第159話 赤ペン動き回る ~湯の山温泉駅19時11分発~

――12時28分。


湯の山温泉駅に到着した俺たち4人はいつもの大学への道を進んでいく。


途中、飲み物を……ということで、ゼミの部屋に向かう前に4人で売店へ寄ってからゼミの部屋へ。女の子2人はお手洗いやらで売店からの途中で別れたため。今は柊とともにゼミの部屋に到着したところなのだが……うん。これは予想していなかった。


「……し、失礼します?」


先客というのだろうか。部屋に着くとすでに……。


「ほっほっほー」

「—―藤井寺先生。今日は早いですね」


俺の後ろに居た柊が言う。


「ほっほっほー、暇での」

「……なるほど」


いつもなら基本誰も居ない部屋に入るので特に気にするとかそんなことはないのだが……すでに先生が待機中の部屋に入るのは緊張した。うん。変に緊張しますね。


ちなみに、まだ授業開始15分前。はい。先生は――何分前行動でしょうか。って、今暇だから早く来た。みたいなこと言っていたか。


俺と柊がいつもの席に着くと……。


「ほっほっほー。そじゃ、先に2人がまとめてきたのを読んでいようかの。ほっほっほー」

「あ、はい。出します」

「……マジかー」


もうゼミの時間が始まったみたいです。先ほど売店で買った飲み物へは……ちょっとたどり着かないかもしれません。しばらくの間は机の上で飲み物に待機をしてもらうことになりそうです。


チラリと柊の方を見ると……。


「楓。先に、先に頼む俺はギリギリまで粘る。考える」みたいなオーラが……うん。何か必至というか。ヤバイオーラはよくわかったので……とりあえずカバンからまとめてきたものを出して、ほっほっほー先—―失礼。藤井寺先生に渡す。


「ほっほっほー、どれどれ――えっと……ペンペン……ペンどこじゃ?」

「……藤井寺先生。胸ポケットです」

「ほっ、なんと。忘れっぽくてのー、ほっほっほー」


――キュポ。と赤ペンの蓋が開く。


いや、藤井寺先生が赤ペンを探している時に気が付いていないふりをするということもできたのだが……ね。どっちにしろ数秒、数十秒の事だと思うのでちゃんと言いました。はい。


赤ペンのキャップを外し俺が提出した紙を見つめる藤井寺先生—―うん。もう泣きたい俺でした。


「ほっほっほー」


「ほっほっほー……曖昧じゃ」


「ほっ……ほっほー、ふむふむ」


後期になっても藤井寺先生の赤ペンのスピードは全く衰えていませんね。はい。めっちゃ高速で俺が渡したA4の紙数枚にチェックが入ってく。


しばらくしてチェックが終わったらしく。俺の前に紙が戻って来る。何を言われるんだろうな……と思っていると。


「ほっほっほー、ほれ、加茂君のじゃったな。いい感じじゃ」

「—―おっ?」


まさかの高評価……って、めっちゃ赤ペンは入っているが。でもいい感じらしい。


「自分の意見のところが弱いかのー、ほっほっほー」


藤井寺先生が俺の方を見て、紙を指さしつつ話していると。


「……かなー。でしょ」


廊下の方で斎宮さんの声が聞こえてきた。と思ったら。ドアが開いた。


「やっ……!?」


うん。多分斎宮さんは「やっほー」とか言いながら入ってくる予定だったらしいが……ドアを開けたところで固まっていた。そして……。


「ちょっと部屋間違えましたー」

「—―えっえっ?沙夜ちゃん?って、うん?」


海織の顔も室内から確認できた。と思ったら……海織も固まっていた。まあ、ですよね。授業開始前から何か始まっていますから。


「……時間間違えちゃった?」


とか海織も言っていたので。


「間違ってないです。ちょっと先生の到着が早くてですね。待っているうちに見よう。みたいな感じで始まっているだけです。うん」


俺が廊下の2人に向かって言う。


「ほっほっほー」


それから、ささっと女の子2人が席に着く。


「ほっほっほー、宮町さんと斎宮さんもまとめてきたもの出しておくのじゃぞ」

「あ、はい。大丈夫です!」

「わかりました」


2人が返事をすると藤井寺先生は先ほどの続きで俺のまとめてきた紙を見つつ、直すところとかを話してくれた。そして次のお方に移動。


「ほっほっほー、次は白塚君じゃの」

「—―マジか」


自信なさげに柊が紙を藤井寺先生に渡す。


「ほっほっほー」


といいながら目を通しだした藤井寺先生……と思っていたら。すごい勢いで赤ペンが動き出した。うん。俺そんな予感はしていた。藤井寺先生も先ほどから柊が必死になにかしているのは知っていただろうし。うん。柊—―頑張れ。


「ほっほっほー」


藤井寺先生の口癖?の「ほっほっほー」今日はいつもより多く聞くが……言っている方が集中できるのか?うん、謎だ。にしても今日は連呼している。ご機嫌なのだろうか……。


「ほっほっほー」


数分後。柊は藤井寺先生に指導されています。やり直しとかではないみたいだが……いろいろチェックされていたので……指導時間がかなり長くなっています。はい。にしても真っ赤っか。そして書ききれなかったのか藤井寺先生自身が持っていた紙にも……うん。大変そう。


ああならなくてよかったと思っている俺でした。


長い柊の指導が終わった後。斎宮さん。海織の指導もありまして――。


はい。授業時間より早く始まった今日のゼミ終了時間はちゃんと90分の終わりを告げるチャイムとともに終わりました……あっという間だったような……いや、うん。大変でした。俺は指導が終わった後、再度練り直しというのか。まとめていました。疲れた。


「ほっほっほー、じゃまた来週までに頑張るんじゃぞ」


藤井寺先生、今日は居残り指導……ということはなく。時間通り部屋を出て行きました。


藤井寺先生が出て行くと――。


「楓!次やばいから今から手伝ってくれ!」

「お断りします」

「拒否」

「いやいや、拒否の意味がわからない」

「とにかく。ヘルプ」

「……自分のもあるんだが……」


俺と柊がそんな話をしていると。


「楓君楓君」

「うん?何?海織」

「一緒にやっちゃおうよ。この後みんな空いてるんだから」

「えっと、まあそれもそうだけど……」

「さすが宮町さん!」


柊が海織を拝んでいたが……海織は柊のために言った……ではなかったようで。


「私の手伝いしてね?」

「はい?」

「えー、宮町さん!?」


柊が拝んでいたのをやめて海織を見ている。


「あっ、じゃ私のも!楓くん今日いい感じって言われたんだよね?教えて教えて。って、書き方教えて!」


斎宮さんまで参加してきました。


――どうやら。このあと大変そうです「パソコン持ってくればよかったな」とか俺が思っていると海織が俺の電波か何かを察知したのか「じゃパソコン室空いているか見に行こうよ」と言い出して「賛成!」と斎宮さんが続いて……はい。今日のこの後の予定は4人で卒論作成見たいです。


それからは、海織と斎宮さんが大学内に複数あるパソコン室を回ってくれて空いていた場所を探してくれて。外が暗くなるまで俺たちはパソコンをたたいたり。話し合ったりしていましたとさ。


ちなみに帰りの電車は……湯の山温泉駅19時11分でした。俺たち4人パソコン室で頑張りました。はい。

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