25.

 「どういうことだ?」


 王弟のユリウス。内務大臣のルミエール。侍従長。ジェイド。百騎隊長のギルバート。


 5人は国王の執務室で横一列に並び、机に頰杖をついたフィリップに睨まれていた。


 このところ、毎日睨まれている。


 しかし今日は特に酷い。元々、目付きの悪い…鋭いフィリップの目が、今日は完全に据わっている。


 「どういうことだ?」


 唸り声に、4人は身を縮めた。ジェイド以外は。


 ジェイドだけは、王と同じように険悪な目をして、王を睨み返している。


 「シャラが食事を取らない、だと? 口に合わない物でも出しているのか?」


 「とんでもございません!」


 侍従長が大慌てで否定した。


 「アルテアより入手したレシピで、シャラ様が今まで召し上がっていたのと同じ料理をお出ししております!シャラ様にお伺いしましたら、『美味しい』と褒めていただけました!」


 侍従長は胸を張る。


 「では、何故食事を取らないのだ?体の具合でも悪いのか?医師には診せたのか?」


 「それも伺いました!シャラ様は、どこも悪くないと笑っておられました。今日の朝食を抜いた時には、『動かないから、お腹が空かない。』と仰っておいででした!」


 フィリップは、殺気立ってジェイドを睨んだ。


 「城に来てから4日間、部屋から一歩も外へ出ていないそうだが?」


 ジェイドは、はぁ!と聞こえよがしの大きな溜め息を吐いてから、半ば投げやりに答える。


 「我々も毎日お誘いはしております。庭を散歩しよう、とか。書物庫へ行ってみよう、とか。ですが、シャラ様は部屋を出ようとはなさいません。『国王様へご挨拶もしていないのに、城内をうろつく訳にはいかない。』と仰って。」


 大男のジェイドは、恨みのこもる目で執務机の向こう側のフィリップを見下ろした。


 「このままでは、本当にご病気になってしまわれますぞ!」


 猛獣同士の睨み合いに、一同は震え上がったが、フンッ!とそっぽを向いたのは王だった。


 ユリウスが猫撫で声を出す。


 「陛下。ご心配でしたら、一度直接、シャラ殿とお話しなさっては?」


 「私は仕事で忙しい。」


 (嘘を吐け!!)


 と、その場に居た全員が思ったが、むろん口には出さない。


 勢いを取り戻したフィリップが、声を荒げた。


 「貴様らがしっかりしないから、シャラが飯を食わんのだ!ルミエール!何が気に入らんのか、お前が聞いて来い!」


 「わ、私が、ですか??」


 「年長のお前になら、シャラも胸の内を話し易いだろう。必ず聞いて来るんだぞ!」


 唖然とする内務大臣を他の4人は気の毒そうに見ていたが、身代わりを申し出る者は誰も居なかった。

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