしましょう。はい。って何着て行こうか……まあいつも通りでいいか。近場ぶらぶらだからね。うん。決まり。
「楓君。11時の電車には乗れる?」
「うん。大丈夫。もうすぐ準備出来るから」
「じゃ、11時は――16分だねー。楓君あと11分」
「急だね。多分間に合う」
俺が準備をしていると後ろからは海織のそんな声が聞こえてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます