第13話 異形の業
「えっ?」
彼の瞳は私を見ているのだろうか。私はフランコが私を通して何か別の物を見ているような気がした。
「違うかな?」
「はい・・・・・・最愛の人を亡くしました」
「そうか・・・」
フランコをゆっくりと目を瞑る。
私は緊張しながら、フランクを見つめる。拳は緊張で力が入り震えていた。
「残念だが・・・僕には人を蘇生する手立てはない。すまない」
張りつめた緊張も、そして・・・一瞬の淡い期待もすーっと抜け落ちていく。
———『胡蝶の夢』って何?
私はエヴァレットの書いたメモを見つける。
「あぁ、それはね。東の国の人から聞いたエピソードでね。君は寝ていると夢を見るだろう?」
「えぇ、それはもちろん」
「そっちが現実だったら?」
「???」
「こほん。そのエピソードを考えた人は夢の中で蝶になって、目が覚めたときに自分はもしかしたら蝶なんじゃないかと気づいたらしい」
「それで?」
「あははっ。頑張らなくていいってことかな」
「???」
エヴァレットは困ったように笑う。
「自分って言うのはどこにあるのかわからない。だから、気張らずに行こうよって考え方だね」
「なんか・・・よくわかんない」
「あららっ」
(あの時はよくわからなかった。でも、私はエヴァレットのいないこの世界でもう頑張りたいとは思わないし、こんな世界夢であればいいのに)
本物の私が見ている悪夢ならばどんなにいいことだろうか。そして、早く覚めてほしい。
「・・・さん。お嬢さん、大丈夫か」
「あっ、はいすいません」
私は慌てて反応して謝る。
「相当堪えているようだね」
「えっ」
私は涙を流していた。フランコは目を逸らす。
「すいま、せんでした」
「・・・構わんないよ」
「聞いてもいいですか」
「なんだい?」
「錬金術には不可能がないと聞きました。本当ですか?」
フランコは黙って自分の作っているガラス細工などを見る。
「そう・・・僕は信じておる」
「そうですか・・・」
「ちなみにお嬢さんはここに何があると思う?」
フランコはてのひらを見せてくるが何もない。
「なんにもないのでは?フランコさん」
「ふふっ。ではこれはどうかな?」
フランコは透明な液体を手に取る。
「この液体の中身には何があると思う?」
「それはわかりません」
「だが、何かはあるだろう?」
私の納得した顔を見てフランコはニヤッとする。
「わかりやすい例を出すとするなら、匂いは見えないが確かにそこにある。目で見えなくても、鼻であることがわかる。この液体もこの鼻で嗅いだり、この指で触ったり、この舌で味わったりしてみれば何かがあるのがわかる」
フランコは液体を揺らすと、色が変わった。
「うわぁぁっ」
私は思わず感動してしまい、声を漏らす。
「錬金術の基本は等価交換。ないところからは生み出せない。賢者の石・・・それは推測にしかすぎないが、何者にも変わることができる存在・・・なのだと僕は思っている。大切な人が死んだとき君はその場にいたかね?」
私は頷く。
「その時、人だったものが、ただの肉体になった気がしなかったかね?」
私は目を閉じて記憶を呼び起こす。この世界で一番辛かったその過去を。熱を帯びていたエヴァレットはまだ何かがあったかもしれないが、徐々に熱とともに失っていくような感覚もあったかもしれない。
私は再度目を開けると、エヴァレットを抱きしめた両腕が震えていた。
「僕は魂はあると思っている。そして、それはどこかに消えてしまう。われわれの感覚器官が正しく認識できないが、確かにそこにいたと私の心が・・・そういうんだ」
フランコも自分の記憶をなぞるように目を閉じる。
「魂を見つけるのに正しく反応するものを見つけ、それを頼りに大切な人の魂を探すか、魂が分解されてしまったというのであれば、再構築できる何かを見つける。これが僕の考えだね」
フランコは丁寧に私の反応を見ながら丁寧に話をしてくれた。
「ミロだったかな?君が興味があるならば、僕の化学と君の科学の情報交換といかないかい?」
フランコの言葉が私の心に光を灯したのを感じた。
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