第24話

その女がアパートから出てきたのは、午前11時過ぎだった。

毎日同じ時間帯に出てくる。

捜査員が追跡したところによると、駅前のパチンコホールで夕方まで働き、そのあと二つ先の駅のそばにあるスナックで深夜まで働いて、店のクルマで送られて夜中の2時くらいに帰宅する毎日だった。

行動確認が2日間終わったところで深津はアパートの前で帰ってきた女に声をかけた。

「2階にお住まいの方ですね。同居する男性についてお話を伺いたいのですが」

目鼻立ちのはっきりした南洋系の美人だった。

年は25歳くらいであろうか。

身長が160センチ以上はある。

「はあ、何ですか」

いきなり警察官に声をかけられて訝しい表情になっていた。

深津はバッジを示したままで優しく微笑みながら言葉を続けた。

「一緒に暮らされているならお分かりかと思いますが彼はある事件の重要参考人なのですが、警察では名前も話してくれません。私たちは彼の行動確認のために捜査員を張り込ませているのですが、あなたも迷惑でしょ。どうか彼の名前とかを聞かせていただけないでしょうか」

彼女は困惑した顔になり、しばらく立ち尽くしていた。そして、口を開いた。

「彼は吉野正晴といいます」

「ありがとうございます。それでどんな仕事をしている人なのでしょうか」

「この前までコンビニでアルバイトをしていました」

「どこのコンビニですか」

「駅前です」

「そこにはいつごろまで働いていたのですか」

「1ヶ月前までです」

「野暮なことを聞きますが吉野さんとはどういう関係なのですか」

「付き合っています」

「結婚を考えているとかですか」

「結婚は考えていません」

「今はずっと家のなかにいるのでしょ」

「そうです。もう仕事に行かなければならないのでいいでしょうか」

深津は彼女に感謝の言葉を言って頭を下げた。

彼女があっさりと捜査に協力してくれたことに本心で感謝していた。


深津はすぐに駅前のコンビニに飛び込んだ。

店長に事情を話して吉野正晴の履歴書を確認した。

それによると吉野は32歳。

出身はさいたま市だった。

本籍地がさいたま市とあった。


だが、その住所が深津たちを驚かせた。

被害者たちが住んでいたマンションに近い住所だった。

連絡先として吉野の両親の電話番号が書かれていた。

捜査本部に連絡して両親に話しを聞いてもらうようにした。

深津たちは吉野がいるアパートに戻った。

そのころには本部でデーターベースから吉野正晴の情報が調べられていて連絡が入り、逮捕歴、犯罪歴ともに無いことが確認された。

深津は考えていた。

同居している彼女が何故あれほどまでにあっさりと吉野のことをしゃべったのかということを。

もしかして、彼女は吉野と別れたがっているのではないか。

現在はヒモのような生活をして、家から出ない吉野に愛想をつかしているのではないか。

だから警察にあっさりと吉野の情報を教えたのではないかという想像だった。


さらに本部から吉野の両親からの情報も届いた。

それによると、吉野は高校生殺人事件の被害者である合田真平と同じ中学校出身であることも分かった。

深津と生駒は吉野の住むアパートの部屋の前に行き、チャイムを押した。





#25に続く。





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