第9話 厳しい訪問者

「うぅっ、うううぅっ」

 私は手を覆って、膝から崩れ落ち、涙を流す。


「おい、ミロ、ミロ。どうしたんだ?」

 私は声がする方を見ると、そこにはハンスがいた。

「大丈夫か、おい」

 ハンスは駆け寄って、私の両肩を支える。


「・・・えぇ、大丈夫よ、大丈夫」

(私は最初からガラクタなのだから)

「ってお前、ちゃんと寝れてるのか?それに・・・食べてないだろう?」

「えっ、食べて・・・いるわよ、やだなハンス」

 ハンスは疑った目で私を見る。

「また、サンドイッチを持ってきた。これでも食べろ」

 袋の向きを変えて、袋の底にある2つのサンドイッチ見せてくる。

「あら・・・おいしそうね、ハンス。でも、今はお腹が減っていないの。だから、後で食べるわ」

 私は精いっぱいの笑顔を作って、ハンスを安心させようとする。

 ハンスは落ちているハサミに目が行く。


「ごめんなさいね、ハンス。散らかってて。私って片付けが苦手なの。恥ずかしい話なんだけど・・・」

「お前・・・後追いとか、考えてねぇだろうな」

「そんなの!!考えるわけないじゃない!!」

 私は自分でもびっくりする声を出してしまった。

「・・・ミロ」

 ハンスが心配そうな顔で私を見つめる。


「えっとね、気が動揺しちゃって。ごめんなさい、ハンス・・・その~、そうっ、急にハンスが私たちの家に押しかけるからびっくりしちゃって。でも、未亡人の家に押しかけるなんて感心しないな、私」

 私は話を逸らそうとする。

「押しかけたのは悪かった。だが、幼馴染として、お前の葬式の虚ろな顔を見ていたら心配になっちまって・・・」

「いいのよ、ハンス。でも、本当に私は大丈夫だから、ほっといて。一人で色々考えたいし、そう、エヴァレットが怒るわ。まだ死んでから数日しか経ってないのに、男が入り込むなんて。だから、私をほっといてほしいの。お願い」

 私は頭を下げる。


「でもな・・・本当に飯を食っているか?ミロ」

「えぇ」

 私は笑顔を作る。

「いつ最後に食べた?」

「それはもちろん、朝よ」

「どこで」

「もちろん、家よ」

「何を食べた?」

 私は笑顔のまま固まる。


「えーっと・・・なんだったかしら、パンを少し食べて・・・チーズも食べたかしら」

「食材置き場、カビが生えていたパンがあったぞ、ミロ」

 ハンスは私の目をジーっと見る。

「あらそう、じゃあ捨てないとね。それにしても、ハンス。あなたは肉屋さんなのに、今日は探偵みたいじゃない。やーねぇ」

「それは、お前がやましいと思っていることがあるからじゃないか、ミロ」


「やましいって、勝手に家に上がり込んで、食材置き場まで見て、物取りか、強姦魔のようよ、あなたっ」

 私は頭の中で黒いものがぐるぐるするような不快感を抑えながら、冷静にゆっくりと言う。

「でも、来て正解だった。サンドイッチ、自信作だから食べろよ。今」

 ハンスは悪びれることもなく、強気な言葉を私にぶつける。

「今は・・・」

「食べろよ」

 ハンスは何かを確信したらしい。

「一口でも食べたら、帰ってやるよ」

 

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