第4話 愛、それは施すもの

「エヴァレット!どこ〜!」

 私は大声で探す。何人かが私を見る。

 冷ややかな目をされても、必死に声を出す。

 

 常識、非常識。

 

 いいわ、勝手にすればいい。非常識だと私を見つめる常識人のあなたたちは大切なものが失っても仕方ないと諦めるのだから。非常識な私は大切なものは無くさない。もしかしたら、そこら辺を声も出さずに歩いていたら、大切な人に再度会えるかもしれない。

 そして、あなたたちは言うの。

 

 ———運命だって。神様のおかげだって。


 私は自分で掴むから。


 こうやって、私の声が響くのも常識人のおかげだ。


「・・・ロっ。ミロっ」

 どこからか、エヴァレットの声が聞こえる。

「エヴァレット!!エヴァレットっ。私はここよ!!」

 人込みの中からエヴァレットが現れる。苦しそうに息を弾ませながら、私を見つけたエヴァレットはほっと安心した顔をする。

「ミロ・・・っ」

「エヴァレット!!」

 私は彼の胸に飛び込む。

 こんなざわざわした雑踏の中で、エヴァレットの作った空間は私を優しく包み込み、余計な音や景色を遮断してくれている。


「心配したよ、ミロ」

「どうしてっ、追ってくれなかったのよ・・・寂しかったんだから。バカ・・・っ」

「ごめん・・・さっきは。僕の愛しいエンジェル」

「バカっ」

 私は彼の胸に顔や髪を擦り付ける。


「ミロっ。道の真ん中だと人の邪魔になるから・・・ねっ」

 もう少し私の両腕を掴み、私を離す。

「じゃあ、これで我慢する」

「ちょっと・・・ミロっ」

 私はエヴァレットの腕に抱きつく。


「わかったよ。僕は幸せだ。こんなかわいいレディーに独占されるなんて」

「ねぇ、お詫びになんか買ってよ」

「ははは・・・っ。今月厳しいんだけどなぁ」

「あっ、あれがいい!!」

「全然聞いてないし・・・」

 私はエヴァレットの腕を引っ張って、雑貨屋に向かう。


「うわぁ・・・っ」

 私は見たことのない薄紫の花の髪飾り。紫は高貴な色であるが、その花は凛としつつも、儚げさを持っており、一線を引いて個性を存在感を出している。その花の髪飾りに私の心は奪われる。こんなにも生命力を感じさせる存在感は、おそらく繊細に細部まで作られているからだろう。職人の愛を感じた。これもまた職人のなせるわざなのだろうか。


「おっ、嬢ちゃん。お目が高いね。どうだい?安くしておくよ」

 私は目を光らせる。どうやら、この店の主人はこの価値に気付いていないようだ。

「えー、エヴァレットぉ~。ほしいなぁ~」

 私がエヴァレットに買わせると決めて譲る気がないと、理解したエヴァレットは私の三文芝居にやれやれといった顔をする。


「これは、主人が作ったんですか?」

「いや、これは東方から来た男が作ってるんだ」

「えっ、男ですって」

 私はびっくりした。こんな繊細なものを男の人が作ったなんて。

「そうだよ、嬢ちゃん。まぁ少しむさ苦しい見た目だが、その手つきは天下一品・・・だよ?」

 男は正直者なのだろう。東洋人、それも男がこんなに繊細なものを作ったと言えば、貴族の一部の女性は嫌がるだろう。まぁ・・・一部の珍しい物好きな貴族であれば、その十倍以上の値段を付けて、さらにはその男ごと買ってしまいそうなものだが・・・。そんなリスクがあってもこんなみすぼらしい私に駆け引きもせずに言うのだから、この主人は商売下手としか言えない。


「おやおや、旦那さん。奥様はこんなに欲しがっていますぜ。お綺麗な奥様がより一層きれいになるとは思いませんか?」

 私は奥様と言われて嬉しくなる。ニヤニヤしながらエヴァレットを見る。

「おやおや綺麗と言われて、私の連れは頬を染めているようだ」


(わかってるくせに。私が心を動かすのはあなただけなのに。意地悪)

 私は掴んでいる腕に爪を立てる。

「いっ。そうですね・・・十分魅力的な彼女ですが、より品がある大人の魅力ある女性になるでしょうね。爪を立てるなんてことをしない、上品な。ちなみに・・・この花を私は見たことがないんですが、何という名前か知っていますか、御主人」

「えぇ、キキョウというらしいです。花言葉は『永遠の愛』二人にはぴったりじゃないですか」

「『永遠の愛』なんて!!私たちにぴったり。これがいい!!」

「『永遠の愛』ですか・・・」

 エヴァレットは少し儚げな顔をして、髪飾りを見ているはずだが、どこか遠くを見ているような瞳をしていた。

「エヴァレッ・・・ト?」

「買わせていただきます。きっとそれは彼女の髪に似合うから」


「やった!」

 私は彼を抱きしめる。

「まいど!!太っ腹だね旦那」


「いえいえ、ミロがこんなにも他人が作ったもので目をキラキラさせているのを僕は初めて見ました」

 私は髪を撫でられながら、愛情を身体全身で受信しようとする。


「私は~、エヴァレットのご飯でも目をキラキラさせてるけど」

「それは・・・食欲だろ?僕が言ってるのは・・・」

「エヴァレットのご飯最高だもん」

 エヴァレットは呆れて次の言葉が出なくなったがようだが、それでも嬉しそうに私の肩を寄せる。

「ありがと、愛しのミロ。僕は今みたいに嬉しそうな君が大好きだよ」


 私は喜びすぎていて、すっかり忘れていた。なぜ、わずかな距離ではぐれたのかと。そうしていれば、エヴァレットともっと話ができたかも———知れない。

 

 

 

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