第128話 ほっほっほー ~湯の山温泉駅15時59分発~

「ごめん楓君。今日は帰るね」

「いやいや、帰るのが普通かと」


週が開けて、現在大学からの帰り。近鉄四日市行きの電車の中に居る。そしてなぜ、海織が俺に謝っているかって?それは、今日は海織の実家から荷物が届くらしく。どうしても午後は家に居ないといけないから帰るということ。って、今俺が言ったが。普通は毎日自分の家に帰るのが普通だと思います。はい。海織とそんな話をしていると車内にはもうすぐ伊勢川島駅に到着するというアナウンスが流れる。最近のお決まりは、このアナウンスが聞こえると海織も立ち上がり一緒にドア付近へ。なのだが。今日は俺だけが立ち上がる。


「じゃ、海織。また明日、ゼミで」

「うん。また明日ねー」


13時16分伊勢川島駅到着。そして、海織に軽く手を振り俺は電車から降りる。


普通はこういうやり取りが毎日あると思うのだが……俺と海織の場合……こっちがレアというのは、大変おかしい気がする。うん。俺正しいことを言っていると思うのだが…なんか海織と居るとね。わからなくなる。


そして電車から降りた俺は、そのまま1人で改札を抜けてそのままいつもの帰り道へ。今日は午前中のみの講義だったので真昼間の帰宅。最近は夜遅くに歩いていることが多かったので、明るい時間に家に帰って来るのが久しぶりな気がした。あと、もう1つ言うと。1人で帰って来るのが久しぶり。


家に着いてからは、換気のため窓を開け、洗濯物しまわないとと思いつつ。持っていた荷物を置く。この前斎宮さんが来た時に。海織の私物がたくさんあるとかだっけか。言っていたが。うん。今ぐるっと見てみても……結構ある。


あまり俺が触れない場所。海織の着替えやらのスペース。何か初めの頃より多くなっている気がするのは……気のせいだろうか。いや、増えた?確かに最近は洗濯もここでしている海織。4日連続とか……普通にここに泊まることもあるので。って、絶対増えたなこれ。上手に荷物をここに運んでいると思われる海織。ちょっと目のやり場に困るのは……洗濯をするようになったということは、まあ、そのいろいろ見るわけですよ。普通に干していたり。その畳んでいる時とか――。海織はあまりそのことに関しては言ってこないのだが――。

多分あの顔は俺が言ってくるのを待っている。そして……いじられるというか。いろいろ言われる未来が見えているので――俺は今のところ触れないように頑張っている。まあ、なんやかんやで俺の洗濯物まで一緒に海織は洗ってくれるので……かなり助かっていると言えば助かっているのだが……うーん。である。


♪♪


するとカバンの中で俺のスマホが鳴った。画面を確認すると海織からだった。


「楓君。洗濯物外に干してあるからねー。忘れないでね」

「了解。大丈夫気が付いてるから」


返事をしてからベランダへ。って待てい。海織狙ったな。先ほど窓を開けた際には、俺の洗濯ものが見えたので、今日の朝、海織が起きてすぐに洗濯をしてくれていたのを思い出していたのだが。ベランダに出てみると。俺の物の他に、海織が来ているパジャマと、上手にタオルなどで隠されて外からは見にくくなるように……下着やらまでご丁寧に干してあった。

っか、海織さん「明日は帰らないといけないんだ」って昨日から言っていたはずですよね?まあ、でもそれだけしまわない。ということはできないので――ささっと。片付ける。海織の物は海織の物が置かれているところをさっと開けて、さっとしまう。以上。なんかいろいろ見た気がするが。見てない。一瞬はセーフ。よし。問題ない。


♪♪


すると俺が早業レベルで片付け終えたころまたスマホが鳴った。


「楓君。ちゃんとしまうんだよ?ニヤニヤー」

「……」


何だろう。今のこちらの行動をどこかで監視されているのではないだろうか。ナイスタイミングの海織からの連絡。いやいや、しまいました。ちゃんとしまいましたから!


