第34話

埼玉県警捜査1課の河野と窪中は合田夫婦と事件当時麻雀をしていたと証言した男たちに連絡を取り、会う約束をしていた。

ひとりは警備員をしている本間和人48歳。

もうひとりは会社員の久保山真47歳だった。

本間は24時間体制の警備の仕事をしているので、勤務が終わったあとに勤め先まで行って会うことにした。

京浜東北線の駅の前にある商業ビルが本間の勤め先だった。

通用口から出てくる本間を待ち、近くにある喫茶店で話を聞くことになった。

席に着くなりタバコを取り出しさも美味しそうに吸う本間に合田夫婦とのなれそめを聞いた。

「旦那さんが勤めている病院の警備をしていたので知り合ったんです。合田さんは本当に良い人で、お子さんを失くされたときの落ち込み方がひどくて見ていられなくなって気晴らしになればということで麻雀に誘ったのがきっかけですね」

「麻雀以外に付き合いは無いのですか」

「ありませんね。働く時間帯が違うので」

「それにしても事件のある日に限って2日も麻雀をやっているのは不自然ですね」

「たまたまでしょう。疑われているのですか」

「そういうわけではありませんが、今だに犯人に繋がる有力な情報がないものですからおさらいのような感じで捜査しているような状況なのです」

「ご苦労さまです。でも、確かに2日とも夜から朝まで麻雀をしていたことは確かです」

「朝というと何時までですか」

「10時ころまでですかね」

「誰が勝ったのですか」

「長い時間やっているとツキが一巡するんです。そんなにへこんだ人はいなかったと思いますよ。私は少しプラスだったけど。これって賭け麻雀で逮捕されることになるのでしょうか」

「いやいやそんなことはしません」


本間の次に会ったのは久保山だった。

都内のリース会社に勤めているので、昼休みに食事をしながら話を聞いた。

「あなたと合田夫妻とのなれそめを聞かせてください」

「本間君からの紹介です。本間君とは高校のときの先輩で、昔からの麻雀仲間だったんです」

「ではそれほど合田さんとの付き合いは薄いですね」

「そうですね、あくまでも麻雀をやるだけの関係ですよ」

「合田さんはどういう人だと思いますか」

「普通の人ですよ。子供を失くされているので気の毒なの人だと思いますが、麻雀をしているときはそんな話はまったくしませんし」

「その日は誰が勝ったのですか」


合田夫婦と本間にも同じ質問をしていた。

同じ質問をすることで4人の間に少しでも違う証言が出たらそこが突破口になることがあるからだ。

「あんまり差がなかったと思いますよ。わたしはちょいへこみだったです」

久保山も同じ答えだった。

麻雀は合田の家でしていたので、第三者の証言はない。

本間と久保山が嘘をついていない限りアリバイは完璧だった。


「河野さんはやはり合田がホンボシだと思いますか」

「おれはそう思う」

河野の口調を強めた。





#35に続く。





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