第16話 光と影

「それも、真理が、心の理。心理によってね」

「ふっ、つまらない冗談だ」

「さらに言えば、鍵は愛の鍵、アイカギによって開かれるのかもね」


「ということは、合鍵を持って尋ねるのは愛人と決まっている者だ。ふふっ、それを開くのも女ということか」

 フランコは笑う。


「いや、それはちょっと意味わかんない」

「えー・・・」

 私はいたずらに笑う。

 彼も私が心の底から笑ったのに気づいたのだろう。いい笑顔で笑った。


(やっぱり、私はこの道を進む。愛ゆえに。そして、それを助けてくれるのもやっぱり・・・)

 私は心が満たされた気がした。




「お肉をちょうだい、ハンス」

「・・・おう」

「こんなに天気がいいのに元気ないわね、肉屋の跡取りがそんなんでどーするのよ。まぁ、いいわ。とびきり、鮮度のいいやつをお願い。エネルギーを補給しないといけないから」

 私はおいしそうな脳の活性化が見込めそうないいお肉を探す。


「元気そうだな?」 

「元気じゃないわよ、何言ってるのハン・・・ス?」

 私は間抜けなことを言っているハンスの顔を見ようと見上げると、泣きそうになりながら喜んでいるハンスの顔があった。


「どーしたのよ、あんた。もしかして、次男のヨハンに跡取り取られそうなの?」

「いや、久しぶりに話をしたなって・・・」

「えっ?何言ってのよ。何度か来てたし話してたでしょ?私」

「いや、確かにうちの店に来て注文してったけど、天気の話をしても上の空だし、肉のことだって『あー』と『うーん』ぐらいで、あとずーっとぶつぶつ言って話が成立してなかったからな?だから・・・さ、なんか嬉しくなっちまってさ」


 勝手に心配されても・・・と言うにはかなりお世話になったのも事実である。


「ありがとう、ハンス」

 私はハンスにお礼を言った。

 素直に言ったのはこれが初めてかもしれない。


「実はね・・・」

「それより、お前。あの男の家に行くのは止めた方がいい」

「えっ」

 ハンスがようやく話が聞ける状態になった私に言いづらそうに、それでいて絶対に伝えると意志を持った目で私に話す。


「なんでよ、ハンス。私は彼と」

「なんでもだ!」

 ハンスは力強く私の両腕を掴む。

「痛い、痛いよ・・・」

「すまん・・・」

 ハンスは力を緩める。


「何、嫉妬?ハンス」

「そんなんじゃない」

「じゃあ、なんなのよ」

 ハンスは言いづらそうにする。


「あいつを探し回ってる奴らがこの前この店に来たんだ・・・。他の店でも聞きまわっているらしい。いずれ、あいつは捕まって吊るされるのか、闇に葬られるか・・・どちらにしてもお前も仲間だと勘違いされたら殺されるぞ」


———同志が捕まる?


 私はショックで固まってしまった。フランコの知識のことは大分教えてもらったが、彼自身のことは全く知らない。ようやく打ち解けて来て、新たな問題を解決しようとしているのに、彼が捕まってしまうかもしれないと思うと、彼の身を案じる気持ちや自身や彼の夢はどうなってしまうのかと言った不安などが心をぐるぐるぐるぐるした。


「おいっ、大丈夫か?顔色悪いぞ」

「えぇ・・・」

「ミロ、お前は長くこの町にいて、エヴァレットと共にこの町に貢献してきたのを俺も、みんなも知っている。だけど、あいつは違う。ここで手を引けば、お前はみんなで守ることができる・・・だから、手を引け、ミロ」


「わ・・・私、行かないと!」

 私の心とこれからを占うかのように先ほどまで良かった天気は、暗雲が立ちこもってきた。

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