俺は「普通にしまいました。以上」とだけ送っておいた。するとその時。床に置いていたカバンが倒れて、中からこぼれ出ているテキストやらの上に――。


「あっ……ミスった」


カバンから見えていたのは、きょう提出予定のレポート。朝に出すのを忘れていたので、帰りに出そうと思っていたのだが――それも忘れていた。まあ、提出は今週中なので明日でもいいのだが……。


「することないし。行くか」


俺は再度カバンを持ち、戸締りして家を出発。伊勢川島駅に急ぐと、14時10分発の湯の山温泉行き普通に乗れた。そしてしばらく空いている電車に揺られて、14時28分。湯の山温泉駅到着。そこからはいつも通りというか何回、何十回と歩いている大学への道を歩く。

この時間は駅に向かう学生が多いので、俺みたいに今から大学へ向かう人は少数派だった。


しばらく歩いて、俺は各先生のポスト。レポートなどを提出するところにやって来た。


「えっと……あの科目の先生のポストは……どこだ……どこだ――?あっ、ここか」


名前や学生番号などを確認さっと見直してから、レポートをポストに入れる。そして後は帰るだけ。だったのだが。


「ほっほっほー。これは、加茂君じゃないか」

「えっ?あっ。藤井寺先生」


俺が出口の方に向きを変えようとすると後ろから、藤井寺先生に声をかけられた。


「加茂君。ちょっと時間大丈夫かの?」

「へ?あ。はい」


それから俺は藤井寺先生に付いてきてほしいと言われて――。


「重い」

「ほっほっほー。よかったわい。加茂君がいいところに居てくれての」


現在俺は、藤井寺先生の部屋へと荷物運びをしていた。それもなかなかいい重さの物を何が入っているのだろうか。と思ったが。とりあえず、黙々と運んでいる。正面玄関に段ボールが3つ。なので俺は3往復した。


「お、終わりました」

「ほっほっほー。助かった助かった。加茂君よければ、お茶でも飲んでくかの?」

「あ、ありがとうございます」


荷物運びのち。俺は藤井寺先生の部屋で飲み物をもらう。あまり大学の先生の部屋には入ることがないので……うん。レアな経験だった。っか、何か大学の先生の部屋って物が山のように置かれている雰囲気があるのだが……えっと、ここは……地震があったらすぐに生き埋めになりそうです。何か奥の方では天井まで本などが積まれている……先生。ちょっとは整理をした方が……俺の思っていた以上の部屋です。はい。と、そんなことを思いつつ。藤井寺先生に飲み物をもらい。少しの間飲み物を2人で飲みながら藤井寺先生の旅の話を少し聞いた。今度は西日本へ行こうとしているらしい。うん。それはいいと思うのですが……部屋の片づけをした方が……。


「えっと、じゃ俺はこれで」


話も一段落したので、俺はそう言いながら立ち上がった。


「ほっほっほー。助かったわい。あー、そうそう加茂君」

「はい?」

「悪いがの。今週ゼミ休講にするからの。宮町さん、斎宮さん、白塚君に伝えといてくれるかの」

「……また休みですか?」

「ほっほっほー。ちょっとの、ラストランの電車に乗りに行くもんでの。ほっほっほー」

「……」


俺はとりあえず「わかりました。伝えておきます」と言い。先生の部屋を後にした。って「先生休み多すぎでしょ」と、いうのは心の中だけで言っておいた。


ちなみに、その後3人に連絡をしたところ。海織と斎宮さんは「せっかく頑張って準備したのにー、あっでもこれで来週までちょっと平和」みたいな返事があって「ラッキー、これで七夕祭に集中できるわ」と、柊が喜んでいた。


何というか。俺たちのゼミの先生。指導は厳しいですが。よく先生が逃走します。はい。


3人に連絡を終えた俺は、また1人で湯の山温泉駅へ。そして、15時59分発の電車に乗り帰りましたとさ。 

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