第33話
深津たちは15年前に起きた高校生殺人事件で被害者となった合田真平の家に来ていた。
両親に再度事情聴取をするためだったが、深津たちの胸のうちには両親がホンボシだという思いが強かったのである。
合田博幸58歳。
薬剤師として永年大学病院に勤務しており、薬局の主任薬剤師だった。
メガネをかけた飄々とした風貌であぅたが、刑事を目の前にしても一切動じることがない。
表情ひとつ変えない芯の強さを感じる男だった。
妻の都は52歳、同じく薬剤師でドラッグストアに勤務している。
この夫婦には殺された男の子以外に子供はいなかった。
「亡くなられたときはさぞかしショックだったでしょう」
深津は同情するようなふりをしていた。
いや、実際深津にも子供がいたから、子供が理不尽な死に方をしたら正気ではいられないくらいの悲しみが襲うことは想像がついたのだが、捜査に同情は禁物である。心を鬼にして聞きださなければならない。
「もう思い出したくもありません。15年ですよ。今更そのことを引き合いにだされても私たちにとっては迷惑以外の何ものでもありません」
表情が変わらない。
この夫婦は子供を失ったことで喜怒哀楽の心をなくしたのかも知れない。
「それは分かりますが、なにしろ事件の目撃者3人が死んでいるのですから捜査をしなければならないのです」
「それで私たちが犯人として疑われているというわけですか」
「正直に言ってしまいますと、そうです」
深津はずばりと言ってのけた。
あまりにも直裁に行ったので同行した生駒は呆然とした。合田夫婦もやや表情が強張った。
「ですからアリバイの確認をもう一度させてください」
合田博幸は怪訝な表情を浮かべた。
「何回も説明したじゃありませんか」
「私たちも仕事なので申し訳ありません」
「まず9月20日のことですが、その日私と妻は一晩中麻雀をしていました。そして9月28日も同じく徹夜麻雀をしていました。同じメンバーです」
「その方たちとはどういう関係ですか」
「永年の友人です」
「どこで麻雀をしていたのですか」
「友人宅です。彼には家族がいないので迷惑にならないのでね。彼の家には全自動の麻雀卓があるので、いつもそこでやっています」
「よく徹夜麻雀をされるのですか」
「はい、ほとんど毎週ですね。子供がいない私たちにはそれしか楽しみがないのですよ」
「殺人事件の起きた日に重なっていますね」
「偶然です」
「両日とも朝までずっとその家にいたのですね」
「前日の9時ころから始めまして、翌朝の11時くらいまでやって、少し休んでから家に帰りました。その前にスーパー銭湯に行って汗を流しまして、それから買い物をして家に帰り寝ました」
「誰が勝ちましたか」
「徹夜麻雀をするとツキが一巡するんですよ。だからおおへこみすることはないことが多いんですけど、どうだったかな」
「私のひとり負けだったわ」妻が発言した。
「リベンジしよとしたんだけど返り討ちにあったんだよな」
「そうだったわ」
ふたりの供実には曇りがなさそうだった。
だが、それでは両親の容疑は晴れてしまう。
やはり鍵を握るのは一緒に麻雀をしたふたりの友人にあると深津は考えていた。
#34に続く。
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