第7話 愛、それは無力なもの

「でも、辛いわよ。あなたがいない人生は。あなただってそうでしょ、エヴァ。天国で待つって言ったって寂しくなるでしょ?」

「ははっ。そうだね。もしかしたら・・・なりふり構わず君に会いに行くかもね。泣きわめいてでも・・・」

「何それ・・・もう」


 私は前に立っているエヴァレットを通り越し、先へ進む。


 バタンッ


「もー、やっぱり酔い過ぎよ、あなた」

 私は振り返り、倒れたエヴァレットのところへ行く。

「エヴァ・・・レット?」

 顔を近づけて彼の顔を見ると、この薄暗闇でもわかるくらい顔色がおかしい。そして、呼吸も荒い。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・ふぁぁああっ、くあっ、うっくっ、あっくっあぁぁぁぁ———」

 ひゃっくりのような痙攣をおこし、呼吸もろくにできないようになる。

「エヴァ、エヴァ、エヴァアア。返事をして。大丈夫?」

 口に耳を添えるが、呼吸音がしない。私は頬を叩きながらもう一度、エヴァレットを呼ぶ。

「エヴァ?エヴァァ?ねぇ、起きて、起きてよっ!!」

 私は彼を寝かしつけ、心臓音を確認する。


———心臓の音が聞こえない


 私は慌てて、心臓マッサージをする。そして、15回マッサージをした後、軌道を確保し、鼻をつまんで、エヴァレットの口へ息で空気を送る。


 何度も、何度も———私は彼を蘇らせようとする


ねぇ!!返事をして!!エヴァレット!!」

 私は彼の鼻を塞ぎ、彼の口に息を送り込む。


「こん、な、キスが、最後、なんて、絶対、いや、だから、ね」

 私は心臓マッサージをしながら、エヴァレットに話しかける。しかし、返事はない。


 また、息を送り込む。

 しかし、気のせいであって欲しい。さっきより彼の唇が冷たい気がする。

「やだぁ、やだぁよぉおお。エヴァレットォオ」


 私は泣きながら、彼の胸の上で泣く。


「私は駄目な子なんだよ・・・私はまだまだ甘えていたい。偉そうなこと言ったって、私は無地で無謀な頭がおかしい子。あなたがいたから生きてこれてたのよ・・・ガラクタでいさせてよ、エヴァレット。あなたの腕の中じゃないと私は一人前の振りすらできないのだから・・・」

 揺すっても、彼は目を覚まさない。そして、それは私が乱暴に扱っていい人ではなくなった。私は彼の頬を触る。


「冷たい・・・」


 これが目の前で人がということか。熱を無くし、乱暴に扱うこともできない。私は初めて死者を敬うということがわかった。


 だって、これはもう、傷つけば自ら回復することはないのだから。


 私は彼の両目の瞼をそっと閉じさせる。


「おやすみ、エヴァレット。そして、さようなら・・・」










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