第25話

15年前にさいたま市で起きた高校生殺人事件の被害者合田真平と同じ中学の同級生だったことが分かった、吉野正晴の部屋のチャイムを鳴らした深津は何の応答もないことに苛立った。

「生駒、裏に回れ」と指示をした。

「吉野さん、出てきてください。西三郷署の深津です。ドアを開けてください」

ドアを思い切りたたいた。

隣の住人が驚いてドアを開けて様子を伺っていた。

「いるのは分かっていますよ。開けてください」

何も音が聞こえない。

しばらく待ってまた激しくドアをたたいた。

「吉野さん」

ひと際大きな声で叫んだ。

それでも何の反応もない。

深津は管理会社から預かっていた鍵を取り出して鍵を開けた。

アパートの間取りは1DKで、入るとすぐに台所があり、ガラスの引き戸の向こうが和室になっている。

ガラス戸は閉められていた。

中に入って確認すると窓が少し開いていたが、なかには誰もいなかった。

窓を開けて外を見ると真下に生駒がいた。「

誰もここから出ていないよな」

「はい」

「逃げられたぞ」

「本当ですか」

「誰もいないぞ」

いつ逃げたのか分からない。

とにかく吉野は張り込みの目を盗んでその部屋からいなくなっていた。

「同居している女を引っ張らなければだめだ」

深津は本部に連絡して同居している水野真紀が働いているパチンコ屋に捜査員を向かわせるように要請した。

生駒も部屋のなかに入り、部屋のなかを捜索した。

歯ブラシと筆記用具などをビニール袋に入れた。

「鑑識を呼んでDNAが採れるものを採取してもらおう」

深津たちはアパートを後にして本部に戻った。


深津たちが署に戻ってしばらくすると水野真紀が捜査員たちに連れられてやってきた。

すぐに取調べ室に連れていかれた。

「吉野さんはいつからいなくなったのですか」

「・・・・・」

「吉野さんはもしかすると殺人事件に関与しているかも知れません。あなたが黙っていたらあなたも共犯にされますよ」

県警の捜査1課の河野が厳しい表情で話していた。

水野真紀はうつむいていて何もしゃべらない。

「この女もだんまりかよ」

河野は心のなかでため息をついた。

どんな言葉を投げかけても口を開こうとしない。

「こうなったら重要参考人として女をしばらく止めておける。我慢比べになるぞ」

松野管理官は深津たちに向かって言った。


吉野は緑ヶ丘住宅連続殺人事件の重要参考人として指名手配された。

捜査本部は一気に活気付いていた。

吉野がいたアパートのまわりと最寄の駅の防犯カメラ映像が捜査員たちによって1週間前から徹底的に調べられた。

防犯カメラ映像の解析専門のチームが本部に派遣されて24時間体制で集められた映像の解析作業が始まっていた。

次の日、最寄の駅に吉野の姿があった。

ホームのカメラに記録された映像によると都心方面の電車に乗り込んでいたことが確認された。

都心に向かったことが分かったので、警視庁にも協力を要請して各駅のホームの映像から吉野の行方を追うことになる。


捜査会議で、管理官から

「吉野の足取りは駅の防犯カメラ映像から降りた駅が分かったら漫画喫茶やカプセルホテルなどの捜査に向かってもらうことになる。ここが勝負だぞ」


捜査員たちはもう一週間以上家に帰っていないものがほとんどだった。

管理官は交代で一時帰宅させ、一服の休息を与えて、追跡捜査に備えるように指示をした。

深津も約8日ぶりに家に帰った。

午後4時だった。

連絡してあったので妻が食事と風呂を沸かして待っていた。

「泊まれないの?」

「ああ、午後8時には本部に戻る」

まず風呂に浸かった。

心の底からと全身から疲れが出てきたようだった。

体の芯までお湯の温かさが染みてくるような感じだった。

食事をしてソファに横になって目を閉じると深い眠りに入っていた。





#26に続く。



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