24.

 シャラは眠れない。


 (今日の昼に、僕は焼け死んでいた筈なのに。何故こんな所で、温々と布団に包まっているのだ?)


 今居る自分が夢なのか? 今までの自分が夢だったのか?


 だが先ほど、泳げるほど大きな風呂を使った際、脛に赤く火傷の痕があり、ヒリリと痛んだ。髪を洗ったら、黒く汚れた湯が流れた。


 (なぜ、僕はここに居るのか?)


 シャラは眠れない。


 広いベッドの真ん中で寝るのは気が引けて、端の方へ潜り込んだ。


 (国王様は、今宵お越しになるのだろうか?)


 思った途端に、シャラは飛び起きた。ベッド脇のテーブルに置いた剣を掴む。


 (兄様あにさまといえど無体は許さない!命を捨てる覚悟は出来ているのだ!)


 (…本当に?本当に僕は、抵抗出来るのだろうか?)


 シャラは、剣を抱きかかえて再び横になった。王の情のこもった眼差しと、自分を抱き締める腕の強さを思い出す。


 (だから、もっと剣の稽古をしておくべきだったのだ!)


 シャラは、振れる自分の感情を「出来ない理由」で決め付けた。


 今夜は深く眠るまいと思ったが、やはり疲れていたらしく、剣を抱いたまま、シャラはいつの間にかぐっすりと眠り込んでしまった。






 深夜。


 疲れたギルバートは、ようやく気を緩めつつあった。


 王が寝室に入るのを見届ければ、今日の役目は終わる。3人の部下と共に、2階の執務室から3階の部屋へ向かう王に付き従い、黙って廊下を歩きながら、ギルバートは気を緩めかけていた。


 ふと、王が足を止めた。


 シャラの部屋の前だった。


 (今夜は、シャラ様のお部屋で過ごすのか。)


 王は何も言わなかったが、アルテア城で天幕を片付けた部下から報告が上がり、中で何が起きたのか察しはついた。


 関係各所へ内々に連絡をしたが、シャラの為に王が自室を転用したところを見るに、そういうことなのだろう。


 リュークは「出世」などと呑気に言うが、いろいろと気を遣う城内での仕事より、ギルバートにとっては戦場で敵と対峙している方がまだ気楽だ。


 近衛の隊長が、そんな事を考えている間にも、王は廊下の真ん中で無言で立ち尽くしている。


 シャラの部屋の扉を守っていた2人の騎士は、扉を開けた方が良いのか判断に困り、上司であるギルバートに目でしきりに訴えかけていた。


 「…あの…陛下?」


 王は再び歩き出した。自分の部屋へ向かうようだ。


 王の小さな溜め息は、疲れたギルバートの耳には聞こえなかった

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