第121話 全員集合 ~伊勢川島駅12時10分発~

海織の誕生日からしばらく。海織のケガもすぐに治ったようで……うん。もういつも通り俺の隣でニヤニヤしながら、いろいろなことしてきます。


現在は大学に向かっての電車の中。お昼からの講義のため伊勢川島駅12時10分の湯の山温泉行きの普通電車を待っていたら……まあもう驚かないが。当たり前のように海織が俺の乗る予定の電車に乗ってきていた。電車のドアが開くと海織が立っていた。うん。それだけ。いつものよくあることである。


そして現在の電車の中はかなり空いている。お昼ということもあるだろうが、朝のように学生などで満員とかではなく。かなりゆとりがある車内は平和。なのだが……海織はピッタリと俺の横にくっついている。周りに人はほとんどいないんだけどな……海織の定位置は俺の横。0距離らしい。俺がそんなことを思っていると海織が話しかけてきた。


「楓君楓君」

「うん?」

「もう一回確認するけど。あっ、ゼミの事ね。実は楓君は私に合わせたとかじゃないの?もしそうでも、今なら許してあげるよー?ニヤニヤー」

「いやいや3年生が始まった時にも言ったけど、本当に偶然。偶然だから」

「ふーん。ってことは。すごいね私たち。これはもう運命だね」

「まあ確かに。偶然というか。なんと言うのか。って相談とか一切してないんだから。むしろ海織が合わせた……という。可能性は?」

「ないない。ちゃんと楓君と約束したじゃん」

「だよ――ね。うん」

「そういえば前も話したけど、楓君はどんな先生か知っているんだよね?」

「あー、うん。一応講義を受けたことあるし。一緒に受けてたから斎宮さんも知っているかと」

「えっと……楓君と沙夜ちゃんが言ってたよね。何先生だっけ?えっと……あっ。ほっほっほー先生」

「そうそう。ほっほっほー先生。まあ勝手に俺と斎宮さんが呼んでいただけなんだけどね。口癖というのかよく。ほっほっほーって言ってたから」


そんな話を海織としていると、電車は菰野駅に到着した。


「やっほー!」

「楓、宮町さんお疲れー」


菰野駅からは柊と斎宮さんが乗り込んできた。


「やっと私たちのゼミ始まるね。って改めて思うと本当にすごいよね。相談なしで4人とも同じゼミって」

「だよねー。今も楓君に実は私が選んだの知ってた?って探り入れたんだけど」

「だからね。海織それはない」

「はーい。まあこの話は終わりかな?」

「そういうこと」


車内での会話が一段落したところで、これから俺たちが向かっている講義についてでも話そうと思う。


俺たちの通っている大学は3年生から4年生の2年間。1つのゼミに所属する。ゼミってなんだ?と聞かれると……ちゃんとは説明できないのだが……まあゼミは……ゼミナール?の略で、少人数で研究とか討論会をする?でいいのかな?うん。とりあえず少人数でなんかいろいろお勉強をするところをゼミ……多分あっているはず。


そしてこの大学3年生から大学を卒業するために必ず出す必要のある卒業論文制作がはじまる。3年生の時から準備をしていき。4年生で正式に?というかまとめるらしい。他の学校がどんな感じかわからないが。とりあえずうちの大学は2年かけて作るらしい。まあまだゼミを選ぶ際の説明会で話を少し聞いただけだから。詳しくは知らないのだが。とりあえず2年間ほどかかるものを今から卒業までに俺は作る必要があるということは理解している。うん。大変そう。とても。


そして、まあまず卒業論文書くやらやらの前に一番悩んだのは、どのゼミに入るかだった。大学には何十人もの先生が居る。なので先生の担当分野。自分が卒業論文でやりたいことと合致する先生を探す必要があった。経済で……とか。環境……社会……地域……とかいろいろ先生の紹介の際に説明があり。資料をよく読んで選ぶようにとか言われたのだが……なんせ先生が多い。ゼミ紹介の書類を見ているだけで結構な時間がかかった。


