22.

 ユリウスとルミエールが辞去して間もなく、1人の騎士がシャラの元を訪れた。シャラは、その顔に見覚えがある。アルテアで、チェスの立会人だった男だ。


 「百騎隊の隊長を務める、ギルバートと申します。その節は大変ご無礼いたしました。」


 表情を崩すことも無く、シャラに対して深々と膝を折ったギルバートは、姿勢を正そうと立ち上がりかけた途端、突然、前のめりに転びそうになった。


 ギルバートは振り返ると、背後に立っていたジェイドに怒鳴る。


 「何をする!」


 不意打ちでギルバートの背中を叩いたジェイドは、屈託無く笑った。


 「久しぶりだな!元気そうで何よりだ!」


 ジェイドの隣で、リュークも笑う。


 「近衛の隊長だと?ずいぶん出世したものだ。」


 ギルバートは、不満そうに顔をしかめた。


 「ふざけるな!これでも気苦労が多くて、大変なんだぞ!」


 ギルバートは、言ってから「しまった!」と顔色を変え、シャラに向き直り、頭を下げる。


 「た、大変ご無礼いたしました!」


 「構わない。」


 苦笑するシャラに、リュークが説明する。


 「私とジェイド、ギルバートの3人は子供の頃からの剣友でして。国王陛下のご幼少のみぎりより、稽古のお相手を務めておりました。いわゆる、幼馴染みというヤツです。」


 恐縮しきりのギルバートに、ジェイドが尋ねる。


 「ところで、お前は何をしに来たんだ?」


 ギルバートは、軽く咳払いをして威儀を正した。


 「シャラ様付きの6名!陛下がお呼びだ。今夜のシャラ様の警護は、百騎隊が引き受ける。直ちに陛下の執務室へ行け!」


 行って参ります!と部屋を出て行く騎士達を見送りながら、シャラは少し寂しさを感じていた。


 その寂しさが、賑やかな騎士達が居なくなったことによるのか、自分に声が掛からなかったせいなのか、シャラは全く考えてもみなかった。



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