10.
広間に集まった者達は、物音一つたてず、恐怖の色さえ浮かべて、中央に並んで立つシャラとログレス王を見つめた。
怒りに体を震わせながら、血走った眼で高みから2人を睨む、アルテア王の荒い呼吸の音だけが聞こえる。
「勝負は、引き分けでございました。」
笑みを浮かべたログレス王の言葉に、王座の肘掛けを強く掴んだリチャードの指は折れんばかりとなり、体の震えは一層激しくなる。
が、お構いなしにフィリップは続けた。
「さすが、アルテアの王弟殿。手強い相手であられる。シャラ殿のような方がおられる限り、我がログレスも手出しは出来ませんな。」
笑いながらもヒタリと冷たく見据えたログレス王の視線と、憤怒に燃えたアルテア王の視線がぶつかり、火花が散った。
「…では、私はこれにて失礼致します。」
優雅に一礼すると、フィリップは踵を返し、ゆっくりと広間を出て行った。
シャラは、一度もフィリップを見なかった。
「シャラ!貴様!あの男と、一晩何をしていた!!」
ログレス王の姿が消えた途端、王座から怒声が降り注いだ。
「あの男と淫らな振る舞いに及んだのか!? 答えよ!」
シャラは黙って立っていた。「違う」と誤魔化せばいいのだろうが、それをしてはいけない気がした。
ふと、亡き王妃の姿が思い浮かぶ。
13年前のあの日、シャラの暗殺を指示したとして、王妃が父王に詰問されたのも、この広間だった。
シャラは覚えている。王の怒りに何の弁解もせず、ただ凛と立つ王妃の姿を。
(王妃様は、立派な方であられた。)
時折、王妃のことを思い出すにつれ、シャラは震えるような想いを抱く。王妃様は正しかったのではないか?と。自分はあの時に殺されていた方が、アルテア国の為ではなかったか?と。
「答えられないのか!? 貴様はアルテア王家の恥だ!私が手討ちにしてくれる!!」
剣に手をかけ、王座から立ち上がった兄王に、シャラは黙って床に跪き、首を差し出す。視界の片隅で、ジェイド達が腰の剣に手を伸ばそうとしているのが見えた。
だが、王を止めたのは次兄のミカエルだった。
「まあまあ、兄上。落ち着いて下さい。」
ミカエルは歪んだな笑みを浮かべた。
「あの男が言っていたではありませんか。『シャラが居るかぎり、アルテアに手出しはしない。』と。シャラを殺せば、ログレスが
「しかし!!」
「むしろ良いことではありませんか。あの男、シャラに随分と執心な様子。シャラを餌にすれば、アルテアに何かと有利になるでしょう。」
「だが、あやつはー!!」
「シャラ。お前は自室で謹慎しろ。」
氷のように冷たいミカエルの声に、シャラは無言で立ち上がり、広間を後にした。
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