そして、ゼミの希望用紙提出期限までにとりあえず第1希望。第2希望。第3希望。まで書き。志望理由も結構たくさん書いた。志望理由と第3希望まで書く必要があったのは、選んだゼミに必ず入れる。ということはなく。人気の先生のゼミは抽選というのか。志望動機により選ばれるとか。でもどの先生が人気なのか。という情報は、先輩とのつながりのない俺にとっては全く入ってくることがなかった情報なので。普通にゼミ紹介の書類を見て、この先生のテーマがあってるかな?とかで選んだ。


そして先ほど車内で海織と話していたが。この時俺たち4人は、ゼミの選択は個々がこれから卒業論文を書くためにちゃんと選ばないといけないから。変に相談とかはしないでおこう。みたいな話を説明会の時にして。ゼミ選択の際は相談なし。なので4人ともバラバラになるだろうと思っていたのだが……思っていたんだよ。普通は。ゼミの数結構あるから。だったのだが……。


第1回のゼミ発表。所属するゼミが確定した人は大学のホームページに学生番号が記載される。というので、発表日に確認してみたところ。俺は無事に第1志望の「藤井寺ゼミ」に決まっていた。


藤井寺先生は一度2年生の時に、講義を受けていたのでどんな先生かは知っていた。そして、その講義は結構個人的に好きだった1つで。あとゼミ紹介の書類を見ていると。藤井寺先生のページには「まち歩き大好きな学生集まれ」みたいな感じで書かれていたので、俺はそれになんかピンときたため。第1志望を藤井寺ゼミにした。


そして無事に決まった。のだが……俺はそのページを見ていて気になることがあった。藤井寺ゼミは今のところ4人確定していたのだが……。


「……あれ?この学生番号……何か見覚えが……」


画面に表示されていた他の学生の番号。名前とかは一切出ないので、番号を知らないと誰とは特定できないが……俺の番号とともに、書かれている3つの番号のうち1つは何か見覚えのある番号だった。昔この番号を何回か書いたことがあるような……と。普通他の人の学生番号など見る機会もほとんどないので、どこで見た?書いた?となった俺だったが。翌日。見覚えがあった理由が分かった。


いつものベンチ。いつものお昼休み――。


「やっほー。楓くんおつかれー」

「お疲れ様。斎宮さん。海織なら飲み物買いに行ってるよ」

「そっかー。じゃ、楓くんの隣に私が座っていたら海織ちゃんがどんな顔するか。賭けようか?お菓子一袋で」


そう言いながら斎宮さんが空いていた俺の隣に座る。


「私は海織ちゃんなら「あー、楓君と沙夜ちゃんがイチャイチャしてるー」かな?」


なんか波乱というか問題を起こしたそうな言い方をしている斎宮さん。お願いだから平和を崩すのはやめていただきたいのだが……と、思いつつ。


「海織だと……「何話してるの?」かな」


一応答えた俺。まあこれだけ一緒に居ると何となく海織が言いそうなことはわかっている……はず。


「あー、それもあるかもね。海織ちゃんなら言いそう」

そんな感じで斎宮さんと話していると。

「何話しているのかな?イチャイチャしているお2人さん?」

「「!!」」


俺と斎宮さんはハッとして後ろを振り返ると。海織がしてやったり。という感じで立っていた。待て待ていつの間に。全然居る事に気が付かなかった。飲み物を買いに行ったから……正面から戻って来るかと思っていたのだが。いつの間に真後ろに!?


「海織—―いつの間に?」

「少し前から居たよ?」

「う、海織ちゃんどこから話聞いてた?」

「沙夜ちゃんが楓君の横に座ったくらいかな?」

「「全部じゃん!」」


俺と斎宮さんの声が重なると。そこにもう一人やって来た。


「居た居た。沙夜。紅茶買ってきたぞ」


柊が飲み物を持ってやってきた。


「ありがとー」

「で、楓はハーレム中?」

「そんな平和なことではない気がするが――とりあえず、海織にドッキリされた。か」

「えー。私何もしてないよ?」


とりあえず、いつものベンチいつもの昼休み4人が揃ったところで。


「じゃ、ゼミ発表と行きますか!誰がどこのゼミになったか」


柊の声で今日ここに集まった目的。4人のゼミ発表が始まった。

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