第32話
西三郷署の深津と生駒は15年前に起きた高校生殺人事件の被害者合田真平の両親の住む埼玉県さいたま市に向かっていた。
「父親は確か薬剤師でしたね」
生駒は運転しながら深津に確認した。
「そうだ、たしか事件当時は大学病院に勤めていた」
「母親も薬剤師だったとか」
「ドラッグストアに勤めていたように記憶している」
「本部の連中が捜査担当で、アリバイありの結果でしたけど、深追いはしなかったみたいですよね」
「緑ヶ丘住宅に現れた不審者の捜査に全力を挙げていた」
「そうですよね。彼がホンボシだとみていましたから」
「決まりだと思ったのだが、奴が黙秘しているうちに石橋薫が行方不明になったのだから、俺たちは振り回されている」
「やはりこのヤマは結局単純な話のような気がします」
「高校生の親がホンボシだということだよね」
「そうです、そう思いませんか」
「だからこうやって来ているんだろ」
深津は苛立った。そんな分かりきったことを聞くなという表情をした。
合田博幸と都夫婦が住んでいるのは、京浜東北線の蕨駅からバスで10分ほどかかる住宅街だった。
その日は日曜日ということもあり、住宅街にはこれから出かけよという親子がクルマに家族を乗り込ませようとしているところを何度も目にした。
午前の早い時間帯でもあり人影は少なかった。
部活に向かうジャージ姿の高校生や中学生が自転車を懸命にこいでいた。
合田の家は住宅街の奥にあった。
同じような作りの家が並ぶ普通の大規模開発の住宅街だった。
チャイムを押すとなかから妻の都が出てきた。
「西三郷署の深津と生駒です。お話を伺いたいので中に入れてもらってよろしいでしょうか」
都はあからさまに嫌な顔をした。
「休みの日に何だというのですか」
「ほんの少しお時間をいただきたい」
深津はにこりともしないで答えた。
迫力があった。
刑事特有の威圧感だった。
都は「少しお待ちください」と言って、家のなかに戻った。
しばらくして深津たちを家に招きいれた。
リビングには合田博幸が着替えて待っていた。
「どのようなお話でしょうか」
「息子さんが殺された事件の目撃者のひとりである石橋薫さんが自殺したことはご存知ですね」
「テレビのニュースで知りました」
「石橋さんの死により目撃者全員が亡くなったということになります」
「それがどうかしましたか」
合田博幸は落ち着いていた。
目が据わっていた。
何ものにも動じないような気構えを感じた。
#33に続く。
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