第37話
久保山はあっさりと落ちた。
合田のアリバイは崩れた。
本間の友人である久保山が落ちて」たことにより、本間も落ちることになれば、合田を引ける。
そうなれば事件解決になりそうなので捜査本部長以下大喜びだった。
捜査が一端壁にぶち当たっていたので捜査員たちの安堵感は大きかった。
「明日にでも本間を引いてこい」
管理官は捜査員たちに命令した。
翌日、「吸い上げ班」たちが本間を任意同行してきた。
取調べは河野と生駒のコンビだった。
深津たちはフォローに回った。
本間は久保山が吐いたことを分かっているようだった。
平然としている。
それがどういう覚悟なのか分からなかったが、頼むから素直に吐いてくれと隣室でモニターを見ていた深津は祈っていた。
ここでゴネられると煩わしい。
本間はしばらく黙秘の態度をみせていた。
「久保山がしゃべっているんだからあんたがだんまりを決めてもどうしようもないぞ。時間の無駄になるだけだ。それに何もしゃべらなければ殺人の共犯にされてしまうぞ」
本間の目が泳いでいた。
彼の中では合田夫妻を裏切りたくないという気持ちが強いなのだろう。
葛藤が始まっているのだと河野はこんこんと説得をし続けた。
取調べが始まって1時間、思い口が開いた。
「刑事さんが言うことに間違いはありません」
本間が落ちた瞬間だった。
「すぐに合田夫婦の身柄を取れ」
深津たちは合田夫婦に張り付いている「行動確認班」の連中に連絡を取り、夫妻がそれぞれの勤め先に出ていることを確認して、夫の勤めている病院に向かった。
地域でも大規模な病院は、京浜東北線の駅から1キロくらいはなれた場所にあった。
待合室にも多くの人で溢れていた。
ほとんどが高齢者ばかりだった。
薬局は1階の受付の奥にあった。
医薬分離で処方箋で薬を出す薬局ではなく、入院患者のための調剤をしている院内薬局だった。
合田は薬剤師の主任だった。
いきなり姿を現した深津たちに薬局にいた職員たちは騒然となった。
合田は真面目で人の面倒見が良い上司だという評判を他の刑事たちの捜査情報から得ていた。
だからであろうか他の職員は憮然としていた。
「合田さん、緑ヶ丘連続殺人事件の重要参考人として署までご同行願います」
合田の表情が一気に変わった。
ひとことも発しなかった。
肩を落として深津たちに腕を支えられて歩いた。
支えがなければ崩れ落ちそうだった。
署に向かうまで深津は合田に何も話しかけなかった。
話かけるどころか顔をまともに見なかった。
合田はもう観念していると察したのだ。
往生際の悪さはひとかけらもないような感じだった。
すべてを話すだろうと思ったのだった。
妻の都も勤め先のドラッグストアから任意同行されて署に連れてこられていた。
もちろん取調べ室は別々だ。
もしふたりが完全自供して逮捕されれば、起訴されて裁判になる。そうなればもうふたりは会うことはない。
裁判も別々になり、服役になっても収容される刑務所が違うことになる。
少なくとも10年以上は会うことは出来ない。
もしも、どちらかに死刑判決が出れば永久に会えないということになる。
深津は署に向かう車中でそんなことを思い浮かべた。
合田夫妻はその日の朝、もう会えなくなると考えたのだろうか、その日が夫と妻の今生の別れになる可能性も考えたことがあっただろうか。
合田夫妻が数10分の差で捜査本部のある西三郷署に着いた。
署に入り口にはマスコミが列をなしてた。
一斉にストロボの光が飛んできた。
合田博幸は上半身を折ってカメラをよけた。
#38に続く。
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