第14話 等価交換

 それから私とフランコはお互いの知識を共有し合った。共有したと言っても、若い私の知識などわずかなものであり、私がフランコに知識を教わることがほとんどだった。そのことを彼に言うと、


「僕が持っている知識なんて、探せばどこかに掛かれている部分が大半だよ。もちろん秘術だから僕、もしくは僕の一派のみ知ることを許されている秘術もある。あっ、これは秘密だから?僕にはミロの新しく斬新なアイディアにこそ価値があると感じているよ。だから、気にするんじゃない。こっちが感謝したいぐらいだよ」

 そう言って、彼は笑うが、本だってかなり高額なものだし、異国の言葉を翻訳して解読することだって必要になる。内容も内容だ。情報の精査だけでも死や怪我のリスクだってあっただろう。その結果が彼の手だ。

 私はフランコには頭が上がらなかった。


「うぐっ」

「大丈夫か、ミロ」

 私はその異臭に吐きそうになる。

「女性の君にはさすがに・・・」

「いえ、大丈夫です」

 私には立ち止まっている暇などない。早く会えるのであれば、苦しい思いだって、肌がかぶれたって・・・。


(きっと、エヴァレットは受け入れてくれ・・・る?)


 もしかしたら、神の怒りを買う所業、悪魔の所存なのかもしれない。しかし、私はエヴァレットに会いたい。エヴァレットは怒るかもしれない。けれど、最後には許してくれる。だって・・・私は彼が好きで、彼も私を好きなのだから。


 私がぼろぼろの手になっても彼は大事そうに私の手を握ってくれるだろう。私の考えは彼に甘えっぱなしなのはわかっている。それでも、相談もなく去ってしまうエヴァレットだって悪いじゃない。私がそういう時、それが分かったうえで、どうしたいかって考えたい女だってエヴァだってわかっているはずなのに。


 私はまた化学薬品を慎重にわずかな反応を見逃さないように調合していく。そんな私は、それを憐れむように見ているフランコの目に全く気付かなかった。




「いいんだよ、僕だって真理に早く近づきたいんだから」

 そう言って、フランコも私に付き合ってくれた。きっとその言葉は嘘だったと思う。私はフランコがなぜ嘘をつくかも考える余裕はなかったが、思い返してみれば、彼の目は私と同じような経験をした目であり、そして、娘を見るような目だった。

 

 彼になぜ錬金術を始めようとしたのか尋ねると、

「お金が欲しかっただよ。シンプルだろ?」

「なぜ?」

「お金があればなんでもできると思っていたからだよ」

「今は・・・?」

「意地・・・かもしれないな。なーんてね」

 彼ははぐらかしたが、ただお金が欲しかったのではなく、彼もまた大切な人、大切な何かのために錬金術に身を寄せたのだろう。

 

 錬金術以外の全てを捨てて。


 そして、そんな彼に私は甘えてしまった。


 話し合いや実験は夜遅くまで続き、二人とも心身をすり減らして、研鑽を重ねた。


 ———たったの3ヶ月。


 何度も慣れない匂いに吐いた。けれど、弱音は吐かなかった結果。

 私たちは全ての知識を共有し、真理を追究した。


———そして、私達二人の知識を持ってしても真理に近づけていないことを悟った。

 

 

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