27.
王弟のユリウス。内務大臣のルミエール。侍従長。ジェイド。百騎隊長のギルバート。
5人の思いは、一致していた。
(今日は2度目か…。)
王の執務室に呼び出された一同は、完全にウンザリしている。
「ルミエール。どうであった?シャラは何か言っておったか?」
「はい。お伺いしましたが、特にご不満は無いと。やはり、陛下へのご挨拶を済ませていないことを気に病んでおいでです。」
フンッ!と王は鼻から息を吐いた。
「私への挨拶なぞ、どうでもよい。シャラの気が晴れるよう、お前達が何とかしろ。」
「しかし…シャラ様は、陛下が後悔なさっていると、誤解しておられー」
「そんな訳があるまい!!」
フィリップが机を拳で叩き、声を荒げた。
「貴様らがしっかりしないから、シャラがそんな誤解をするんだ!もっと気を遣ってやれ!」
「いい加減にして下さい!!」
真っ赤な顔をして進み出たユリウスが、フィリップの目の前で、机をバン!と手の平で叩く。居並ぶ4人は青くなって立ち竦み、王も突然の反撃にたじろいだ。
「そうやって兄上が逃げ続けるから、シャラ殿が困っているんじゃないですか!兄上が態度をはっきりさせなければ、シャラ殿だって、どう振る舞っていいかも判りませんよ!そんなにご心配なら、ご自分で食事にでも誘えばいいでしょう!? 毎日毎日、我々を呼び付けて!迷惑なんですよ!こっちだって、暇じゃないんですから!もう、ご自分で何とかして下さい!!」
唾が飛びそうなほど王を怒鳴りつけて、ユリウスはさっさと部屋を出て行ってしまった。ジェイド、ルミエール、侍従長も後を追う。本来なら王の許に居るべきギルバートさえ、側杖を恐れ、慌てて部屋から逃げ出した。
執務室には、ポカンと口を開けた王だけが取り残された。
「ユリウス様、まずいですよ!陛下を怒らせては!」
廊下でギルバートに呼び止められたユリウスは、振り返って愉快そうに笑った。
「あー、面白かった!見たか?兄上のあのお顔!」
ユリウスは、声を上げて笑う。
「子供の頃は、兄上とよく喧嘩をしたぞ。4つも上だと力では勝てないが、口なら私がいつも勝っていたのだ!…久しぶりだ。こうして兄上に言い返すのは。」
己を殺して国の為に戦い、早世した両親に代わって自分の盾となってくれた兄に、ユリウスは感謝し、心配もしていたのだ。
「まったく!初恋という訳でもあるまいに!女の口説き方なら、私が幾らでもお教えするが…。いや、待てよ。男でも、そう変わりは無いか?口説けるかどうか、一度試してみようか?」
物騒なことをブツブツと呟くユリウスと目が合ってしまったギルバートは、思わず一歩後退った。
独り取り残されたフィリップは、乱暴に椅子から立ち上がった。
何かを蹴り飛ばしたい気分だったが、止めた。
フィリップにも、それぐらいは判っているのだ。蹴り飛ばすべきは、自分の尻だと。
(簡単に誘えるものなら、とっくにそうしておる!)
苛立たしげに、部屋の中を歩き廻る。
(どうやって機嫌を取れば良いのだ!? 贈り物でもすれば良いのか!? 花か!? 宝石か!?)
ウロウロ、ウロウロ。
(ともかく、食事はちゃんと取らせねば…。シャラの体が弱ってしまう。)
煩悶とした空気を払おうと、フィリップは部屋の窓を大きく開けた。
その目に、中庭の秋の景色が飛び込んだ。
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