第5話 愛、それは想うもの

「ふっふふ」

「似合っているよ、ミロ」

 私はさっそく、サクラのかんざしをエヴァレットに付けてもらって、町を散策する。

「それにしてもさっきは恥ずかしかったんだから」

 私は顔が火照るのを感じる。

「ごめん・・・」


———店の前


「どっ・・・どうなのよ。エヴァ」

 店の前でさっそくエヴァレットに付けてもらい、感想を貰おうとするが、付けたエヴァレットは私を見て固まってしまう。科学に打ち込んでいつもぼさぼさの髪をしている私が、少し髪を整えたくらいじゃ、この美しい髪飾りは不釣り合いなのか、心配になる。


「神に・・・感謝します」

「ちょっと・・」

 エヴァレットはかんざしを私に付けると、雑貨屋の主人も見ているのも気にせず、涙目になりながら、私の頬を触る。

 そんなエヴァレットの慈しむようで、悲しいような、それでいて嬉しさを兼ね備えたような顔をされてしまえば、私も恥ずかしいと思っても無下にはできない。

「君に・・・逢えて、本当に良かった。この感動は誰かに、あぁ、そこの主人にもだけれど、皆にありがとうと言いたい気分なんだ。それくらい、君は・・・きれいだ」

 透き通る声。私のいくつものバリアーなんて簡単にすり抜けて、私の心の一番柔らかいところまで簡単に突き通る。


「そんなに感謝したいんだったら、まず私に感謝するべきじゃない?私があなたを、エヴァレットを見つけたんだから」

 彼が神学を学び、理解したからこそ教鞭を取っていることも知っている。けれど、私は欲深だ。私とエヴァレットの間には神であっても割り込んで欲しくない。


「あぁ、そうだね。ミロ。ありがとう。僕を好きになってくれて」

「えx・・・私もよ。エヴァレット。私を愛してくれてありがとう」

 私とエヴァレットは自然と顔を近づけ、目を閉じ・・・そして———


「あ~あ~、ゴホンッ」

 

 主人の咳払いに二人とも目を開ける。


「高価な買い物をしてくだっさたお客様だが・・・商売の邪魔だ。そして何より・・・俺が見ていて恥ずかしい」

「おぉ、すまない。主人」

 エヴァレットは雑貨屋の主人に謝る。

「お詫びに・・・これを買わせてくれ」

 エヴァレットはブローチを手に取る。

「それは彼岸花ひがんばなだな。花言葉は———」

 エヴァレットは主人を制す。

「知っていますから。大丈夫です」

「おっ、おうそうかい」

 主人は私をちらっちらっと見ながらも、エヴァレットからお金をもらい商品を渡す。

「じゃあ、行こうか。ミロ」




「ねぇ、ヒガンバナってのはどんな花なの?」

「赤くてきれいな花だろ?」

「見た目じゃなくて、花言葉とか」

「うーんっとね、恥ずかしいけれど」

 エヴァレットは私の胸に触ってくる。

「ひゃっ」

 

 焦ったが、さきほどの彼岸花のブローチを付けてくれる。

「『想うのはあなた一人』だよ。あの主人。君のことを愛人か何かと思ったのか、それとも僕がいい歳して君しか愛したことがないと思ったのか・・・どちらにしても失礼な話だよ」

 私は先ほどの主人の様子を見る。確かに動揺していたが———

「ほんとうに、それが花言葉?」

「あぁ・・・ほんとだよ。神に誓う」

「・・・そう」

 どこか引っかかる。

「はい、できたよ。うんっ、似合っている」

 満足そうにするエヴァレット。でもどこか寂しそうにも見える。

「じゃあ、行こう。今日はまだまだ長いのだから」



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